第3.4量子パルス:拳で語る影
≡ Quantum Pulse 3.4 / Fists in the Sunset
放課後の校庭は、部活動の掛け声とボールの音に包まれていた。翔太は体育館の裏に足を踏み入れる。夕陽が赤く壁を染め、地面には長い影が伸びている。
郷田はすでにいた。制服の袖を肘までまくり、拳を握りしめたまま、こちらを睨んでいる。バットは持っていないが、その分、構えは剥き出しの肉体そのものだ。
「来たな、天野」
「……来いって言ったのはそっちだろ」翔太はできるだけ平静を装う。
その背後から影山の声が飛んだ。「やめとけ。話せば——」
「うるせぇ、影山。これはこいつと俺の問題だ」郷田は一歩前へ出た。
「問題って……学園祭の件、もう——」
「違ぇんだよ!」郷田の声が裏壁に反響する。「俺は、この学校でコソコソ何か企んでる奴が一番嫌いなんだ。お前、最近妙に目立ってんだよ。変な transfer連れてきて、博士とかなんとか……ふざけんな」
翔太の胸に怒りが芽生えた。「企んでなんかねぇよ!」
「じゃあ、胸張って証明しろ!」
言葉より早く、郷田の拳が飛んできた。翔太は咄嗟にかわすが、頬をかすめた風圧に心臓が跳ねる。すぐさまカウンターを入れるが、郷田は体をひねって避け、逆に腹へ重い一撃を叩き込んだ。
「ぐっ……!」膝が沈む。だが翔太は下を向かず、勢いで郷田の肩を押し返す。土埃が舞い、二人は数歩距離を取った。
「まだやるか?」郷田が挑発する。
「当たり前だ!」翔太は歯を食いしばり、再び踏み込む。拳と拳がぶつかり合い、鈍い音が夕暮れの空気を裂いた。
「やめて!」結衣が駆け寄る。だが二人は止まらない。
ライラがスマホを構えながら、「映画みたいだねぇ」とつぶやくが、結衣に腕を引かれた。最後は影山が二人の間に割って入った。両腕で二人を押し分け、低い声で言う。
「もういいだろ」 郷田は肩で息をしながら、翔太をにらむ。「……覚えとけ、天野。俺はお前を認めねぇ」 翔太も視線をそらさない。
「それでいいさ」 郷田は鼻を鳴らし、背を向ける。「決着は、いつか必ずつける」 夕陽に長く伸びた影が、ゆっくりと角を曲がって消えていった。翔太は腹の鈍痛を押さえながら、吐き出すように息をつく。
影山が短く言った。「……悪い奴じゃない。ただ、不器用なだけだ」 翔太は答えず、空を見上げた。
雲が赤く染まり、やがて夜の色に変わろうとしていた。




