5・色鮮やかなお茶会、されど戦場2
「国王陛下と聖女様は婚約はなさらないのですわね」
「あら、ご存じないの? 教会の管轄である聖女様は、本来なら聖職者と同じで結婚さなされないお立場。聖女であり大司教様と前国王陛下が認められたからこその結婚のお話ですから、お二人が認めたことですでに婚約という扱いになっているのですわ」
「あとはご結婚を待つばかり。国王陛下と聖女様がご結婚なされば、今の魔物問題も解決するはずですものね」
「これで神聖なる聖女様がお子を産めば、本当の意味で国は安泰ですわ」
ご婦人方のおしゃべりがヒートアップしていく。
よくもまぁ王妃である私がいるというのに、そんな話ができるものね。
それだけ私の地位が下だと思われているのだろうけれど、こうもあからさまだと不快を通り越してすがすがしいわ。
だけど、そろそろ話題を変えなければ、お母様の苛立ちが最高潮に達してしまうわ。
そうなれば私ですら手が付けられない。
私はふぅ、と小さく息をつくと、表情を引き締め口を開いた。
「皆さ──」
「国王陛下が愛されているのは、王妃殿下ただお一人です」
「!!」
私の言葉を遮って飛び出したそれに、私は驚きに目を見開き隣の席で無表情にも真っすぐに前を向く少女を見た。
これだけの大人の前で送すことなく毅然と振舞うルナマリアは、5歳の幼子とは思えない。
「で、ですが、国王陛下は聖女様を……」
「ナタリア・ベゴニス侯爵夫人は、気づかれないのですか? 国王陛下のあの王妃様を見つめる優しい眼差しに。愛する人でなければ、あんな表情はできません。ただはっきりされないだけで」
ベゴニス侯爵夫人にぴしゃりと言い放つルナマリアに、そしてその言い分に、皆が唖然とした。
セドリックが私を見る表情が優しい?
ごめんなさいルナマリア。
フォローはものすごく嬉しいけれど、そんなのありえないって皆がわかっているくらい、セドリックの表情は無で、言葉かけも必要最低限。
これで愛していると思える人なんていないわ。
「聖女様と陛下がお二人そろわれている時にお目にかかったことがありますが、聖女様に対しては王妃様に向けるような優しい表情をされることはありませんでした」
それでも聖女には饒舌だ。
自分から話を振るし、表情だって一応は動く。
それはきっと、聖女ローラに対してのみだ。
わかりきったことであるにもかかわらず、必至で私をかばってくれるルナマリアに何とも言えない表情を浮かべる大人たち。
妙な空気が流れる中、私はルナマリアの肩にそっと手をやった。
「ありがとう、ルナマリア。私、あなたが娘になる日が待ち遠しいわ」
そう言って微笑むと、ルナマリアはピクリと表情筋を動かし、照れたように俯いた。
うちの娘(予定)が可愛すぎる……っ!!!!
そんな私たちを、目を大きくかっぴらいて凝視するお茶会の参加者達。
そしてそれは、お付きの侍女や執事も同じだ。
失礼な。私だって笑う時は笑う。
これまではセドリックによく似たアルフレットと関わるのが辛くて距離を取っていたし、いつかくるその日が、セドリックの自分への態度が辛くて、自分の仕事に没頭してきたけれど、「セドリックなんて知らん」と自分の中で吹っ切れた今、存分に甘やかしたいし笑顔で接したいと思う。
もちろん、その婚約者であるルナマリアにも。
前世、私は自分の母が大好きだった。
母のように、子どもを愛する母になりたい。
そんな夢を持っていた。
過程や思惑はどうであれ、運良くアルフレットを授かったのだ。
大切にしないと、前世の母に顔向けができないわ。
「……王太子殿下の婚約者がお優しい方で、うらやましいですわ」
「えぇ、自慢の義娘よ」
ベゴニス侯爵夫人が悔し気ながらも取り繕うと、私はにっこりと笑って追い打ちをかけた。
その時──。
「──リーゼロッテ」
「!! セドリック……。それに、アルフレットも?」
お茶会会場である庭園に揃って現れた二人に、婦人たち、それにルナマリアが一斉に立ち上がり、カーテシーをする。
どうしたのかしら、二人そろってお茶会に顔を出すだなんて珍しい。
「急を要する大切な話がある。マグノリス公爵令嬢も、それにラフレシス侯爵夫人、アンベラス伯爵令嬢も」
「お母様たちも?」
ルナマリアだけでなくお母様、それにジュリア様まで……。……嫌な予感がする。
「……わかりましたわ。──皆様、本日のお茶会はここまでとさせてくださいませ。スイーツはメイドに包ませますので、どうぞお持ち帰りくださいね」
私は参加者達にそう言ってカーテシーをすると、ルナマリア達と共にセドリックについて城内へと続いた。




