第二話
第二話
青い惑星が、静かにスクリーンへ映し出されていた。
艦橋は薄暗い。一部の照明は落ちたままで、損傷警告の表示だけが淡く光っている。
レンは席へ深く座り込み、肘をつきながらその星を眺めていた。
艦はまだ軌道上にいる。
直接降下はしていない。
その代わり、調査用ドローン群が既に地表へ向かっていた。
『第一陣、降下完了』
セレスの声と同時に、スクリーンの映像が切り替わる。
映し出されたのは森だった。巨大な木々が霧の奥まで広がり、湿った地面には雨上がりのような空気が残っている。
葉や枝の形状には微妙な違いがあるが、完全な未知環境というほどでもない。
「……思ったより普通だな」
『既知植生との類似点を多数確認しています』
風が木々を揺らし、低い草が波のように流れる。
小型生物らしき反応も見えた。
少なくとも、人間が生きられない環境には見えない。
『追加報告』
「ん?」
『人工構造物を確認しました』
映像がさらに切り替わる。
今度は開けた場所だった。
石造りの建物が並び、土の道を荷車が行き交っている。画面の端では、人影が慌ただしく動いていた。
レンは少しだけ身体を起こす。
「……人、いるな」
『知的生命体の存在確率は九十八パーセント以上です』
映像の中では、武装した男たちが荷物を運び、子供らしき姿も見える。
文明水準は高くない。
少なくとも統合星間連邦基準なら、宇宙進出どころか工業化の途中段階に見えた。
「宇宙から来るとか、想像もしてなさそうだな」
『航空技術も未確認です』
レンは視線を映像へ戻す。
人がいる。
それだけで、生存率はかなり違う。
『言語データを収集中』
「分かりそうか?」
『時間を要します』
「まあ、だよな」
通じない相手というのは、それだけで危険だ。
未知の生物より、意思疎通できない知的生命体の方が厄介な場合もある。
そんなことを考えていると、別の映像が開いた。
『未知エネルギー反応を確認』
森の中だった。
武装した集団が、獣のような何かと戦っている。
剣が振るわれ、その直後、人間の手元から光が走った。
火炎。
爆発。
獣が吹き飛ぶ。
レンは少し目を細めた。
「……今の」
『既存データベースと一致しません』
映像が再生される。
熱量変化。
周囲エネルギーの異常励起。
だが、既知技術では説明できない。
「魔法みたいだな…」
思わず小さく呟く。
セレスは否定しなかった。
『解析を継続します』
レンはしばらく映像を見つめる。
現実感はまだ薄い。
だが、不思議と恐怖はそこまでなかった。
むしろ、少しだけ興味が勝っている。
『艦長』
「ん?」
『対象文明との接触には危険が伴います』
「分かってる」
レンは椅子へ背を預けた。
とはいえ、選択肢は多くない。
帰還手段はない。
補給も必要。
艦の修復には長期間かかる。
この惑星を利用せずに生き残るのは難しかった。
「降下地点は?」
『大陸西部、都市国家群周辺を推奨します』
スクリーンへ地図が表示される。
『現在地はベルグラント王国辺境領付近。交易路へのアクセスが容易でありながら、大規模軍事拠点からは距離があります』
「隠れやすいってことか」
『加えて、外部人員の流入頻度が高い地域です。艦長の身元秘匿に適しています』
レンは少し考える。
本来なら、未開文明への接触は制限対象だ。
だが今は遭難状態に近い。
生き延びるには、どうしても現地との接触が必要になる。
「……まあ、やるしかないか」
『艦長判断を確認』
「ドローン観測は継続。言語解析も続けてくれ」
『了解』
レンはスクリーンへ映る街を見る。
人がいて、文明がある。
それだけで、少し安心できた。
少なくとも――完全な孤独ではなさそうだった。




