第9話 ケイオス防衛準備
冷淡かつ悪魔的なアスタリアはみんなに戦争宣言と白骨龍の討伐宣言をした。
広場でみんなに動揺が広まったが、みんなの安全と私の落ち着きを取り戻すために必要なのだと伝えたら納得してくれた。
獣人の警備隊から30人ほどを選抜して白骨龍の討伐に行くことにしたが、今回は向かう歩行を変えてくれればいいからなるべく被害を出さない人数にしたのだ。
「文句がある者は前に出て言いなさい!さすがに今回ばかりは私もキレちゃったんだがら仕方ないのよ!」
この発言に誰も暗く沈んで止まらなくなったアスタリアに反対できなかった。
暴君アスタリアの心を覗けるマキナは中から正体を見ている。いつでも止められるのにこれを止められなかった。
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マキナは魔法であってもただの魔法じゃない。人工知能に近い。
そんなマキナはここまでの間にアスタリアの心を見て恐怖していた。
その理由はアスタリアが感情によって人格を入れ替えていたからだ。
アスタリアは何もかもが規格外だから何があっても不思議じゃない。
しかも、暗い展開になるのも病みが居たからだ。
マキナは今回の件を終わらせるにはまとめる必要があると判断した。
アスタリアには悪いけど、この最悪なタイミングでことを起こす。
そうしてマキナが自動で魔法を作成して行使した。
それによってアスタリアの体は光を放ち、四つに分かれてしまった。その分身長も縮んで140cmくらいになった。
みんながいる前でこんなことが起きたので、アスタリア自身も何が起こったのがわからず混乱した。
『アスタリア様達、落ち着かれましたか?こうすべきと判断して分裂させました。これで感情も制御できるはずです』
マキナの機転で我に帰った本体のアスタリアは突然泣き始めた。
それに対して他の三つのアスタリアは今にも暴れそうだった。
「マキナ、感謝する!これなら怒りでやれそうだよ!」
漆黒の髪のアスタリアはさっきまでの〈怒り〉の具現化で雷鳴国に今から攻め込むつもりでいる。
「おやめなさい!怒りで国を滅ぼそうなど、言語道断ですよ!」
気高く高貴な振る舞いをする淡い水色の髪に着物を着込んだ〈傲慢〉のアスタリアは〈怒り〉を制しながら踏ん反り返った。
「今はそれより骨をバラすのが先だよ。バラバラにして元居た場所に返してやろうよ」
グレーの髪で不気味な顔をしてる〈病み〉のアスタリアは2人をビビらせるような負のオーラを放った。
この様子を見たマキナは、これはやっちゃったと思いながら黙ることにした。
解決策でこうなったのなら自分のミスだから、黙っておくのが得策だ。
自分同士の喧嘩に呆れた本体のアスタリアは剣を収納魔法から取り出して他の自分達に向けた。
「あなた達は私であって私じゃない。新しい名前をあげるから私を姉として言うことを聞きなさい」
どう考えても力のある本体に3人とも逆らえずに黙った。
マキナが本体の裏にいるし、分け与えられた魔法の中でも本体の魔力系魔法は強力なので黙るしかなかった。
みんながまだ困惑する中で本体は3人に名付けした。
てか、ここまでめちゃくちゃに色々としてるのにまだ数週間しか経ってない。
これだけの変化が続けば狙われるのも仕方ないだろうと本体は思った。
「長女の私がアスタリアで、次女の怒りがクレイズ、三女の傲慢がヒスタ、四女の病みがメンセルね」
公開処刑のように広場のみんなの前で3人の分離体はそんな名前を与えられた。
これによって本体は相当な魔力を消費したので倒れそうになったが、その状態でここの主人と3人の姉として言った。
「悪いけど、みんなにはこれを受け入れてもらう。私のミスで感情を制御できずにこの子達を出してしまったから、未熟者だけど私と思って言うことを聞いて欲しい。ただ、3人はすでに私の意思を伝達してるからやることは分かってる。後は任せた」
アスタリアは自身の残った力を出し切ってそう伝えた。
そこからは3人と姉の意思に従うようになって人間らしい従順な状態になった。
その3人が頭を下げて了解したのを見届けてから、アスタリアは意識をなくして倒れた。それをメアがキャッチして、3人にその場を任せて立ち去った。
姉からこの場を任された3人は自分達を本当の姉妹と思って動き始めた。
「気づかないうちにバラバラになってこうなった」
「それで生まれた私達を理解できて無いんでしょうけど、この場を任された私達に従いなさい」
「チビだからって侮るなよ」
3人はさっきまでのバラバラ感を無くして中心の人格に従って自分達も主人であるように振る舞った。
その3人には別々の使命があるから、それを果たすために姉の意思に従って動いた。
「さぁ、僕に従ってここに残る者達は骨狩りに行くよ。その前にクレイズ姉さんにあっちに連れてくメンバーを選んでもらうけど」
四女メンセルは病んでる人とか、お化けみたいな人が無駄にしてるふらふらした動きをやりながらそう言った。
どうやらアスタリアから白骨龍の討伐を任されたらしい。
ただ、戦闘を出来る種族の残り全てを連れて行っていいことになってるから、その肩には責任が重くのしかかっている。
「それじゃあ、警備隊の中で私に付いてきたい奴だけ来な。相手は雑魚だから強要なんてしないよ」
背中で引っ張って行くタイプの次女クレイズはそれだけ言って戦闘準備に向かった。
その勇ましく力強い背中は男のようだが、アスタリアより頼りがいがあった。
それ故に警備隊の半分がクレイズについて行った。
何も言わなくても戦いは解決してくれそうなクレイズはいずれアスタリアとは違うタイプの王になるかも知れない。
「はい!それじゃ、非戦闘員は仕事に戻って私にも仕事を教えてちょうだいね」
パチンと手を鳴らして自分に目を向けさせてそう言った三女のヒスタは、傲慢でありながらあまり他人を見下さないようにして戦えない味方に安心を与えようとした。
このヒスタの使命はここの発展。安全状況で自分も戦わずにそういう普通のお仕事をする。
もはやアスタリアの一部なのか疑うレベルで安全だ。
クレイズとヒスタが自分達の連れて行く仲間を引き連れていなくなった所で残りを連れて南を目指す準備を始めた。
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この短時間で白骨龍がかなり移動したが、ケイオス周辺に部下を送り込んでいたバーレイドは焦っていた。
魔王にしてくれる約束を果たさせるには録画魔法でアスタリアがやられる様子を撮る必要がある。
それを持って行くことで謎の人物も満足するし、魔王化するのに必要な2人の魔王に手土産として持って行くことも出来る。
それは必ずアスタリアでなければいけない。
それなのに4人に増えたという報告をされた。しかも、本体以外は新しい名前をつけられたとも言われた。
「なぜだ。なぜだ!なぜだ!!なぜだ!!!」
慌てたバーレイドは右往左往して思考を巡らせた。
復活させるまではうまくいったのにこれはまずい。
4人の中で本物をやれなければ自分の命はない。
しかも、雷鳴国からも運が悪く王が来ていたらしい。
それを感情を暴走させたアスタリアが殺したと聞かされた。
そうなればこちらと同時にあちらの戦争もすることになる。
それだと本体の行き先が分からなくなる。
予想外すぎてダメでしたはあの人には通用しない。
ここでしくじるのは死を意味する。
ここまで来て逃げるのも死ぬことになる。
逃げ場なんてどこにもない。
やるしかないのにこの状況。
もはや死んだ方がマシな状況になってきた。
どんなに考えても死しかない。
「あはは、こんな所で人生を詰むなんて。こうなれば最後に嫌がらせをしてやる」
焦りで死を選択したバーレイドは距離を取っていた白骨龍に自分から近づいて噛み殺させた。
一瞬でバーレイドは食われて姿を消した。
これによって奴は進化した。名前と魔力を得た結果だ。
奴は手に入れた力と名と意識に感謝した。
そして、大笑いして喜んだ。
「ガハハハ!我の名はバーレイドである!命を捧げた偉大な男の名は我のものとなった!魔王種としてくれたことにも感謝する!貴様の願いは魔王になることだったようだが、我としてそれは叶えられたぞ!」
全身が骨の龍王はバーレイドの記憶も受け継いだらしい。
骸骨龍王に進化させてくれた元の者に感謝しながら、奴は元のバーレイドが諦めたアスタリア殺しを代行することにした。
この2人が揃ったから自分が奇跡的に進化したのだから、お返しにアスタリアを絶対に殺すと誓うことにした。
そして、笑いながら移動を続けた。
北のケイオス目指してまっすぐに突き進んだ。
寄り道をしなくなった分、さっきまでより格段に速度を上げて北の国境に近づいた。
ケイオス到着は後2時間ほどだろう。
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その様子を遠くに配置した部下の目から見ていたあの謎の人物は嬉しそうにしていた。
あのバーレイドがこうもあっさりと命を投げ出すとは思っていなかった。
だが、そのお陰でケイオスごとアスタリアが消えるのも時間の問題。
奴がいなくなれば危険な大魔法使いは後7人だけになる。
継承も何も出来なくするにはアスタリアがやりやすい。
その判断は間違っていなかった。
急成長するアスタリアを芽のうちに刈り取れば今後に再度不可侵条約が出される心配も無くなる。
この人物にとってはこんなチャンスは滅多にない絶好のタイミングなのだ。
「奴を消せばそれだけで大魔法使いは崩壊する。内部から壊せればこれほど楽に世界を手に入れられることはない」
悪の親玉かと言いたくなるような謎の人物は、自分の部屋の椅子の上でそういう独り言を言った。
強すぎる危険分子は早めに消される。
この人のような敵は今後増えるかもしれない。
そんな相手を放置するほどアスタリアは甘くない。
今回は相手の実力を見れれば満点と考えた。
最後には自分が処分に出ようと思っている。
「さて、これからも報告してもらう」
報告してくれた部下にそう言うと、全く返答が無かった。
おかしいと思って何度も声をかけると、小さな声で返答があった。
「魔女の…守護者…魔王メア…前より強く…なってます…」
その声を最後に完全に報告は無くなった。
つまり、魔王メアがあんな遠く離れた場所に現れて殺したことになる。
それを確かめるために目で録画させていた映像を確認した。
謎の人物は流石にそこに一瞬映って見えたメアが邪魔したのを見て、バカでも誰が関係してるのかバレたと思ったが、やっぱりそんなに頭が良くないのでバレなかった。
それでも遠く離れて気配を隠していた観測者がバレたということは、魔王メアが成長した可能性がある。
この人は警戒対象を増やした。
今後メアも狙われることになるだろう。




