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ツヨイチカラ  作者: 桃馬 穂
第2章 学園の風景と芽生え

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第2.10.1量子パルス:争われる未来

 ≡ Quantum Pulse 2.10.1 / Diverging Futures


「来たぞ来たぞ来たぞーッ!これ見て!波形じゃない、完全に意志だこれはッ!」


 ドクの叫び声が、研究室の天井に跳ね返った。床を蹴って転がるように端末に飛びつき、次の瞬間には意味不明なグラフを乱暴に拡大している。ゴーグルのレンズが曇るのもお構いなしに、彼は叫び続けた。


「誰かが!誰かがこっちを見てる!測ってる!嗅いでる!ああもう、そこのコンセント抜いて!電磁反応が!干渉域が!」


「それ、私の髪留めに繋がってるんだけど……」


 ライラが冷静に突っ込んだ。


「いいから抜け!いや抜くな!いややっぱ抜いてくれ!」


 ドクが混乱の渦中にある一方、結衣は椅子から立ち上がり、ログのスクリーンに目を留めた。そこに表示されていたのは、乱数にまぎれて浮かぶ文字列――“A8_Sentinel”。


「エースエイト……」


 ライラが静かに口にした。


「何、それ?」翔太が問うと、彼女は真剣な面持ちで答えた。


「私のいた世界にある組織。A8――エースエイト。特定の資源を追って、いろんな世界にアクセスしてる。わたしがここに来たのも、その資源を探してたから……だけど、たぶんエースエイトも同じ目的だった」


「資源……?」


「レアアースに近い成分。高エネルギー反応を持つ鉱物。私が最初にこの世界に来たせいで、先に痕跡を残しちゃった。だから、向こうは私を先に潰そうとしてるのかも」


 翔太は息を呑んだ。


「じゃあ……今のアクセスって、その……追ってきてる?」


 ライラは少しだけ微笑んで、肩をすくめた。


「そうかもね。でも“見てるだけ”ってこともあるし。あの人たち、最初は“観察”から入るの。データが重要だから」


「どんな組織なんだよ、それ……」


「うーん、真面目で、冷たくて、でも効率主義って感じ。仲良くはなれない、かな」


 そのとき、端末の別ウィンドウが音を立てて開いた。“Policy_Alpha”というタグが記録ログに追加された。


「ポリシーアルファだとォォォ!?」


 ドクが突然椅子から飛び上がった。


「これが出たってことは、もう完全にマークされてる!逃げ場はない!……今すぐ地下に潜ろう!いや、研究所を移動しよう!いや、もう引っ越すしかない!」


「はいはいはい、ドク落ち着いて」


 結衣が冷静に背中をぽんと叩く。翔太は、ふたりのやり取りを聞きながら、目の前のライラを見つめていた。彼女の言葉は、まるで何でもないような口ぶりだったけど、その奥にある緊張が伝わってきた。


 ――この世界は、もうただの“日常”ではなくなっている。そう思わされたのは、ドクの騒ぎでも、画面の文字列でもなかった。ライラの微かな沈黙が、それを何よりも確かに物語っていた。


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