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ツヨイチカラ  作者: 桃馬 穂
第7章 「深海の攻防」(ROV降下〜妨害対処〜接近戦の縁)

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第7.3 量子パルス:一次EMP、盲目の数十秒

 ≡ Quantum Pulse 7.3 / First EMP, Half a Minute of Blindness


 T0+20(二十時四〇分)、母艦〈ミズハ〉・ブリッジ。表示の青は抑え、海は灰のまま。空調が低く回る。

 甲板の奥で“パチ”と乾いた音が跳ね、白が視界を一瞬洗った。次の拍で青が落ち、枠だけが残る。短い電磁パルス――EMP――が船体をかすめ、広帯域の耳がいっせいに黙った。

 床が半拍だけ抜けて、体の芯が沈む。鼻の奥が金属の匂いで痺れ、腕の産毛が立つ。舵輪の革は急に冷たく、指の汗がすべる。

 影山「一次だ! 入力を離すな!」

 主系を切る既定動作が走り、推力は自動で最小、姿勢は慣性保持、記録は紙帯へ降格する。エンジンの唸りは細り、舵の手応えが半分だけ軽くなる。紙帯ロガーは電磁に強い、最後の線だ。

 紙帯の針が一度だけ大きく跳ね、次の刻みで線を取り返す。擦れる音が細く続き、暗い中を時刻の目盛りが進む。非常灯の縁が操舵輪を薄く撫でた。

 郷田「揺れ、来る!」

 後部甲板がぐっと沈み、濡れた床が斜めに滑る。郷田は手すりを掴んで膝を入れ、体でワイヤを庇った。

 影山「甲板、固定だ! 無理に戻すな、船が戻る!」

 張力計の針が右に跳ね、中央へ戻りかけてまた震える。グローブの縁が濡れて、握りの指が一瞬すべる。歯を噛んで、肩で呼吸をつなぐ。

 郷田「持ってる! 今は持つ!」

 ライラは声を出さずに八拍を刻み、最後の一拍で指を止めた。指は止まったまま、肩だけ小さく上下する。喉の奥で息が渇き、顎先で汗が一滴落ちる。

 影山「十五、現状維持。戻り直前の入力は禁止だ。」

 翔太はスティックから余計な力を抜き、四隅の水平だけを見る。革の段差が親指の基準で、そこから離れない。怖い――それでも手は離さない。

 非常灯の縁が細く揺れ、室内の影が一段濃くなる。空調の低い唸りが唯一の線になり、耳の奥で途切れない。腹で戻りを受ける準備だけを続ける。

 影山「海はカナデ、学園は結衣、研究はリク。順番、短く!」

 カナデ「生存。遅延、三分の一拍!」

 結衣「受信、維持。抜けなし!」

 リク(研究所)「計測継続。温度、揺れ小!」

 白が走り、青が返る。順に画面が立ち上がり、切れた時間の両端がログで繋がった。無線のノイズが短く笑い、すぐ静かになる。

 影山「続ける。合図はライラ、報告は同じ順で短く!」

 郷田「張力、戻った! 撚りゼロ!」

 ライラは拍を合わせ直し、最後の一拍で軽く顎を引く。翔太は最初の一目盛りを頭の中で置き、腹で戻りを受ける姿勢を崩さない。

 エンジンの細い唸りが元の高さに戻り、非常灯の棘が消える。紙帯は均一に流れ、字の途切れはない。一次は耐えた。二次が来る前に、やることを減らす。


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