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ツヨイチカラ  作者: 桃馬 穂
第7章 「深海の攻防」(ROV降下〜妨害対処〜接近戦の縁)

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第7.1 量子パルス:落とせ、砂を立てずに

 ≡ Quantum Pulse 7.1 / Drop It, Raise No Sand 12140

 T0+18(二十時三八分)、内湾・浅い水路の外れ。母艦〈ミズハ〉は半灯、表示の青は抑えたまま。海面は灰で、風は弱い。

  ブリッジの前には翔太が座り、姿勢と推力を抱える。右後ろには影山が立ち、全体の線と撤収の閾値を見る。左席のライラは拍と通信を束ね、右後席のカナデは海域センサーを統合して代表報告を返す。

 後部甲板では郷田がROVのウインチと張力計を見張る。陸側は結衣が学園の代表、リク(研究所)が計測の代表を務める。ドクは設備と非常対応の総括に回る。

 クレーンのブームは影に沈み、ワイヤは濡れた布のように重い。甲板の金具は鳴らず、艫で張力ゲージの針が浅く震える。戻りは素直で、舷側の影は切れない。

 影山「降ろす。一段ずつ、止めは短く。」

 ケージが外れ、機体の腹が水を撫でる。接水の輪は広がらず、薄い縁だけ残して消える。撓みは一度落ち、すぐ均された。

 翔太は右手で姿勢、左手で推力を置く。置くのは呼吸の端、戻しは押し込まない。四隅の水平が揺れなければ、距離は嘘をつかない。

 ライラ「拍、八で切る。声は出さない。」

 カナデは窓を三つだけ開き、余計な表示を落とす。波形の立ち上がりは見えず、表面の灰は厚みを変えない。外の視線は角に寄り、真ん中を外している。

 機体のカメラが底の色を拾い、斑の粒が散って見える。溝は二本、右へ緩く逃げている。逃げに合わせれば、押し戻しは要らない。

 影山「角度、下に三度。正面、右零点五だけ。」

 翔太は二手で姿勢を合わせ、推力は最小で保つ。中央を揺らさず、端を生かす。端が生きれば、距離は狂わない。

 郷田は張力を一度だけ弾き、針の戻りを確かめる。撚りは立たない、巻きは滑らない。音は増えず、金具は黙ったままだ。

 画面の下から抽出ユニットの縁が入る。円筒は鈍い光で、段差は見えない。吊り点の影は左右で同じ濃さだ。

 ――ここで一度だけ説明する。**抽出ヘッドの“呼吸”**は三手で一呼吸だ。**最初に微弱な吸いで砂の目を開け、次に短い横押しで流れをずらし、最後に一拍の間で粒を落ち着かせる。**触れる前に気配だけを動かすから、砂は立たない。

 影山「呼吸に合わせろ。触れるな、寄せて戻せ。」

 最初の吸いで、底の灰が薄く浮く。白くならないのは弱さが合っている証拠だ。浮きは幅を持たず、渦の芽も出ない。

 翔太は斜めの姿勢を保ったまま、一目盛りだけ横へ送る。中央は揺れず、端が強くなる。端が生きれば、縁が見える。

 一拍の間を置くと、薄い膜が残る。膜は流れに沿って細く伸び、視線の直線を受け止めるほどの密度になる。受け止められた直線は、手前で鈍る。

 ライラ「良。間、崩れてない。」

 小石の肩が右下に現れ、肩の向こうは少し暗い。暗さは深みではなく、粒の偏りだ。偏りはほどけやすいので、触れずに横を通す。

 影山「前零点四、左零点二。間は短く。」

 翔太は舵を一目盛りだけ送り、戻りを腹で受ける。四隅の水平は生き、中央は静かなまま。怖い――それでも手は離さない。

 底の粒が一瞬だけ白み、すぐ灰に戻る。戻りが速いぶん、巻き込みの筋は薄い。薄い筋は映像に残らず、ログの耳でやっと拾える。

 カナデ「底圧、変化小。散乱、微。」

 画面の右下に低い峰が三つ並び、峰の向こうの影がわずかに濃い。濃さは偏りで、崩すより避ける方が早い。避けるなら、姿勢は倒したままがよい。

 影山「そのまま、肩まで。砂を起こすな。」

 ヘッドの縁が肩をなぞり、なぞった跡は立たない。立たなければ、戻す必要がない。戻さないぶんだけ、移動は短くなる。

 郷田「テンション、規定内。撚り、ゼロ。」

 舷側の影が細く伸び、甲板のどこかで小さく金属が鳴る。鳴りは一度で止まり、風は音を運ばない。海は灰のまま、表面は割れない。

 ライラ「拍、維持。次の吸い、同じ弱さで。」

 翔太は吸いを置き、横押しを短く重ね、間を一拍だけ置く。置きすぎると膜が流れ、短すぎると粒が立つ。今はちょうどよい。

 カナデ「重なり、八割台。良。」

 遠い端に細い線が浮き、こちらに向いてゆっくり寄る。寄る速さは一定で、角度は変わらない。変わらないものは、早く見える。

 影山「無視はしない。だが、やることは変えない。」

 翔太は舵をわずかに送り、姿勢の針を目で追う。中央は静か、端は生き、戻りは素直。やることは一つ――砂を立てずに落とす。

 膜は二枚で厚みになり、厚みは時間になる。時間があれば、選べる手が増える。増えた手は、次の段の武器になる。

 ライラ「拍、八で切る。呼吸、崩さないで。」

 ヘッドは触れず、気配だけで進む。溝の逃げに合わせ、肩を撫で、膜を重ねる。画面は曇らず、四隅は水平だ。

 影山「良し。そのまま抜けろ。落とせ、砂を立てずに。」

 ケーブルの撓みは規定内で、底の粒は静かだ。静かなうちに手順を終えれば、それが次の武器になる。舷側の影は切れず、海の灰は厚みを変えない。


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