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21話 チューチューラブリームニムニムラムラ

『緊急事態発生!! 緊急事態発生!! 住民は直ちに街から避難をしてください! 冒険者の方は万全の準備をし西門に集合してください! 繰り返します! 住民は避難を! 冒険者の方は西門へ!』


 街中に鳴り響く、けたたましいサイレンとアナウンス。


「おいおい、やべぇよ、やべぇよ」


「なんで、こんな街に……」


「俺この戦いが終わったら結婚するんだ……」


 それとは逆に西門では冒険者たちが弱気な声でうなだれていた。

 それもそうだろう。俺だって今すぐここから去りたい。


 俺たちがそんなことを思っている理由。そして、緊急アナウンスが出た訳。

 それは俺たちの前方50メートルほど前にいる魔物が原因だった。

 ぱっと見は普通の人間だが、大地に立つその足は鷲のような爪をもつ後肢。そして、そこらの魔物とは明らかに別格の圧倒的存在感。

 

 魔王軍四天王フェイザーと呼ばれているものだ。


「ね、ねぇ、ななななななんでこんな大物の魔物がこんなところに来てるの?」


「……さ、さぁ?」


 エルザのビビりすぎて震えまくった質問に俺は白を切った。

 確証はないが、テッドとカールが言っていたことが本当なら、狙いは恐らく俺だ。確証はないけど。


 そして、緊迫した沈黙が場を包む。俺たち冒険者勢は各々武器を構えている。今から何が起こっても対処できるようにだ。


「……く、くく。ガッハッハッハッ!!」


 すると、急にフェイザーが笑い出した。その声はとてつもなくでかく。正直この距離でもうるさい。


「構えるな、構えるな! 冒険者どもお! 俺は別にお前らを殺そうとか街を滅ぼそうときたんじゃねぇ!! こんな街いつでもつぶせるからなぁ!!」


 フェイザーの言葉に皆、歯を食いしばる。

 そこに、一人の冒険者が代表するように前に出る。

 その冒険者は以前、ウルを捕まえようとしたときに協力してくれたモヒカンのおっさんだ。


「では、何故、この街に参った!?」


「ちーと探してるやつがここにいると聞いてなぁ!! 正直に差し出しゃほかの奴にゃあ用はねぇ!! 全裸の冒険者ってやつは居るかぁ!!?」 


「………………」


 フェイザーの質問にモヒカンのおっさん含めたすべての冒険者の視線が俺に集まる。


「おい! ちょっと待てお前ら!! 全裸と聞いてノータイムで俺を見るってどういうことだ!?」


「いや、全裸と聞いて思い浮かぶのはおぬししかおらぬもので……」


「いや、俺じゃないかもしれないじゃん! 全裸になったことある冒険者くらいほかにもいるって! だいたい情報少なすぎだろ! そんだけで人判断しちゃダメ! 絶対!」 


 そうだ。まず、こんな不確かで少なすぎる情報で人を探そうとするのが間違いなのだ。

 人を探す場合もっと明確で確実な情報をださねばいけない。


「ガッハッハッハッ! 確かにその小僧の言う通りだぁ!! じゃあ、言い方を変えよう! グレガスをやった冒険者は誰だぁ!?」


 フェイザーの明確で確かな情報に再び視線が集まる。


「……あ、はい……俺です」


 なんでそっちの情報で探してくれなかったんだ……。全裸の冒険者とか言われて出ていくわけねーだろ。


 とぼとぼと嫌そうに、

 そして、しぶしぶと俺は前に出る。


「それで、魔王幹部の人が俺に何の用が?」


 もう何で来たかなんとなくわかるけど一応聞いとこう。あーもうこれほんとやばい状況だよなぁ……。絶対かたき討ち的な奴じゃん……。


「用ってのはほかでもねぇ! グレガスをやるたぁお前相当強いなぁ!? 俺は強いやつが大好きだ! 強いやつと戦うのが俺の生きがいみたいなもんだぁ! つーことで、これから俺と生死を掛けた戦いをしようじゃねーか!!」


 ですよねー。やっぱり殺しにきたんですよね。理由が思っていたものと違ってたけど結果的に同じだー。

 でも、今この場には100人近い冒険者がいるんだ。

 みんなで力を合わせれば勝てるんじゃ……。


 俺は期待を込め後ろを見る。


「おい……。お前ら何で目を反らす」


 だが、後ろにいる冒険者たちは露骨に俺と目線を離すのだ。


「……いやー、さすがに相手悪すぎるというか何というか」


「見逃してくれるらしいし」


「俺結婚しないとだし」


 おいぃぃぃ! こいつら普通に人を見捨てやがった!さっきの”こんな街いつでも潰せるからなぁ!”って言われて悔しがってたのは何だよ!

 そして、さっきから結婚結婚とフラグを立ててるやつがいるが、俺がここで死んだら呪ってやるからな!結婚式の一番目立つシーンで全裸になる呪いをかけてやるからな!


 すると、俺の横には見慣れた人影が並んだ。


「お前一人だけに美味しい敵渡すかよ」


「魔王幹部……賞金……高額」


「お主一人に難敵を押し付けるつもりなどない。微力ながら助太刀いたす」


「テッド……カール……モヒカンのおっさん」


 そうだ。他の奴らには見捨てられたけど俺は一人じゃない。仲間がいるんだ。こいつらがいるんだ!

 いつもギルドの集会所で会ってる……ん? なんか違うぞ。


「なぁ、こういうのはお前らが真っ先に来るんじゃないのか?」


 俺は何故か他の冒険者たちに紛れているパーティーメンバーに向け言った。


「いや、何というか出て行くタイミングを掴めないでいたっす。話の経緯もイマイチわかってないっすし」


「あのグレガスさんというのは、どなたなんでしょうか?」


「私、変態じゃないし……」


「いやいや嘘だろお前ら! あそこはお前らが出てきて、俺が感動するシーンじゃん! やっぱりこういうとき助けてくれるのは仲間だよなって感動するシーンじゃん! そういうシチュエーションじゃん!」


 まさかだよ。隣に立ってるのが苦楽を共にしてきたパーティーメンバーじゃなくて、ギルドでちょっと顔見知り程度の奴らて。いや、それはそれで嬉しいけど違うじゃん。


 思っても見なかった展開に俺が驚いていると、ウルが心外だなといった顔を浮かべる。


「誰も助けないとはいってないじゃないっすか! ただ、出ていくタイミングがつかめなかっただけっすよ! ちゃんと一緒に戦うにきまってるじゃないすか!」


 その言葉に二人もこくこくとうなづく。


「そーよ! そーよ! あのタイミングで出ていったら私も変態の一人みたいになるじゃない!」


 いや、誰もそんな風に思わないだろうにエルザよ。てか、さっきのビビりぶりからこいつだけは単に出ていきたくなかっただけじゃ……。グレガスのこととかもわかってるだろうし。


_______________________________________



 ともあれ、これで、俺を含む七人の冒険者(一人は違うが)がフェイザーの前に立ちはだかった。


「おもしれええぇ!! 何人でもかかってこい!! 楽しい戦いができれば何でもいいぜぇ!!!」


 立ちはだかる俺たちを前にフェイザーはそう叫んだ。そして、そのまま仁王立ちしている。

 どうやら、あちらからかかってくるつもりはないらしい。

 しかし、俺たちは動かなかった。いや、動けなかった。

 相手は魔王の幹部。恐らく魔王を除いて最強格の魔物だからだ。うかつに飛び込めるわけがない。

 靴と地面の土がこすれてじりじりと音を立てているのが嫌にはっきりと聞こえる。

 額からは汗がにじみ出てくる。ただこの場に立っているというだけなのに、どうしようもない緊張感と威圧感のせいで体が疲労しているのがわかる。



 そして、次の瞬間――



「あ、ノラ血をもらっていいっすか?」 


 ウルが急に話しかけていた。この今まさに戦いの火ぶたが切られようかという時に。何の変哲もない顔で。ごく当たり前かのように。ウルは話しかけてきたのだ。


「ちょ、タイム」


 俺はフェイザー含む全員にそういい、ウルの方へ向く。


「おい、ウル。今すごい緊迫している感じだったじゃん。戦い始まりそうな空気だったのに、なんでそんな”あっ、トイレ”みたいな感覚で話しかけんだよ。てか、何? お前ってやっぱ血とか吸うの? 今までそんなの見たことないぞ。仮に吸うとしてもなんで今なんだよ」


「うっ、それはごめんなさいっす。でも、今から魔王の幹部と戦うんだったら血は飲んどきたいっす。血はウルたちにとったら燃料みたいなもので取らないと全力出せないすから。ちなみに、今まではパパからもらってたすからノラからもらうのはこれが初めてっすね!」


 初めてっすね! じゃねーよ。そういうことは先に言えよこいつ。今まで一緒にいてそんなの初耳だぞ。この野郎。


「あのーすいません。こいつがなんか血を飲みたいらしいなんでちょっと待ってもらってもいいですか?」


「おおう!! そのガキ吸血鬼か!! いいぞぉ!! 好きなだけ飲ませろ!! その方が強ぇからな!!」


 ふぅー、相手がバカで助かった。普通だったらすごい隙だらけだぞ俺ら。

 そして、俺はウルに血を吸わせるため、指を軽くダガーでひっかいて流血させた。


「ほれ。これでいいのか?」


「ありがとうっす。ノラ!」


 ウルはそう言うと何のためらいも、遠慮もなく俺の指をチューチューと吸い始めた。


 おぉ……。血を吸われるのってなんか変な気分だな。てか、この絵面なんかエロイな。指を切ったのはなんとなくこれでいいんかなと思ってやった行動だったが……。

 いいな、これ。今度からこいつに血をやるときはこうしよう。


 俺がそんなことを考えてるともう充分らしく、ウルが口を離す。


「ぷはっ! ごちそうさまっす!」


 そして、満足げに手を合わせると今度はフェイザーが叫んだ。


「よおおおし!! 今度こそかかってこい!!! 早く戦い(やり)たくてうずうずして――!!」


 だが、その叫びは途中で止まった――。

 なぜなら、今まで俺の目の前にいたはずの……さっきまで血を吸っていたはずのウルが……まるで瞬間移動でもしたかのように飛び膝蹴りを食らわしていたのだ! 


「全力全開で行かせてもらうっすよ!」



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