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第五話

第五話


 地上降下は、夜明け前に行われた。


 アーク・セレスティアから射出された小型降下ユニットは、森の奥へ静かに降り立つ。


 衝撃はほとんどない。


 機体が固定され、外部ハッチがゆっくり開いた。


「周辺安全を確認」


 セレスの声が響く。


「大気成分、人体活動に問題なし」


「了解」


 サナダ・レンは外套の留め具を軽く引き、降下ユニットの外へ出た。


 湿った空気が肌に触れる。


 風。


 土の匂い。


 草木の揺れる音。


 思わず空を見上げる。


 薄く白み始めた空。


 浮遊大地の影が、遠くにぼんやり見えていた。


「街までどれくらいだ」


「徒歩換算で約二時間」


「遠いな」


「降下地点の秘匿性を優先しました」


「だろうな」


 レンは森の中を歩き出す。


 周囲に人の気配はない。


 だが、生き物の反応は多い。


 鳥に似た鳴き声。


 茂みの奥で動く小動物。


 知らない環境なのに、不思議と“世界”として成立していた。


「ドローンは?」


「上空待機中。周辺監視を継続します」


「頼む」


 森を抜ける。


 しばらく歩くと、細い土道が見えてきた。


 轍の跡が残っている。


「人は通ってるみたいだな」


「痕跡は比較的新しいものです」


 レンは道に沿って歩く。


 やがて。


 前方から、話し声が聞こえてきた。


 レンは少し足を止める。


 木々の隙間。


 そこにいたのは、荷車を引く数人の男たちだった。


 鎧。


 革装備。


 腰に下げられた剣。


 男たちは何か言い合いながら荷車を押している。


「だから言っただろ、あの山道崩れてるって」


「うるせぇな、落ちなかったんだからいいだろ」


「よくねぇよ」


 笑い声が混ざる。


 レンは少しだけ目を細めた。


「……ちゃんと聞き取れるな」


「言語解析との誤差率は低水準です」


「優秀」


 男の一人がレンに気づいた。


「ん?」


 視線が向く。


 レンも軽く片手を上げた。


「……旅人か?」


「まあ、そんな感じ」


「見ねぇ顔だな」


「最近こっち来たばっかで」


 男は少し怪訝そうな顔をしたが、それ以上は追及してこなかった。


「街ならこの道まっすぐだ」


「ああ、助かる」


 短いやり取りだった。


 男たちは再び荷車を押して進んでいく。


 レンはその背中を少し見送る。


 森を抜ける。


 徐々に視界が開けていく。


 そして。


 遠くに、街が見えた。


 石壁。


 煙。


 人の流れ。


 朝日に照らされた建物群が、ゆっくり輪郭を浮かび上がらせる。


 レンは足を止めた。


「……あれが」


「周辺最大規模の居住区域です」


 風が吹く。


 街の喧騒が、かすかにここまで届いていた。


 レンはしばらく、その景色を見ていた。

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