6・王妃という立場
国王陛下の執務室。
執務机と本棚、応接セットのみがある殺風景なその部屋に、私とセドリック、アルフレット、それにルナマリアとお母様、ジュリア様が集まる。
重苦しい空気の中、最後に部屋へと入ってきた男が扉を閉めた。
クレフ・ラベンディ。
セドリックの乳兄弟で、宮廷魔術師を務める男。
私ともセドリックとも幼い頃からの付き合いで、彼がいることで私達の均衡は保たれてきたと言っても過言ではない。
クセが強いけど。────そう、クセが。
「さぁて、皆揃ったかしらぁ? ちょっとセドリック!! なに人殺しそうな顔してんのよぅっ!! 皆が委縮しちゃうでしょうっ!! んもうっ!! いやぁねぇ!!」
一つにくくられた金色のウェーブがかかった長い髪に、緑の瞳。
テンション高めの彼は、乙女系男子──いや、いわゆるオネエだ。
たいていの人は初対面でこのキャラにあっけに取られてしまうのだけれど、ここに居る人間はもう慣れてしまった。
ルナマリアはもしかしたらまだ慣れないかもしれないけれど、一切顔には出さないあたり、さすがと言える。
「……それで? いったい何がありましたの? 私達だけでなく、母やジュリア様までお呼びになったということは、ラフレシス侯爵領に付いて、何かあったのでしょうか?」
セドリックの様子から、あまり良い事でないのだけは伝わってくる。
「……あぁ。……・ラフレシス公爵領で、魔物の群れが異常暴走し、町を襲ったと報告が入った」
「!? 魔物が────!?」
「何という……っ陛下、夫と息子は……!?」
震える手で口元を覆い、セドリックに詰め寄る母。
その方を両手で支えるようにして、ジュリア様が口を開いた。
「ご無事、ですわよね……? 陛下?」
振り絞るようなその問いかけに、セドリックがゆっくりと頷く。
「あぁ。無事だ。町の中に入り込んだ魔物の討伐も既に完了しているようで、公爵と令息の指揮で街の復興作業にあたっている。負傷者はいるものの、死者はいないとのことだ」
父と兄が無事。
それに、領民の死者もゼロ……。
その報告に、私も、そして母とジュリア様もほっと胸をなでおろす。
よかった……。皆が無事ならば、ひとまずは安心ね。
怪我人はいても、命があるなら、またやり直せるわ。
「だが、三年前の領地への魔物の襲撃といい、今回の事といい、魔物の勢力が強まっていることは明らか。他領での町への侵入は今のところないが、魔物の凶暴化は深刻化している。至急騎士団を連れ、調査に向かう。聖女にも、防御魔法の修復に同行してもらうことになった」
一つひとつの町や村には防御魔法が施されており、外から魔物が侵入することはない。
にもかかわらず3年前に今回に、二度も魔物の侵入を許しているというのは、おかしいとしか言いようがない。
何者かが意図的に仕組んだものである可能性も高い、か……。
「セドリック。私もラフレシス公爵領に行くわ」
お父様たちのことが気になる。
私は結婚してから二度しか父に会えていない。
一度目はアルフレットが生まれた時。
二度目は3年前に魔物が領地を荒らした際にしばらく父と兄で王都を離れるとなった時。
それ以降三年間、一度たりとも会っていないのだ。
会わないまま、後悔はしたくない。
だけど私の申し出に、セドリックは眉間の渓谷をより一層深めると、ただ一言「だめだ」と突き返した。
「王妃までも城から離れるわけにはいかない。私と聖女のみで十分だ」
「っ、でも──っ」
「それに、君には聖魔法が使えないだろう?」
「っ……それは……」
まるでで聖女に劣っていると言われているように感じる。
王妃として、この国やセドリックを支えてきたのは、私なのに……。
重苦しい空気が執務室に漂う。
だけどセドリックの言うことは正しい。
防御魔法の補強に同行する聖女のように、聖魔法が使えるわけでもない私が行って何になるのか。
一時の感情だけで動いてはいけない。
王がいない王都を守る責任がある。
わかっているのに────。
悔しさにぐっと両手を握り締め俯いた、その時──。
「お母様をいじめないで!!」




