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第十三話

第十三話


 遺跡の奥で、低い振動音が鳴り続けていた。


 壁面を走る青白い光は、まるで血管みたいに脈打ち、明滅する度に空気が僅かに震える。


 逃げ道が消えた時点で、状況が異常なのは全員理解していた。


 誰も軽口を叩かない。


 通路の奥を睨む視線だけが、張り詰めた空気の中で揺れていた。


「……どうする」


 槍使いが低く呟く。


 ガルドは大剣を構えたまま、暗闇を睨み続けていた。


「動くしかねぇ。立ち止まってりゃ囲まれる」


 その瞬間だった。


 暗闇の奥で、赤い眼が次々浮かぶ。


 グレイブハウンド。


 しかも数が多い。


 低い唸り声が重なり合い、通路全体へ広がっていく。


 レンは小さく息を吐いた。


「……キリがないな」


『敵性反応増加』


「見えてる」


 奥からさらに気配が増えていた。


 まるで深部側から押し出されるように、次々魔物が集まってきている。


 普通じゃない。


 この遺跡そのものが、何かに反応しているようだった。


 ガルドが即座に叫ぶ。


「戦うな! 突破するぞ!」


 次の瞬間、グレイブハウンドの群れが一斉に駆け出した。


 石床を叩く音が重なる。


 狭い通路の中を、灰色の影が雪崩みたいに迫ってくる。


 レンは先頭へ飛び掛かった一体へナイフを振るった。


 銀色の軌跡が走り、魔物の首が宙を舞う。


 だが止まらない。


 横からさらに別個体が飛び掛かる。


 レンは半歩だけ身体を捻り、その勢いを利用して壁際へ流した。


 牙が石壁を砕く。


 破砕音。


 石粉が舞う。


『包囲形成を確認』


「だろうな……!」


 数が多すぎた。


 しかも奥からまだ来る。


 完全に足止めされる形だった。


 その時。


「伏せて」


 ミレイの静かな声が響く。


 短杖の先へ青白い光が集束していた。


 足元へ展開された魔法陣が一気に広がる。


 次の瞬間。


 轟音。


 衝撃波みたいな閃光が通路を貫き、前方のグレイブハウンドたちをまとめて吹き飛ばした。


 熱風がレンの横を駆け抜け、石壁を震わせる。


「今!」


 ガルドの怒声。


 調査隊は一気に通路を駆け抜けた。


 後方では魔物たちの唸り声がなおも響いている。


 レンは走りながら横目でミレイを見る。


 彼女は短杖を握ったまま小さく息を整えていた。


 額には薄く汗が浮かんでいる。


「……派手だな」


「広範囲しか得意じゃない」


 ミレイは短く答える。


 その直後だった。


 再び遺跡全体が震えた。


 今度はさっきより強い。


 轟音と共に天井から石片が崩れ落ち、通路の床へ激しく叩き付けられる。


「っ、おい!」


 槍使いが慌てて飛び退く。


 壁面の紋様はさらに強く発光していた。


 青白い光が脈打つ度に、空気そのものが重くなる。


『エネルギー出力上昇』


「どこまで上がるんだよ……」


『不明です』


 レンが小さく舌打ちした、その時だった。


 ミレイが急に顔を上げる。


「待って」


 琥珀色の瞳が、通路奥を真っ直ぐ見つめていた。


「……風」


「風?」


「奥から流れてる」


 レンも意識を集中する。


 確かに、微かに空気が動いていた。


 冷たい風。


 閉鎖空間の中で、奥側から流れてきている。


「別ルートがあるのか」


 ガルドが即座に反応する。


「行くぞ!」


 調査隊は再び走り始めた。


 後方ではグレイブハウンドの唸り声が追ってくる。


 だが、通路を進むにつれてレンは違和感を覚えていた。


 壁の紋様が増えている。


 しかも、妙に規則的だった。


 まるで巨大な回路だ。


『照合開始』


 セレスの声が響く。


『一部構造に人工制御痕跡を確認』


「……遺跡が自動で動いてるのか?」


『可能性が高いと推定』


 レンは小さく息を吐く。


 嫌な予感しかしない。


 その時だった。


 通路の先が、突然開ける。


 調査隊は思わず足を止めた。


「……なんだ、これ」


 そこは広間だった。


 いや、広すぎる。


 天井が見えない。


 巨大な白い柱が何本も並び、床一面へ複雑な紋様が広がっている。


 そして。


 広間中央には、青白く発光する巨大な球体が浮かんでいた。


 静かな駆動音が響いている。


 まるで。


 今も動き続けている装置みたいだった。


『超高密度エネルギー反応を確認』


 セレスの声が僅かに変わる。


『警告。現地文明水準を大幅に超過しています』


 レンはゆっくり、その光景を見上げた。


 背筋へ冷たいものが走る。


 この遺跡。


 まだ、生きている。

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