第一章 幕間 一
第一章 幕間 一
ラウム支部――星環教第三調査局。
地下解析区画。
白い石壁に囲まれた広い部屋には、幾つもの魔導装置が並んでいた。
淡い青光。
浮遊する魔法陣。
低く響く魔力駆動音。
そして中央には、厳重な封印術式に囲まれた黒い箱。
北西遺跡より回収された守護者コアだった。
青白く脈動するそれを前に、複数の神官たちが緊張した面持ちで観測盤を見つめている。
「……反応値、また上昇しました」
一人の解析官が低い声で告げる。
空中へ展開された魔導式観測盤には、複雑な波形が映し出されていた。
「中枢部単体の活性化ではありません」
「周辺地脈との共鳴反応です」
その言葉に、室内の空気が僅かに重くなる。
「場所は?」
「ラウム中央区画周辺」
別の神官が険しい顔で呟いた。
「……やはり地下か」
守護者コアがラウム支部へ搬入されて以降、断続的な異常反応が発生していた。
微弱な魔力振動。
地下深部からの共鳴。
そして。
現在の魔導体系では説明不能な古代波長。
「こんな事例は記録にありません」
「守護者中枢部が、外部施設へ反応している……?」
「あり得ん」
初老の神官が低く言う。
「神代文明施設群は基本的に独立している」
「遠距離共鳴など聞いたことがない」
だが。
観測盤の波形は今も脈動を続けている。
まるで。
何かが応答しているかのように。
「……まさか」
一人の神官が乾いた声を漏らした。
「ラウム地下に、未発見の神代施設が存在していると?」
沈黙。
否定する者はいなかった。
ラウムは古い都市だ。
建国以前から存在していたという記録すらある。
未発見遺跡が地下に眠っていても不思議ではない。
問題は。
何故、今になって反応したのか。
エレナは静かに観測盤を見つめていた。
波形は徐々に強くなっている。
まるで。
眠っていた何かが、目を覚まし始めているように。
「……監視を強化します」
エレナが静かに言う。
「ラウム地下の調査も進めるべきです」
「ですが騒ぎになれば、市民への影響が――」
「現時点では秘匿を維持してください」
エレナは短く答える。
「下手に刺激すれば、何が起きるか分かりません」
その時だった。
観測盤の波形が、一瞬だけ大きく跳ね上がる。
室内の神官たちが息を呑んだ。
同時に。
守護者コアの脈動が強くなる。
青白い光が、封印術式の内側で不気味に明滅した。
「出力上昇!」
「抑制術式維持!」
神官たちが慌ただしく動く。
そして。
観測盤へ浮かび上がる。
未知の紋様。
円環状の古代文字。
誰も読めないはずの神代文字。
だが。
今回は、それだけでは終わらなかった。
「……地図?」
誰かが呟く。
古代文字の周囲へ、淡い光線が広がっていく。
線。
円。
幾何学的な構造。
やがてそれは、一枚の広域地図へ変化した。
ラウム。
周辺国家。
山脈。
そして西方。
広大な砂色の領域。
「白砂海……」
エレナが小さく呟く。
観測盤中央。
その砂海の一点だけが、強く明滅していた。
まるで。
そこを示しているかのように。
「座標情報……?」
「神代施設の位置だと?」
解析官たちがざわめく。
そして。
古代文字列の一部が変化する。
誰にも読めないはずの文字。
だが。
そこには確かに、一つの意味が含まれていた。
――《長距離中継座標確認》
空気が凍る。
「中継……?」
「神代文明施設同士が、接続されているとでも言うのか……?」
誰かが掠れた声で呟いた。
星環教の教義では、神代文明は既に終わった存在だ。
だが。
もし。
施設群が今も相互接続され、機能し続けているのだとしたら。
それは。
“終わっていない”ということになる。
観測盤の光が脈動を続ける。
白砂海。
未踏破地帯。
その遥か彼方で。
何かが、静かに待ち続けていた。




