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ツヨイチカラ  作者: 桃馬 穂
第11章 禁じ手の握手

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第11.11量子パルス:最後の後悔と玉座の重み

 ≡ Quantum Pulse 11.11 / Final Regret, The Weight of the Throne


 レンシの意識は、過去の膨大なデータと、古代アルカトラスのクリスタルから受け継いだ冷徹な真実の中で揺らいでいた。

 彼は、レナの命と引き換えに学んだ。全員を救おうとするという甘い理想は、必ず「誰も救えない」という悲劇を招く 。愛する妹の命は、社会の無秩序な感情と非効率な平等という名の毒によって、奪われた。

 彼はその痛みを乗り越え、感情を排した究極の効率と統制を敷くゼファルへと変貌した。選ばれた者だけを救い、種を存続させるための厳格な階層化。それは、マーラが信奉し、カサンドラが古代のデータで証明した、歴史の必然だった。

 しかし、この玉座の冷たいクリスタルに座っている間、彼は自覚せざるを得なかった。この秩序を確立したところで、レナは戻らない。そして、彼はもう、あの日の純粋な科学への情熱を持つ、レンシではない。

「……孤独だ」

 彼の心は、凍りついたまま、その孤独を観測していた。彼は、人類を救うために感情を切り捨てた。だが、その切り捨てたものの中に、レナとの温かい記憶や、かつてクロノス、マーラと分かち合った理想の欠片までもが含まれていたことに、今、遅すぎる後悔の影が落ちていた。

 この玉座は、種の存続という絶対的な正義と引き換えに、彼から人間性という最後の光を奪い去った、究極の孤独の座だった。


 ゼファルの視線は、眼前の扉の亀裂の奥へ向けられた。

 そこには、翔太とライラが、息を潜めて最終突入の機会をうかがっている。

 翔太——彼こそが、ゼファルが最も憎むべき「ノイズ」の具現化だった。誰も見捨てない。感情と絆を力に変える。失敗と犠牲を恐れず、非効率で無秩序な手段を選ぶ。

「君たちは、あの日のα世界を再現しようとしている」

 ゼファルは冷徹に断罪した。翔太の「誰をも救う」という無謀な行為は、レナを殺した「無秩序な希望」を、この最後の聖域で再現しようとしているに他ならない。

 ゼファルにとって、翔太の存在は、彼の秩序のすべてを崩壊させ、再び種を滅亡の淵へと引き戻しかねない、歴史の因果律における最大の汚点だった。排除は、秩序を保つためであり、種を救うための絶対的な歴史の必然なのだ。


 制御盤の青白い光が、急速に激しさを増した。

 キィィン。

 耳鳴りのような高周波の唸りが響き、中枢全体が低い振動を取り戻す。防御システムのリブート完了を示す、澄んだ電子音が、静寂を打ち破った。

 ゼファルは、孤独な玉座からゆっくりと立ち上がった。白いローブの裾が、クリスタルの床を滑る。

 彼は、玉座の脇に隠された緊急起動スイッチに手を伸ばす。翔太たちが、ボードのナイフで切り裂いた直後に、起動した最終防衛システム。

 そのスイッチを押す直前、彼の脳裏に、再びレナの最後の微笑みがフラッシュバックした。「あの微笑みを守るには、この冷たさしかなかった」。彼はそう、自分に言い聞かせた。


「グランド・コンダクター、全防衛システム、リブート完了」

 統制室の自動音声が、静かに告げる。

 ゼファルは、自らの全てを、この絶対的な秩序のために捧げた。もう後戻りはない。

 彼は、眼下の翔太とライラに、冷酷な視線を固定した。その瞳の奥には、彼が過去の悲劇から導き出した選民の確信だけが宿っていた。

「排除する」

 その一語が、最終決戦の号砲だった。

 玉座の周囲に、轟音と共に再びエネルギーフィールドが展開され始める。ゼファルが手を振るうと同時に、ティターンが崩れ落ちた場所から、新たな自律防衛体が出現した。

 翔太はボードに足を乗せ、ドクが組み込んだ高周波振動ナイフを握り直した。

「ライラ、行くぞ!」

 二人は、絶対的な秩序を掲げるゼファルの選民思想と、自分たちの「誰も見捨てない」という無秩序な希望を賭けて、玉座へと最後の突入を開始した。


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