第2.10.2量子パルス:彼女の名前は正義だった
≡ Quantum Pulse 2.10.2 / Her Name Was Justice
「そろそろ……ちゃんと話さなきゃいけないと思って」
ライラの声は、回転を続けるタービンの音に交じりながらも、部屋の中で確かに響いた。翔太と結衣が同時に視線を向ける。ライラは作業台の脇に腰を下ろし、研究室の天井をぼんやりと見上げていた。
「私ね、アルカディア・コネクトっていう組織にいたの。パンデミックの発生源と、宇宙構造の崩壊リスクを止めたくて、こっちの世界に来たの」
彼女は一呼吸おき、小さく笑った。「本当は巻き込むつもりなんてなかったんだけど……」
「じゃあ、それって自分の意思で?」翔太が訊くと、ライラは「うん」とうなずいた。「誰かに命じられたんじゃなくて、自分で選んだの。そうでなきゃ意味がないって思ってたから」
結衣は無言でライラを見つめ、すぐには口を開かなかった。
「それにしても、なんでよりによってドク博士のこの研究室にたどり着いたの?」結衣がようやく疑問を投げると、ライラは少し困ったように視線を逸らし、「ホントはね、もっとスムーズに来れるはずだったんだよ。計画通りなら……でも、うまく制御できなくて。不時着、って言えばいいのかな」と小声で答えた。
「な、な、なんてことを言うんだキミィィィィィィ!」
突然、椅子を弾け飛ばすようにドクが叫び、ゴーグルを額にかけたまま飛び起きた。「私の装置がなければ、キミは今頃、量子の渦の中でジャムみたいになっていたぞ!?
むしろ私は救世主ではないかッ!
「いや、そういう意味じゃ……」ライラが慌てて釈明しかけるも、ドクは止まらない。「偶然の干渉?そんな甘い話があるか!これは運命的リンク!私の計算と閃きの融合が、この邂逅を引き寄せたのだ!」
「はいはい、はいはい」結衣が肩をすくめながらドクの背を軽く叩いた。「自分で言わなきゃ誰も言ってくれないことってあるよね」
翔太は噴き出しかけるのをこらえながら、ライラに目を向けた。
「……大変だったんだな」
その言葉に、ライラはわずかにうなずいた。「でも、たぶん大変なのはこれから、かも」 翔太が何か言いかけた時、結衣が自然な動作で彼の隣に寄り添った。
「だったら、みんなでやるしかないよ」
その言葉は、研究室に流れる機械のノイズよりも温かく、柔らかく響いた。ターミナルの小さな画面が、ひとつの点滅を続けていた。あの点の向こうにある何かが、彼らの知らない“力”の輪郭を微かに描き出していることに、翔太はまだ気づいていなかった。




