第6話 巣穴の中の蛇
ちょっと色々と急ぎすぎたので今はちょっとした休憩に入っている。
超濃厚な3日間から1週間経って少しは発展してきたので、仕事より私といる時間の方が長いメアを連れて見て回ることにした。
本当に魔法って便利だよね。
もう少し時間がかかると思ってた建築も、優秀なドワーフ達と伐採をやめてこっちにした獣人達でかなり進んだ。
国の中心になるであろう街は簡単に出来てしまった。
「アスタリア、嬉しそう。国作るいいこと?」
「私にとってはとても嬉しいことだし、間違った方向に進む歴史を正せるからいいことさ」
私より断然長く生きてて体も大きなメアに、私は子供を扱うような感じで接した。
メアは幻覚と悪夢を使うのが得意な代わりに知能を捨てている。代償が知能な分、何も考えずに相手のトラウマを引き出したり出来るのが魔王になれた1番の要因だろう。
「メアは魔王として国を治めてるんでしょ?やってるのが嫌なの?」
「メア魔王になって700年。強すぎて誰も近くに来てくれなかった。だから、魔王として同族近くにいる好き」
つまり、メアは700年間強すぎるせいで人間も他種族も近寄らなかったけど、魔王であるから同族は近くにいてくれるから王をしてるのが好きということだろう。
ちなみに、メアの国はサキュバスとかで構成されていて、その頂点に立つ悪夢王メアは永遠に覚めない悪魔を見せられるので全ての夢魔に慕われている。
私なんかより王として成立してる最古の魔王、それがメア・ストロナイトだ。
色々と考えながらメアと話して歩いていると、幹部のウルガ達5人にばったり会った。
「ウルガ、住人1000人分の住居は出来たの?」
「えぇ、余裕で完成しました。勘九郎とフェザーも順調なようです」
さすが、元々そこの長をしてただけのことはあるね。
私はとても感心した。
「アスタリア様、ちょっとよろしいでしょうか?」
「何?コントラ」
コントラはドワーフの長だ。開発部門のトップで他のドワーフに建築と鍛冶を任せて自分は、あのトカゲがいた洞窟を研究所にして色々と作っている。
「回復薬の調合に成功しました。魔法でもいいんですけど、魔力が少なくなってる時に無駄遣いをするわけにはいかない、そんな時に飲むことを想定しています」
小瓶に入ったそれを渡された私は、まず中身をチェックするために栓を抜いてマキナの分析にかけた。
その結果、回復量が少なくて商品としては最低な品とのことだ。
私はそう言われるとこれを表に出すわけにはいかないと思った。
「コントラ、悪いけどまだ魔法の方が効率がいいわ。回復量が増えれば魔王の国に回してもいいと思うよ」
「わかりました。これからも改良を続けます」
ここに来て良かったと私は思った。いいのが見れたし、他にも報告が聞けそうだしね。
まぁ、街の裏道のようなところにいるんだけどね。
「ガスター、あんたも何か言いたいことある?」
「俺からは獣人の警備隊の編成許可をいただきたい。何かあった時のために仕事の無い連中が鍛えているので、警備隊に使えると思うんです」
なるほどね。確かに警備は必要だ。
だいぶ広げたから他の主の魔物が襲ってくる可能性もある。
それ以外にも魔王、大魔法使い、人間、警戒すべき対象はたくさんいる。
「分かった。ガスターを警備隊のリーダーに任命するから、訓練する組と巡回する組と休憩する組に分けて」
「はっ!アスタリア様の期待に応えられるように仕事を遂行してみせます!」
そういうとガスターは獣人らしくすごい速さで走って行った。
そんなに急がなくてもいいのに、私は休暇のつもりでいるんだから。
そう思っていると、この街にいるもう1人の大魔法使いのことを思い出した。
「そういえば、ケルタは何してるの?」
幹部の4人に聞くと自宅でゆっくりしてるんじゃないかと言われた。
あの猫は普段そんなに動かないから確かに居そうだ。
まったく、偉大な大魔法使いというのはそんな奴ばかりなのだろうか。
そう思いながら4人と別れて視察と称して色々見て回ることにした。
私って天才!
街を歩いててちょっと気になることがある。
私はここのルールに恋愛自由と追加はしたが、男女のカップルに混じって同性のカップルもいた。
魔物にも同性なんて考えがあるのか。
そう思ってると、この街に必要なものが思いついた。
「いいこと思いついた!みんなにはお世話になってるからね。労ってあげないとね」
隣にいるメアは全然分かっていなかったが、私は日本人だからね。温泉の一つや二つあってもいいと思うんだよね。
だから、源泉は私が探すからそれの施設をウルガに建ててもらうように頼む必要がある。
だから、後日の仕事に入れることにした。
「アスタリア、また楽しそうにしてる。国作り順調?」
「うん!順調に進んでるし楽しいよ!」
そう返してる時にまた思いついてしまった。
今度のはメアに動いてもらう必要がある。
私が大魔法使いとしてどうしようとしてるのかを伝言してもらうのだ。メアは魔王で向こうの会議に参加するのだから。
でも、今は伝えない。メアに色々な理由を並べられて断られるのも困るからね。
私は悪いことも考えながら視察を続けた。今度は街を見回している。
「建材は色々と用意したけど、私が暴れてる間にどこでレンガなんて作ったんだろう」
本当に私の知らぬ間にレンガを用意していた。
少し前に森に出かけて、帰ってきたらレンガを作っていた。数時間のうちに何があったの!ってガチで驚いたよ。
ちなみに、この世界には八魔王とは別に百魔人と呼ばれる枠があるらしい。
その枠はほとんど埋まってなくて、うちのウルガ、カンクロウ、ガスター、フェザー、コントラ、進化して魔人になった5人を入れて67人しか居ないらしい。
魔人は魔王の一段階前の状態で、うまく育てば八魔王以外に魔王が誕生する可能性もあるらしい。
そんなことをレンガを見ながら思い出していた。
次に私はこの街に何の店があるのか視察しに行った。ウィリア魔法界内部だけで商売することになってもやっていけるだけのものがあるかを見る。
北のメルタナ、西のカンザイ、この二つの街も大魔法使いが治めていて今はうちより立派らしい。
そんなところに負けるなんて私には許せなかった。勝利することに意味があると考えて時々二つの街を烏天狗とハーピーに偵察させに行かせている。
「うんうん。まあまあかな。ハーピーの綿織物とかドワーフの商品が出来れば食べ物以外も売れるね」
進展具合を確かめて私は嬉しそうにした。
まぁ、こういうのが大魔法使いと魔王からしたら変人なポイントなんだろうね。
でも、これくらいしないと人間に殴り込めない。準備不足でこの大陸を私達のものにしようとすれば、負けて地獄に落ちるのが関の山だ。
これ以上見るものがないと思った私は早速メアに伝言を頼んだ。
ちょうど今日の午後からやるそうだ。
その伝言を聞いたメアは何も言わずに瞬間移動で会議場に向かった。
結果が楽しみだ。
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13カ国で開かれる会議、通称〈大陸王会議〉
9人の人間の王と4人の魔王で構成される会議で、この13人以外に会議中は基本誰も入っちゃいけないことになっている。
そこでの今回の議題は大魔法使い〈蛇のアスタリア〉についてだ。
「さて、最近の奴の成長は目を見張るものがある。今回はその蛇姫をどうするかを決めよう」
議長の偉そうなギムラ王がそう言うと、メアとタルトがクスクスと笑った。
それを見て他の王達は少しイラついた。
しかし、相手は人間より強い魔王。故に人間の王達は何も言えなかった。
「蛇姫?私のパートナーそんなん違う。二つ名なら猛毒蛇女が合ってる」
「アハハハハ!言えてるな!彼女は確かにそっちの方が似合ってる!姫なんて可愛らしいものじゃなくて、おぞましいものだもんな!」
楽しそうな2人の発言に1人の魔王が食いついた。それは2人が狙っていた味方にしたい相手だ。
それは子供のような見た目だが、最古参であり最強の魔王〈竜帝女デルタ・ドラグーン〉である。
彼女は一撃で厄災級の魔物を消炭にしたこともある怪物でもある。
「なぁ、そんなにそいつは面白いのか?」
最強にして最悪な魔王が興味を持ったことで王達はまずいと思った。
なにせ、状況的に悪夢王と猫王は相手の手に落ちている。その人達の言葉に釣られたのなら、最強の味方が敵になる可能性が出てくる。
是が非でも止めたいと思ったが、魔王が魔王を釣ろうとしてるので何もできなかった。
「アスタリア私のパートナーになった。国作ろうとする面白い変人。デルタもきっと気にいる」
「あいつなら確かにお前も気にいるな!アスタリアは危険だがいい奴だ!」
「へぇー、貴様らにそう言わせるとは。アスタリアというのは我の所のビーシスより面白そうだな。よし!そのうち遊び行くとしよう!」
アスタリアとケルタの使いにまんまとデルタが釣られた。それをよくないと思った王が1人、止めに入ってしまった。
「待ってくれ!そっちに行かれたら最南端のうちは危なくな・・・」
余計なことを言った彼は話してる途中で消された。
文字通りにデルタの手で血の一滴、髪の毛一本も残さずに消滅させた。本来なら許されないことだが、相手が大魔法使いにも引けを取らない魔王だから許された。
まぁ、彼の国の国民は許さないだろうけどね。
「邪魔をするからそうなるのだ。我は自分のしたいようにするのだから、愚か者には死をもって謝らせるのだ」
金髪ロリでありながら最強の魔王、そんな奴に誰も逆らえるわけがない。
そうしてる間にメアは伝言を思い出したので、空気を読まずにここで言うことにした。
「伝言を思い出した。悪いけど伝えさせてもらう」
メアの空気を読めないその発言にデルタが怒りだすとみんな思ったが、意外なことに静かに深々と椅子に座って話を聞く体制に入った。
腕を組んで偉そうではあるが、アスタリアに興味が本当にあるらしい。
メアは周りを見て話していいと思ったタイミングで口を開いた。
「初めまして、私は〈蛇のアスタリア〉です。メアに言わせる形になったことをまずは謝ります。さて、本題ですが私は大魔法使いをここから解放するつもりです。愚かな人間に内と外からの恐怖を届けましょう。大魔法使いと魔王はこれから不可侵条約を破棄します。では、そう言うことでよろしく。だそうだよ」
伝言をちゃんとした話し方で伝えたメアは誇らしげに椅子に座っている。
そんなメアが気にならないほどに王達は困惑した。
この世界では不可侵条約で内と外で干渉できないことになってるが、内と外の合わせて5名の同意があれば撤廃できる。
そう、アスタリア、ケルタ、メア、タルト、デルタの5人が揃っているので撤廃できるのだ。
それを本気でするじゃないかと王達は心配したが、残念ながらアスタリアの目論見はうまくいってしまった。
「アスタリア撤廃を望んでる。だから、中の2人に合わせて3人必要」
メアがそう言うと、猫王ケルタと竜帝女デルタともう1人の魔王である吸血女王キュラーナが挙手した。
つまり、立案者のメアも含めて6人の同意が集まったのだ。これでウィリア魔法界から大魔法使いは解放された。
人間の時代はこれで終わりを告げるだろう。そんな終焉の鐘の音のようなメアの声がとある国の会議室に響き渡った。
「同意は得られた。アスタリア達解放される。13カ国と魔法界に分かれた人魔分断時代は終わり」
この時から魔王と王達は敵同士になった。
元々この大陸には人間による最低な歴史が続いてきていた。それに魔王達も嫌気がさしていたからちょうどよかったのかもしれない。
本来あるべき人間と人外の対立、人間には分の悪い最悪なぶつかり合いで滅亡する未来、大魔法使いを敵に回した人間の自業自得だ。
不可侵条約の撤廃で自由になった魔王達は、ここにいる意味を無くしたので帰ることにした。
元々この会議は危険な大魔法使いを抑えるために開かれていた。それをする意味が無くなれば解散は当たり前だ。
それで魔王達は立場を取り戻して人間を下に見るようになった。特にメアは王達をにらみつけている。
そうしていたらメアは退室する途中でまだ言うことがあったので不気味に笑いながらそれを話した。
「人間達聞け。アスタリアは悪意ある人間には容赦するなと言ってる。死にたくなければいい子にしてな」
それだけを吐き捨ててメアも他の魔王に続いて帰って行った。
魔王がいなくなった後は人間の王達が新たに会議を始めた。今後生き残るために。
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会議が崩壊した後、魔王達はまず自分達の大魔法使いのところに行った。
そこで報告をして不可侵条約の撤廃に成功した伝えた。参加していない内部の魔王は知らないが、これで大魔法使い達は自由に外に手を出せるようになった。
これで一番得をしたのはアスタリアだ。
母親の歴史を壊して欲しいという願いは少しだけ叶えられた。
それをさらに叶えるのが歴史の汚点である大魔法使いを嫌う人々の処分だ。そこまでしてようやく母親の件を片付けられたことになるのだろう。
とりあえず、今は整備した巣穴から出られるようになったことを喜んだ。
そして、今回の歴史的大事件は各地で情報が広がり、魔法界でもケイオスの烏天狗の新聞屋によって知らされた。
全大魔法使いが今回の件を奇跡と言った。昔にだまされて結んだ不可侵条約は自分達がやったことなので何も言えなかった。それをぽっと出の新入りが撤廃してしまった。
これは無知の勝利であり、ここに閉じ込めてだました人間への復讐のチャンスをくれた救世主だとも言った。
今後大魔法使い達からのアスタリアとケルタへの対応はよくなるのだった。
後々大変なことになるが。




