7・母親であること
「お母様をいじめないで!!」
私の握りしめた拳を小さく柔らかな手がそっと触れる。
「アルフレット……」
小さなその手から辿ってみると、目にいっぱい涙を浮かべながらも、自分の父親を睨みつけるアルフレットの顔が。
子どもからしてみれば、いつも厳しい表情で必要以上に関わらないセドリックは恐怖の対象だ。
なのに私の為に声を上げてくれた。
こんなにも震えているのに。
こんなにも涙をためているのに。
私が遠ざけようとしてきた息子は、こんなにも強い子供だったのか。
さっきまでの高ぶりが嘘みたいに引いていく。
落ち着いて。
私は王妃である前に、この子の母親よ。
こんなところで取り乱してはいけないわ。
「──アルフレット」
私は、私を守ろうと未だ父親を睨みつける息子の肩に、そっと触れて、微笑んだ。
「ありがとう。お母様の為に声を上げてくれて。あなたはとても勇敢な騎士ね」
そう言って優しく頭を撫でてやると、照れたようにして笑う。
そんなアルフレットに、私は続けた。
「大丈夫。お父様はお母様をいじめてなんていないわ。お母様には聖魔法の力が無いのは本当だし、お父様のように戦う力もない。そんなお母様が行っても、足手まといだもの」
「お母様……」
「ただね、生きているうちに、会える人にはあっておかないと、いずれ後悔する。だからつい、行きたいだなんて言ってしまったの。ごめんなさいね、心配させて」
前世。
私は突然あの世を去ってしまった。
私を産み大切に育ててくれた母や父、喧嘩しながらも仲の良かった妹に何も言えないまま、明日が来るものだと、当たり前に思っていた結果、何も伝えられないまま二度と会えなくなった。
ありがとうも、大好きも、何も。
今世の父母も、とても優しい人だ。
お兄様も私のことをとても可愛がってくれていた。
私はそんな家族が大好きだし、うちのように仲の良い家庭をもてたらと、そう、私の理想で夢だったのだ。
それでも今の私はラフレシス公爵令嬢ではない。
一国の王の妻なのだ。
感情のままに、わがままを言ってはいけない。
「セドリック。聖女様にくれぐれもよろしくと伝えてくださるかしら? 行きましょう、アルフレット、ルナマリア」
これ以上ここに居ても仕方がない。
私は淡々とセドリックにそう言づけると、アルフレットとルナマリアの手を引いて彼に背を向けた。
が──────。
「…………いいだろう。リーゼロッテのラフレシス行きを許可する」
「!?」
「陛下!?」
お母さまが驚きの声を上げると同時に、私もその耳を疑う言葉に勢いよく振り返ると、その青い瞳と目が合わさった。
「ただし、常に私から離れることのないように」
「は? え、ちょ、でも──」
「クレフ、子どもたちを頼んだ」
「承知よぉ~」
何だかよくわからないけれど、とんとんと話がまとまっていく……!!
これは、えっと、行ってもいい、のよね?
セドリックと離れない条件で?
眉間に皺を寄せて心底不機嫌そうだけれど、そういうこと、なのよね?
ということは……お父様やお兄様に会える……!!
「……ありがとう、セドリック……っ」
「っ……!!」
恐らく初めてであろう。
セドリックに心から笑みを向けたのは。
私の普段ならあり得ない表情に、セドリックが固まった。
どうせ不気味だとか天変地異の前触れかなんて思っているんでしょうけれど、この際何でもいい。
今は感謝でいっぱいだもの。
「…………リーゼ──」
「あんた達ぃいいいっ!! 今からしばらくアタシがリーゼロッテの代わりよぅっ!! アタシのことは、クレフママンとお呼びなさぁ~~~~いっ!!」
「いやぁあああああああああ!!」
クレフの大暴走に、子ども達の悲鳴が飛び交った。
皆様たくさん読んでくださってありがとうございます!!
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景華




