第12話 大変なことになったわ
今日の宿はそこそこ人気がありそうなおしゃれな感じね?
受付を済ませた私はみんなが待つ旅館の待合、格好よく言うとホテルのロビーに暗い顔で向かった。
「大変なことになったわ」
私のこの言葉にやや心配性の小百合が反応する。
「どうしたの? まさか部屋が取れなかったんじゃないでしょうね?」
予想通りの言葉に少し間をおいて答える。
「半分正解かしら」
私は困った表情でみんなを見つめた。
「半分正解ってどういう意味よ?」
小百合がソファーから立ち上がって聞いてきた。
「一部屋しか取れなかったのよ」
全員が私を見つめる。
「その部屋って大きいの?」
「残念ながら2人しか泊まれないらしいわ」
しーん。
「だったら他の宿を探しましょう?」
小百合が焦った声で言ってきたわ。当然の反応よね?
「残念だけど、この町には宿はここしかないらしいの」
「どういするのよ!」
「とりあえず、その部屋に全員入ってもいいという許可は貰ったから移動しましょう」
唯一取れた部屋は意外に広い。
ベッドルームとリビングの2部屋に分かれているタイプだったのだ。
「この部屋なら4人で寝られそうね?」
小百合が安心した顔で言っているが、ちょっと甘いんじゃない?
「それがそうもいかないみたい」
「どういうこと?」
「この地方の条例で決まった人数以外の人を宿泊させるのは禁止されているらしいの」
一瞬の間が私たちを襲う。
「じゃあ、私たちのうち2人はこの旅館で寝られないってこと?」
「そうなるわね」
「どうすればいいて言うの?」
小百合はかなり焦ってるわね?
自分がこの旅館から放り出されるって自覚してるのかしら?
実際そうしてもらうけど。
「仕方ないな。俺が外で寝るよ。男だし」
四朗が余計な気を使ってきた。
「ダメよ」
「どうしてだ?」
「あなたは私たちにとって大切な人なの。外で寝るなんてことさせられるわけないわ。みんなの同じ意見よね?」
し~ん。
「も、もちろんよ」
小百合が一呼吸おいて言った。
そしてまた沈黙。
「ところで、もう一人はどうやって決めるの? この部屋ってダブルベッドよね?」
「それなら兄妹の芽依が適任だよ」
「あなたたちは血がつながってないのよね?」
小百合はかなり必死みたいね。声が大きくなっているわ。
「もちろん恋人の私がこの部屋で寝るべきだわ」
「小百合さんて、お兄ちゃんとキスをしたこともないんだよね?」
「う!」
そして30分経過。2人は意味のない討論を続けている。
もういいころかしら?
「あなたたち大切なことを忘れてないかしら?」
「何よ?」
「私がプリンセスだってことをよ」
「まさかあなたがこの部屋に泊まるとか言い出さないわよね?」
「もちろんそうよ」
「絶対にダメよ!!!」
「そうだよ。権力の使い道を間違ってるよ」
小百合と芽依がうるさいわね。だったら。
「さっきフロントで私がプリンセスだってことを言ったの。それを知っていて旅館側が私を追い出せるかしら?」
「‥‥‥‥」
私の勝ちね?
「大丈夫よ。あなたたちのために特別ルームを用意してあげたわ」
「いや、そういう問題ではないのだけれど」
「玄関の横に大きな犬小屋があったでしょ? あそこで寝ていいそうよ。セントバーナードが寝てるから夜も寒くなくてよ。時々寝ぼけてかみつくそうだけど」
「マリーさんて鬼なの?」
「芽依ちゃん、一番大きな問題は四朗君とマリーが同じベッドで寝ることよ」
「そうか。お兄ちゃん節操ないもんね?」
「大丈夫だ。俺はマリーに何もしないから信用してくれ」
「顔がニヤけてるわよ!!!!」
その時ドアの外で声が聞こえた。
「夕食のお料理をお持ちいたしました」
「お願い」
私は優雅な口調で答える。なんてたってプリンセスだもの。
ワゴンに乗せられた料理がテーブルに並ぶ。
結構豪華ね。
「こちらのお2人様は本当にドッグフードでよろしかったでしょうか?」
「マリー!!!!!」
小百合が今日一大きな声で怒鳴ってきた。
今さら何を言っても遅いのよ。
「あのう。今日は客の入りが少ないですし、他のお部屋をお取りすることもできますけど」
「余計なことを言うんじゃないわよ!」
「マリー!!!!!!!!!!」
さっきの2倍の声で小百合が叫んだ。
こうして私の計画は無残にも失敗するのであった。あと少しだったのに~。




