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第十六話

第十六話


「全員走れ!!」


 ガルドの怒鳴り声と同時に、広間全体が大きく揺れた。


 天井の亀裂が一気に広がる。


 白い石材が轟音と共に降り注いだ。


 レンは即座に立ち上がる。


『脱出経路を再検索』


『頼む!』


 守護者の残骸からはまだ青白い光が漏れていた。


 だが。


 さっきまでとは明らかに違う。


 光が不規則に脈打っている。


 まるで制御を失ったみたいだった。


『施設内部エネルギー反応が急上昇しています』


『守護者のせいか?』


『可能性大』


 セレスの声が続く。


『防衛ユニットは戦闘機能だけではありません』


『……どういうことだ』


『施設全体のエネルギー制御を兼任していた可能性があります』


 レンの視線が崩れ始めた広間を走る。


 壁の発光線。


 脈打つ床。


 巨大球体。


 全部が繋がる。


『つまり』


『中枢破壊によって制御系が暴走しました』


『なるほどな……!』


 直後。


 低い警告音みたいな振動が広間全体へ響いた。


 白い壁面の発光線が一斉に赤へ変わる。


 空気が変わった。


 まるで施設そのものが危険状態へ移行したみたいだった。


『封鎖シーケンス開始を確認』


『嫌な単語来たな!』


 次の瞬間。


 後方通路が轟音と共に崩れ落ちた。


 白煙が一気に押し寄せる。


「クソっ!」


 ガルドが叫ぶ。


「急げ!!」


 全員が一斉に走り出した。


 ミレイが先頭へ出る。


 ローブを翻しながら崩れかけた通路を駆け抜ける。


 レンは最後尾へ回った。


 揺れが酷い。


 床そのものが軋んでいた。


『施設各区画で崩落発生』


『全部壊れるのか?』


『いえ』


 セレスが即答する。


『区画閉鎖による強制封鎖と推定』


 その瞬間。


 前方通路の天井が落ちた。


 轟音。


 ガルドたちが咄嗟に飛び退く。


 白い瓦礫が通路を塞ぐ。


「おいふざけんな……!」


 槍使いの男が顔を青くする。


 さらに後方でも崩落音が近付いていた。


 逃げ道が潰されていく。


 レンは走りながら周囲を見る。


 白い壁。


 規則的な発光線。


 埋め込まれた制御構造。


 どう見ても“遺跡”ではない。


 老朽化した巨大施設だった。


『艦長』


『分かってる』


 レンは小さく息を吐く。


『あの球体も含めて、全部施設中枢か』


『可能性は高いです』


 その時だった。


 ミレイが突然壁へ触れる。


 青白い紋様が反応した。


 低い駆動音。


 壁の一部が横へスライドする。


 隠し通路。


「は?」


 ガルドが目を見開く。


「なんで分かる!?」


「……なんとなく」


「なんとなくで開くのかよ……!」


 だが文句を言っている余裕はなかった。


 全員が急いで中へ飛び込む。


 直後。


 元の通路が完全に崩れ落ちた。


 轟音。


 土煙が狭い通路へ流れ込む。


 もし数秒遅れていたら終わっていた。


 隠し通路は細く長かった。


 白い壁が続き、空気は妙に冷たい。


 だが崩壊音は少し遠くなる。


 全員の呼吸が荒い。


 槍使いなど完全に顔色を失っていた。


「マジで死ぬかと思った……」


「まだ終わってねぇぞ」


 ガルドが低く返す。


 その時。


 前方から風が流れ込んできた。


 外気。


 レンの目が細まる。


『出口反応を確認』


『助かる……!』


 全員が一気に加速した。


 だが。


 出口直前で床が崩れる。


 亀裂が走り、通路が半分落ちた。


「っ!」


 ミレイが止まる。


 飛び越えるには少し遠い。


 しかも崩壊が進んでいる。


 レンは一瞬だけ距離を見る。


『跳躍可能』


『だよな』


 レンは床を蹴った。


 強化骨格が脚力を増幅する。


 一気に穴を飛び越え、そのまま向こう側へ着地した。


「なっ――」


 槍使いが目を剥く。


 レンはすぐ近くの崩れた石柱へ手を掛けた。


 重い。


 普通の人間では動かせない重量。


 だが。


 強化骨格が筋出力を補助する。


 レンはそのまま石柱を無理やり押し倒した。


 轟音。


 柱が橋みたいに穴へ引っかかる。


「渡れ!」


「お前ほんとなんなんだよ!?」


 ガルドが叫びながら真っ先に駆け抜けた。


 続いて槍使い。


 弓使い。


 最後にミレイが軽く跳ぶように渡ってくる。


 その直後。


 後方通路が完全に崩れ落ちた。


 土煙が一気に押し寄せる。


「走れ!!」


 全員が全力で出口へ飛び込む。


 次の瞬間。


 崩れかけた遺跡出口から外へ転がり出た。


 地面へ倒れ込む。


 遅れて。


 背後で巨大な崩落音が響いた。


 山そのものが揺れる。


 北西遺跡の入口が、土煙を上げながら完全に埋まっていく。


 しばらく誰も喋らなかった。


 荒い呼吸だけが響く。


 やがて。


「……生きてる」


 槍使いが呆然と呟く。


「マジで死ぬかと思った……」


「俺もだ」


 ガルドがその場へ座り込みながら苦く笑う。


 だが、その視線は自然とレンへ向いていた。


 さっきの跳躍。


 石柱を押し倒した腕力。


 守護者との戦闘。


 どれも普通じゃない。


 白銀級。


 そんな言葉では説明がつかなかった。


 ミレイだけは何も言わない。


 ただ静かに崩れた遺跡を見ていた。


 琥珀色の瞳が僅かに細まる。


 レンも視線を向ける。


 崩れた入口の奥では、まだ微かに青白い光が明滅していた。


『施設反応の一部継続を確認』


 セレスの声が静かに響く。


『完全停止ではありません』


 レンは小さく息を吐く。


『……やっぱり、あれだけじゃ終わらないか』


 崩れ落ちた遺跡の奥で、何かがまだ眠っている。


 そんな気がした。

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