表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/25

第二話

第二話


 青い惑星が、静かにスクリーンへ映し出されていた。


 艦橋は薄暗い。一部の照明は落ちたままで、損傷警告の表示だけが淡く光っている。


 レンは席へ深く座り込み、肘をつきながらその星を眺めていた。


 艦はまだ軌道上にいる。


 直接降下はしていない。


 その代わり、調査用ドローン群が既に地表へ向かっていた。


『第一陣、降下完了』


 セレスの声と同時に、スクリーンの映像が切り替わる。


 映し出されたのは森だった。巨大な木々が霧の奥まで広がり、湿った地面には雨上がりのような空気が残っている。


 葉や枝の形状には微妙な違いがあるが、完全な未知環境というほどでもない。


「……思ったより普通だな」


『既知植生との類似点を多数確認しています』


 風が木々を揺らし、低い草が波のように流れる。


 小型生物らしき反応も見えた。


 少なくとも、人間が生きられない環境には見えない。


『追加報告』


「ん?」


『人工構造物を確認しました』


 映像がさらに切り替わる。


 今度は開けた場所だった。


 石造りの建物が並び、土の道を荷車が行き交っている。画面の端では、人影が慌ただしく動いていた。


 レンは少しだけ身体を起こす。


「……人、いるな」


『知的生命体の存在確率は九十八パーセント以上です』


 映像の中では、武装した男たちが荷物を運び、子供らしき姿も見える。


 文明水準は高くない。


 少なくとも統合星間連邦基準なら、宇宙進出どころか工業化の途中段階に見えた。


「宇宙から来るとか、想像もしてなさそうだな」


『航空技術も未確認です』


 レンは視線を映像へ戻す。


 人がいる。


 それだけで、生存率はかなり違う。


『言語データを収集中』


「分かりそうか?」


『時間を要します』


「まあ、だよな」


 通じない相手というのは、それだけで危険だ。


 未知の生物より、意思疎通できない知的生命体の方が厄介な場合もある。


 そんなことを考えていると、別の映像が開いた。


『未知エネルギー反応を確認』


 森の中だった。


 武装した集団が、獣のような何かと戦っている。


 剣が振るわれ、その直後、人間の手元から光が走った。


 火炎。


 爆発。


 獣が吹き飛ぶ。


 レンは少し目を細めた。


「……今の」


『既存データベースと一致しません』


 映像が再生される。


 熱量変化。


 周囲エネルギーの異常励起。


 だが、既知技術では説明できない。


「魔法みたいだな…」


 思わず小さく呟く。


 セレスは否定しなかった。


『解析を継続します』


 レンはしばらく映像を見つめる。


 現実感はまだ薄い。


 だが、不思議と恐怖はそこまでなかった。


 むしろ、少しだけ興味が勝っている。


『艦長』


「ん?」


『対象文明との接触には危険が伴います』


「分かってる」


 レンは椅子へ背を預けた。


 とはいえ、選択肢は多くない。


 帰還手段はない。


 補給も必要。


 艦の修復には長期間かかる。


 この惑星を利用せずに生き残るのは難しかった。


「降下地点は?」


『大陸西部、都市国家群周辺を推奨します』


 スクリーンへ地図が表示される。


『現在地はベルグラント王国辺境領付近。交易路へのアクセスが容易でありながら、大規模軍事拠点からは距離があります』


「隠れやすいってことか」


『加えて、外部人員の流入頻度が高い地域です。艦長の身元秘匿に適しています』


 レンは少し考える。


 本来なら、未開文明への接触は制限対象だ。


 だが今は遭難状態に近い。


 生き延びるには、どうしても現地との接触が必要になる。


「……まあ、やるしかないか」


『艦長判断を確認』


「ドローン観測は継続。言語解析も続けてくれ」


『了解』


 レンはスクリーンへ映る街を見る。


 人がいて、文明がある。


 それだけで、少し安心できた。


 少なくとも――完全な孤独ではなさそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ