第3.3量子パルス:影山と郷田、交差する火花
≡ Quantum Pulse 3.3 / Sparks at the Schoolyard
昼休みの中庭。ベンチの上に置いた購買のパンの袋から、甘い匂いが立ち上っていた。翔太はあんパンを半分に割りながら、目の前の影山亮をちらりと見る。
「で、本当に来るのかよ、あの博士のとこ」
影山は、持っていた紙パックの牛乳を一口飲んでから、口の端をわずかに上げた。「興味はある。あんたらの話、正直、半分は信じてないけど……半分は信じてもいいかなって思ってる」
「半分かよ」翔太がため息をつくと、隣の結衣が笑った。「それでも来てくれるなら十分だよ」
影山は少し視線を外し、グラウンドを走る陸上部を見やった。「別に、君らと仲良くしたいわけじゃない。ただ……面白そうだからな」
「はいはい、ツンデレ先輩」ライラが割り込むようにパンをかじり、もぐもぐと口を動かした。影山は視線を戻し、「誰がツンデレだ」とぼそり。
そんな他愛ないやり取りの最中——背後から、重い靴音が近づいてきた。
「おーい、天野ォ!」
声と同時に、背中をドンと叩かれる。前につんのめった翔太が振り返ると、そこには肩幅がやたら広い男——郷田剛が立っていた。制服の袖は肘までまくり上げ、手には野球部のバット。
「お前、また昨日の件、忘れたとは言わせねぇぞ」
「……は?」翔太は首をかしげる。
「学園祭の件、忘れたとは言わせねぇぞぉ!」
「いや、それはこっちのセリフだ!——」
「なんだと!?」郷田は一歩踏み込む。その圧に翔太がのけぞった瞬間、影山が間に入った。
「郷田、今は昼休みだ。バット置け」
「チッ……お前には関係ねぇだろ、影山」
「関係ある。天野は俺の……まあ、仲間みたいなもんだ」
「は? いつから仲間になったんだよ」翔太が小声でつぶやくが、影山は無視。
郷田は影山をじろりと睨み、「へぇ、優等生様がこいつ庇うとはな」と鼻で笑った。ライラがベンチから立ち上がる。「ねぇねぇ、ケンカするなら校庭の端っこでやってくれない?
パンくずが飛ぶから」 結衣が慌ててライラの腕を引く。「余計なこと言わない!」 その瞬間、郷田の視線がライラに移った。
「……お前、新入りか?」
「まあ、そんなとこ」ライラはあっけらかんと答える。
郷田は一瞬、何かを測るように彼女を見たが、すぐに翔太に視線を戻した。「いいか天野、俺は手加減しねぇからな」
「……だから何の話だよ」
影山が間に入って話を収めようとするが、郷田は聞く耳を持たない。結局、チャイムが鳴るまで押し問答は続き、最後は影山の一言で決着がついた。
「郷田、放課後、体育館裏で話そう。それで終わりだ」
「……おう、逃げんなよ」
去っていく郷田の背中を見ながら、翔太は深く息をついた。「なんなんだよ、あいつ……」 影山は小さく笑った。「ああ見えて、根は悪い奴じゃない」
「そうは見えないけど」
「まあ、そのうち分かるさ」
そう言った影山の横顔は、どこか確信めいていた。翔太は釈然としないまま、午後の授業へと向かう。だが、この日が、やがて郷田と肩を並べる日々の始まりになるとは、まだ想像もしていなかった。




