第8話 蛇の暴走開始
情緒不安定な蛇が脱皮する。
蛇は怒りで時間を狂わせた。その始まりは王との対面から。
最南端で化け物が復活した頃、ケイオスではアスタリアの元に西側の国の一つである雷鳴国の王が来ていた。
「私は人間が嫌いだ。お母さんを傷つけた貴様らを私は許さない」
〈蛇のアスタリア〉が本気で怒りを示した場に居合わせたケルタとメアは、その殺意と圧に押されながらもアスタリアを落ち着かせようと隣から努力していた。
しかし、この世界に呼んでくれた恩と、一応母親だから愛がある。
あの人のために怒るアスタリアを止めることは誰もできなかった。
「悪いとは思っている。ここに来て初めて理解した。余達人類は底が知れぬものが怖かったのだ。許してほしい」
お忍びで来てくれた王は勇敢で屈強な男だ。
そんな男がアスタリアという子供に頭を下げたこと自体がありえないことなのに、アスタリアは怒りを鎮められずに彼に命令した。
「私はこれでも優しい。貴様が私を満足させられれば許してやる。だから、地に頭擦り付けて許しを請え」
高圧的なアスタリアに対してライデン王はその命令に従って、椅子を降り頭を地に擦り付けて謝った。
俗に言う土下座をこの世界でさせたのだ。
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こうなったのは2日前にライデン王が自分達の安全と、大魔法使いの加護を得ることを考えついたのが原因だ。
大魔法使いが復讐できるようになったのなら、その大魔法使いを生み出した国は特に気をつけなくてはいけない。
この雷鳴国が気をつけなくてはいけないのは今は亡き〈蜥蜴のアルメリア〉だ。
王達は近いからケルタとアスタリアの加護を得ようと考えたが、そのアスタリアがアルメリアの娘であることを知らなかった。
そのせいで王は堂々と国民に言ってしまった。
「余が必ずこの国の安全を手に入れて見せる!蛇と猫との条約を結んでやるから安心して待っていろ!」
そう言ってしまったから王にはアスタリアに折られるわけにはいかないのだ。
さらに、娘や妻にも子供の大魔法使いなら簡単に相手してやると宣言もしてしまっている。
2日前の自分を後悔しながら王は思う。
自分の先祖の腹心の部下だったアルメリアをなぜ捨てたのかと。
そうしなければこうならなかった。
今では魔物と人間が共存できるようになったのだから、昔から共存の道を選んでくれていればこんな屈辱を受けることはなかった。
それでも、この怒りで国を滅ぼされるくらいなら、屈辱を受けた方がマシだ。
まだこの王には国民を優先しようとする気持ちはある。
心が折れない限り負けではない。
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私はこの王の心の強さに勝てる気はしてなかった。
王がここに来たとき、私は意地悪をしてお母さんのことを話した。
「ねぇ、私のお母さんってアルメリアなんだけど。知ってる?」
そうしたらこの王様が懺悔を始めた。
それを聞いて許してやろうと思ったけど、一瞬でも気を抜いたら殺してしまいそうになるくらいに腸が煮えくりかえっていた。
あっ、私ってお母さんに愛が芽生えてたんだって心で気づかされた。
そこから少し話して冒頭に繋がる。
私は土下座した王を見ても溢れる怒りが鎮まらないのを感じた。
この一族にお母さんは傷つけられた。
許せるはずがない。
殺してしまえ。
殺せ。
殺せ!
殺せ!!
「落ち着け。僕ならこれ以上は望まない。同じ隔離された大魔法使いが言うんだ。信じてくれ」
いつもと雰囲気が少し違うケルタは暴走してめちゃくちゃになっていた私を止めた。
ちなみに、アスタリアの魔法は特殊だから、来た王が母を苦しめた者の子孫であると知って時間も空間も歪めるほどの力を放った。
それがさっきまでのめちゃくちゃな状況に繋がる。
ケルタのお陰で私は暴走して手に入れた固有魔法《時空歪曲》を止められた。
制御できない魔法は私に歪んだ短時間を見せた。
それが余計に制御できなくした。
時間の流れる順番が狂ったり、王の視点で気持ちや出来事も見えて、私の中で時間が繋がらなくなって、ケルタがいいタイミングで止めてくれなければ時空ごと殺しにかかっていた。
ここではケルタに感謝しなければいけない。
私は暴走のせいで魔力を大量に消費して、大汗をかいて体力も使い果たした。
その様子を見てこれ以上は無理だと判断したメアが、ライデン王とケルタに別の場所で話そうと言ってくれた。
正直言って辛いし、このまま話を続ければまた暴走してこいつを殺してしまいそうだった。
どうやらこの世界では過度なストレスを受けるとそれに対処するための魔法を使えるようになるらしい。
もしもそれが憎悪であるなら得られる魔法は確実に殺せるような魔法になる。
メアが2人を連れて出てくれたお陰で1人になってこの魔法とも向き合えそうだ。
《時空歪曲》取得条件はショックで時間の感覚にダメージを受けたとき。効果は使用者に未来も過去も体験させて他者の気持ちも見えるようにしてしまう。その力をうまく使えれば飛ばした時間の先で相手を攻撃することも出来る。しかし、激怒してる状態でなければ使えないことになっている。そのため制御はほぼ不可能である。
皮肉だね。
相手を殺してやりたいと思って手に入れた力が制御できそうにない激怒の時にしか使えないなんて。
確かに私は冷淡で色々なことを受け入れ安い性格をしてる。
でも、怒りを受け入れられそうにない。
一度キレただけであの結果なんだから、受け入れる前に心が持たない。
「なんでこんな世界に来ちゃったかな。こうなるんなら、目的を完全に決めて建国と世界征服とお母さんのお願いにしよう」
1人なった自分の家の一室で体育座りをしながらそう呟いた。
さっきまで力の使いすぎで大汗をかいていたが、今度は涙がぽろぽろと流れ始めた。
お母さんは今の私にとって大切な存在になっていた。
その存在を感じるだけで十分だったのが、今では復讐対象は確実に殺したくなるし、お母さんが傷つけられた環境を知るだけで感情が抑えられなくなった。
そう、この日だけで壊れてしまった。
そうなった私は止まれないから、いけないことだと知りながらしてしまう。
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そう、彼が死ねばそれでいい。
私は《時空歪曲》で過去に少し戻して魔力の刃を手に付与して彼の首をはねた。
誰も私の時間について来れてないかも知れないけど、私は容赦を自分も捨てて戦争の覚悟をした。
だから、スローにすると驚いて見える2人の顔も笑えた。
壊れたから色々なことが出来る。この2人も壊れればいいのに。
「ちょっ!何してるんだよ!アスタリア!」
「アスタリア、これは戦争なる!」
ライデン王が来て私がお母さんのことを聞いたタイミングに戻したから、2人がそんな反応をするのが当たり前だろう。
でも、お陰で私は壊れるか壊れないかの半々の状態に戻れた。
だから笑顔で2人に告げた。
「これ以外に私が混乱して壊れない未来が予想出来なかった」
この短時間はアスタリアにしか認識できないが、壮絶なことが起きた。
難解ではあるがアスタリアがチートを越えた状態になったのだ。
時間を怒りで支配できるようになったとだけ理解できればいい。
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王を殺したアスタリアは宣戦布告として雷鳴国に烏天狗で王を殺した宣言をすることにした。
こんな暴挙に出るのは今回だけと、メアとケルタに約束して戦争準備に入ることにした。
そうした行動をしていると、当然ライデン王の連れて来た兵士は逃げようと考えた。
まぁ、逃がすわけがない。普通にアスタリアが殺した。
お母さんを殺したも同然な国は許さない。
今までではあり得ない崩壊をしたアスタリアは、今回のみ壊れて復讐することになった。
唐突に王様が危険なここにくるべきではなかったね。
そう思いがらケイオスの主、アスタリアは剣を握りしめてそう思った。
そこに配下のハーピーの1人が報告にやってきた。
「アスタリア様!戦争より先にあちらの対処をお願いします!」
慌てた様子の配下にアスタリアはいつもの調子に戻って話を聞くことにした。
「話しなさい。ここが危険になるなら先に潰すから」
「それは不可能に近いと思います!相手は災厄級の白骨龍で、最強クラスの10体の魔物のうちの一体です!」
その報告を聞いた私は嬉しくなった。
ライデン王に切っても治まらない怒りをぶつけられそうな相手が来てくれた。
こっちも討伐戦の部隊を編成しないといけないだろう。
私は奴を相手にしてから雷鳴国を潰すことにした。
私怨をぶつけて何が悪い?頼ってくれた人を傷つけた奴を殺して何が悪い?
人間なんて信用ならない。だから、神や悪魔、占いを信じて生きてきた。
人間なんて滅びればいいんだ。
それがこのアスタリアの考え方だ。
あはは、これが完全な闇落ちってヤツかな。
少し前まで人間との共存も考えてたのに、敵になる奴らは私も容赦なく殺せそうだ。王の時のように。
「みんなに伝えて、奴を討伐できなくても撃退する。それが終わったら雷鳴国がムカついたから滅ぼしに行く。人間は敵意のない奴は絶対に生かして私のおもちゃにする」
それを聞き届けたハーピーは早急に伝えに行った。




