第11.8量子パルス:血清の共鳴、解かれた方程式
≡ Quantum Pulse 11.8 / Serum Resonance, The Solved Equation
研究室。結衣は、リクの残した量子解析データと、ドク博士の導き出したダークマターレゾナンス・コアの理論を前に、全神経を集中させていた。
ティターンを構成する重力制御体が、一時的に無力化された状態は、わずか数秒で終わってしまう。その数秒の間に、翔太の持つ特殊な遺伝子情報がもたらす血液中の特異な酵素を、結衣の血筋のHLAハプロタイプの配列と共鳴させることで、ティターンの重力制御系を強制的にリセットさせる必要があった。
「リク、聞いて」
結衣は、ポッドで眠る弟に話しかけるように、静かに、しかし明確に言った。
「翔太くんの血清と、私の配列を、最高のハーモニーで繋ぐ。それが、私たちが最後にできる、方程式の解よ」。
結衣は、自らの指先から血液サンプルを採取し、それを高速解析装置にセットした。端末には、翔太の血液サンプルから得られた波形(発振点)が既に表示されている。二つの波形を重ねる。
「見る・なぞる・取る……最後は、なぞるだけ」。
結衣は、科学的知識と、翔太への揺るぎない信頼を込めて、二つの波形が完璧に重なる一点へとカーソルを移動させた。
玉座の階段の下。翔太はドクの指示通り、ボードのグリップ部分に仕込まれた注射器状のデバイスに、自分の血清を注入した。それは、彼の中にある免疫反応を飛躍的に高める“特殊な遺伝子配列”が濃縮されたものだった。
『翔太君!今じゃ!それをボードの中枢に流し込め!結衣君が、外側から周波数を合わせる!』
翔太がデバイスをボードに接続し、トリガーを引いた瞬間、ボード全体が青白い光を放った。彼の体内にある配列が、ボードの量子回路を通じて、時空バリア中枢全体に放出される。
それと同時に、結衣が調整したHLAハプロタイプの共鳴周波数が、毒蝮研究所から量子通信で中枢へと叩き込まれた。
翔太の力(発振点)と結衣の力(ハプロタイプ配列)共鳴した。
広場全体が、一瞬だけホワイトアウトする。
ティターンを覆っていた漆黒の装甲から、激しい火花が散った。重力制御系の制御が一時的に失われ、その巨大な躯体が、まるで糸が切れたかのように、地面に崩れ落ちた。
玉座に座るゼファルの顔に、初めて動揺の影が走った。
「馬鹿な……! ティターンの重力制御体が、なぜ静止した……!」
ゼファルは慌てて手元のコンソールを叩く。彼が信頼していた科学的必然性が、今、彼が「無秩序」と蔑んだ現代の少年たちの絆と技術の融合によって、一時的に覆されたのだ。
翔太はボードを抱え、ティターンが崩れたことで生まれた、玉座への最短の直線を見た。
「ライラ!行くぞ!」
「うん!」
翔太はボードを蹴り、玉座へと突進した。ライラも、ゼファルが次の防衛体を起動させる一瞬の隙を狙い、彼の側面にぴったりと寄り添う。
目の前には、ゼファルが座す玉座のクリスタル。彼が時空バリア中枢の全機能を統括する、最終的な制御室の扉だった。
ゼファルは、目の前に迫る翔太の、怒りと決意に満ちた瞳を、初めて真正面から受け止めた。彼は、最後の抵抗として、玉座の脇に隠された緊急起動スイッチに手を伸ばす。
翔太は、ボードのブーストを最大にし、渾身の力を込めて、ボードの先端に仕込まれた高周波振動ナイフをゼファルの足元に向けて振り下ろした。
ガキン!
ナイフはクリスタル製の玉座の床を深く切り裂いた。その衝撃で、制御室の扉が、大きく軋んだ音を立てた。
最終決戦の、火蓋が切られた。




