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第二十二話 星図編

第二十二話 星図編


 数日後。


 レンは再び星環教ラウム支部を訪れていた。


 理由は、エレナから直接連絡が来たからだ。


 守護者コアの解析で進展があったらしい。


 詳しい内容までは聞かされていない。


 だが、わざわざ星環教支部へ呼ぶ以上、何か見つかったのだろう。


 ラウム中心部から少し離れた場所に建つ星環教ラウム支部は、白い石造建築だった。


 神殿にも見えるが、どちらかと言えば研究施設に近い。


 静かで、妙に整いすぎている。


 案内役の神官に連れられ、レンは地下区画へ降りていた。


 白い石壁。


 淡く発光する魔導灯。


 静かすぎる通路。


 どこか地下遺跡にも似た空気だった。


「……宗教施設っていうより研究所ですね」


「よく言われます」


 前を歩くエレナが静かに答える。


 今日は法衣の上から薄い外套を羽織っていた。


「本来、星環教は“管理”が役目ですから」


「遺跡の、ですか?」


「はい」


 エレナは短く頷く。


「特に神代文明関連は」


 通路の奥。


 重厚な扉の前で、エレナが立ち止まった。


 複雑な封印術式が淡く光っている。


「ここです」


 扉が開く。


 中には幾つもの魔導装置が並んでいた。


 浮遊する観測盤。


 魔法陣。


 記録結晶。


 そして中央。


 封印術式に囲まれた守護者コア。


 青白く脈動していた。


 レンが入った瞬間。


 僅かに脈動が強くなる。


 周囲の神官たちが息を呑んだ。


「……また反応した」


「記録更新」


 小声が飛ぶ。


 レンは眉をひそめた。


「俺が来たからですか?」


「断定は出来ません」


 エレナはそう言ったが、その目は観測盤を鋭く見ていた。


 やがて、一人の解析官が慌てた声を上げる。


「エレナ様」


「地下反応、再発しています」


 空中へ地図が投影される。


 ラウム。


 その中央部。


 幾つもの光点が地下へ伸びていた。


「……地下反応?」


 レンが聞く。


 エレナは静かに頷いた。


「守護者コア搬入後から確認されている現象です」


「ラウム地下から、断続的に古代波長が発生しています」


「古代波長……」


「神代文明由来と思われる反応です」


 レンは小さく目を細めた。


『周辺地下構造物との共鳴可能性』


 セレスの声が響く。


『反応強度、前回比127%』


 その時だった。


 観測盤の波形が大きく乱れる。


 室内の空気が張り詰めた。


「来ます!」


 次の瞬間。


 空中へ幾何学的な紋様が浮かび上がる。


 円環状の古代文字。


 誰も読めないはずの神代文字。


 だが。


 セレスが即座に反応する。


『解読開始』


『……座標情報を確認』


 レンの目が僅かに細まる。


「座標?」


『表示します』


 空中へ浮かび上がる。


 広域地図。


 ラウムから遥か西方。


 広大な砂色の領域。


「砂漠……?」


 エレナも地図を見つめていた。


「白砂海……」


「知ってるんですか?」


「未踏破地帯です」


 エレナが静かに答える。


「古い文献には、“白き塔眠る砂海”という記述があります」


「ですが、具体的な位置は失われていました」


 観測盤の中央。


 砂漠地帯へ一つの光点が浮かんでいる。


 まるで。


 そこを指し示すように。


『推定』


 セレスの声。


『高位神代施設存在可能性』


 レンは無言で光点を見つめた。


 帰還へ繋がる可能性。


 その言葉が脳裏を過る。


 エレナが静かに口を開く。


「……正式調査隊が編成されるでしょう」


「星環教も動きます」


「黄金級案件ですね、これ」


 レンは小さく息を吐いた。


「でしょうね」


 その時だった。


「面白そう」


 後ろから聞き慣れた声がした。


 振り向く。


 いつの間に来ていたのか、ミレイが入口近くへ立っていた。


「……ミレイ?」


「エレナさんに呼ばれた」


 ミレイは観測盤を見る。


「遺跡探索の協力依頼だって」


 エレナが静かに頷いた。


「守護者戦の実績を考慮しました」


「白砂海は危険地帯です」


「少数精鋭での調査になるでしょう」


 ミレイは小さく頷く。


 そして自然な調子でレンを見る。


「レン、行くんでしょ」


 レンは少し黙った。


 否定は出来なかった。


 セレスも推奨している。


 神代文明。


 帰還手掛かり。


 無視できる内容ではない。


「……たぶんな」


 ミレイは小さく頷く。


「じゃあ、仮パーティ継続」


「まだ仮なんだ」


「確認中だから」


 相変わらずだった。


 だが、その言葉は少しだけ自然になっている気がした。


 観測盤の光が静かに明滅する。


 白砂海。


 未踏破地帯。


 その遥か先で。


 神代文明の何かが、今も眠り続けていた。

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