8・セドリックとアルフレット
「……」
「……」
ガタンゴトンと激しく馬車が揺れる。
私は朝早くからアルフレットとクレフに見送られ、セドリックや騎士団と共に王都を出発した。
ここからラフレシス公爵領までは一時間程度。
たった一時間。されど一時間。
私はその間、この重苦しい空気に堪えなばならない。
なんてったて、この馬車には私とセドリック、二人しか乗り合わせていないのだから──。
「……あの、聖女は?」
「聖女はこの後方の馬車だ」
「……」
「……」
会話が続かない!!
よくこんなで五年も夫婦やってこれたわね。
──と思ったけれど、夫婦らしい夫婦なんてしてこなかったんだったわ。
寝室も別。
会話は朝昼夜の食事での業務連絡や仕事の話のみ。
まともな会話なんてしたことが無いのだ。
「……」
「……」
あぁ、景色が綺麗。緑が溢れる草原を颯爽と駆ける感覚。
すてきだわ。
もはや景色を見るしかできない私は、意識を外へと集中させる。
そうだ。今度アルフレットとルナマリアを連れてお弁当を持ってピクニックに行きましょう。
きっと二人とも喜ぶわ。
「…………子ども達は──」
「へ?」
突然セドリックから声をかけられて、間抜けた声が出てしまった。
まさかあちらから声がかかるだなんて、思ってもみなかった。
「子どもたちは、ずいぶんあなたに懐いているようだな」
視線は窓の外に向けたまま放たれた言葉は、いったい何を意図として発せられたのか。
私は慎重に言葉を選んで、そして答える。
「そう、でしょうか? 普通では? そうであってほしい、とは思いますが……」
実際どうなのかは私にもわからない。
本人達のみぞ知る、だ。
ただ、嫌われてはいないとは思う。
二人とも、最近は気兼ねなく話しかけてくれるようになったし、話をしていても笑顔が増えた。
前はびくびくしながら硬い表情でいたのを考えると、素晴らしい一歩だと思う。
それに、アルフレットとルナマリアの仲も良好だ。
良く二人で一緒に勉強をして、時折楽しそうに談笑している姿も見ている。
ルナマリアはやっぱり少しばかり表情が乏しいけれど、前よりもずいぶん柔らかい表情をすることが増えた。
私とセドリックにはなかった空気が、二人にはある。
セドリックは昔から、もともとあまり表情が変わらない。
幼いながらに私のことが嫌いなんだろうと思ってしまうほどには。
だけど苦しい王妃教育の中で時々彼が無表情ながらに手渡してくれたキャンディが、私の心を繋ぎとめてしまった。
たったそれだけ。
優しい言葉があるわけでもない。
なのに、与えられた小さなやさしさと思いやりが、私の心をどうしようもなくダメにしてしまったのだ。
「……アルフレットが言っていた」
「え?」
「……父と母と、三人で眠ってみたい、と」
「アルフレットが……?」
「あぁ。あの子が私に意見を言うことは初めてで、少し驚いた」
アルフレットはセドリックが苦手だ。
いや、苦手、というのは少し違うかもしれないけれど、セドリックの無表情で威圧感のある態度に委縮して何も言えないのだ。
それが、セドリックに意見を……?
……そういえば、あの子が生まれてもセドリックと一緒に寝たことが無いのだから、三人で寝たいと考えていても不思議ではない、のよね。
あの子もまだ五歳なんだもの。
「…………帰ったら、寝てみるか。……三人で」
「え!? いや、でも、あなた……」
「嫌ならいい。無理強いはしない」
そう淡々と言い放ってまた窓の外を眺めるセドリックは、どこか拗ねているようにも見えて、私は訳がわからないながらも口を開いた。
「……嫌だなんてこと……。その……よろしく、お願いします」
きっとこの人はこの人なりに、アルフレットの初めてのお願いを聞いてあげようとしているのよね。
そのためなら嫌いな私とも一緒に眠れるのだもの。
意外と父親として自覚があったのは嬉しいことだわ。
「……あぁ」
帰って来た短い返事は、少しだけ柔らかく感じた。




