4・色鮮やかなお茶会、されど戦場1
「皆様、本日は私のお茶会に来てくださってありがとう。城の料理人たちが腕によりをかけて作ってくれたお菓子、たんと召し上がってくださいな」
目の前にずらりと並べられたたくさんのスイーツに、参加者達の感嘆の声が漏れる。
食用花の砂糖漬けやチョコレート細工で可愛らしくデコレーションされたカラフルなスイーツたちは、この日の為に料理長が考案してくれたものだ。
真っ白なテーブルクロスにはスイーツに寄り添うように色とりどりの花が飾られ、テーブルの上を見ているだけでも幸せな気持ちになれる。
これらは全て、婚約したばかりのルナマリアのため、実は可愛らしいものが大好きな彼女に喜んでもらえるよう、私と料理長とで懸命に考えたものだ。
晴れ渡る空。ぽかぽかと暖かい日差し。時々髪を攫う春風が心地いい。
──今日は絶好のお茶会日和。
この王妃主催のお茶会に集まるのは伯爵位以上の限られた夫人と令嬢のみで、円形のテーブルに5人ずつ、序列に沿った席を用意してある。
ここで交流をし、様々な情報を得たり存在感をしっかりと示すことは、私の大切な仕事の一つ。
特に女性の情報網は、それはもう恐ろしいほどに優れている。
普段私達のところまで上がってこない声や問題にもすぐに気づくことができるのだから、定期的にこういうお茶会を開かねばならない。
例え最高に、そう、面倒であっても──。
「それと──」
私は自身の隣に表情無くちょこんと座る小さな令嬢へと視線を向ける。
「ルナマリア・マグノリス公爵令嬢が、先日正式に息子アルフレットの婚約者となりました。皆様、どうぞよろしくお願いしますわね」
私が可愛い義理の娘(予定)を紹介すると、ルナマリアは立ち上がり、まっすぐ前を見つめてから、美しいカーテシーを披露した。
ピンと伸びた背筋。指先、頭の角度……、どれも5歳にして既に洗練された美しさを放ち、その完璧なるカーテシーに婦人たちは息を呑んだ。
素晴らしいとは思う。
だけどこの美しいカーテシーを習得するのに、どれだけの練習を重ねてきたのか。
5歳という小さな身体で、大人の都合に振り回されて来たのか。
それがこの子にとってどれだけ負担であるか、理解ができるからこそ、複雑な気持ちだ。
特にルナマリアの両親であるマグノリス公爵夫妻は、とても厳しい方々だ。
甘やかすことは一切しないし、きちんと履修できなければ罰が与えられる。
そんな家庭で育ったルナマリアは、完璧なる淑女に育ったその代わりに、子どもとして甘えられる時間というものを失ってしまった。
せめて一緒にいる時は、彼女の好きなものを食べさせて、好きなことをさせて、好きなように発言させてあげたい。
「王妃様、マグノリス公爵令嬢、この度は本当におめでとうございます。先日の婚約披露パーティ。アルフレット王太子殿下とのその初々しきお姿、微笑ましく拝見しておりましたわ」
まず最初ににこやかに祝いの言葉を述べたのは、ここに居る参加者の中で一番地位の高いアリア・ラフレシス公爵夫人。
私の実の母で、アルフレットにとって祖父にあたる。
いつも優しく穏やかな母は、美しく聡明で、未だに社交界で強い影響力を持っている。
「本当に、よくお似合いでしたわ。これでシーリア王家も安泰ですわね」
そう言って微笑む母の隣に座っている若い女性は、ジュリア・アンベラス伯爵令嬢。
私の3つ上の兄エルランド・ラフレシスの婚約者だ。
本当は3年前に結婚予定だった二人だけれど、魔物の勢力が強まり領内にまで影響が出始めたことで、急遽兄は父と共に領地に戻り、領内の守りと荒れた農地の復興作業にあたることになってしまい、結婚は延期となってしまった。
それでも兄さまに見切りをつけることなく待っていてくださるジュリア様には、私も母も、もちろん父も兄も、感謝でいっぱいだ。
妹である私の事もとても大切に思ってくださるし、私としては早くお義姉様と呼びたくてうずうずしている。
「えぇえぇ、もう一人はお子がいれば安心でしょうけれど、アルフレット殿下が6歳になり聖女様が第二妃となれば、何の問題もありませんものねぇ」
「っ……」
厭味ったらしく笑みを浮かべ私を挟んで母の正面に座る女性は、アンバー・ガーベラン公爵令嬢。
私やセドリックとは同い年で、セドリックの婚約者の座を狙って昔からやたらと私に突っかかって来ていた彼女は、今も会えば嫌味ばかり。
まったく、成長しないのかしら、この人は。
「……ご心配ありがとう。アンバー様はもうすぐご結婚ですわね。確か、お相手はグラジオラ辺境伯だとか。年齢はいささか離れておりますが、優しいお方だったはず。式が楽しみだわ。」
グラジオラ辺境伯は、私達より15も年が上の38歳。
その歳まで未婚だったというのだから、何かとんでもない人なのかと思えばそうではない。辺境伯として、国境の守護や魔物の討伐などで忙しくされて婚期を逃していただけで、視察の際に実際にお会いしたらとても優しく穏やかな方だったと記憶している。
この国に家格が釣り合う人がもう辺境伯ぐらいしかいなかったうえ、自分より格下の家には嫁ぎたくないというアンバー様の譲れない最低条件が故にまとめられた縁談らしいけれど、我が強いアンバー様には穏やかなグラジオラ辺境伯がちょうどいいのだと思う。
まぁ、本人はまだ納得していないようだけれど。
「ぐっ……。い、言われなくとも、良い式にしてみせますわ!! 子どもも、《《唯一の》》妻となる私がたくさん産んで差し上げるつもりですもの!!」
「……そう、頑張ってね」
初夜から一度もセドリックとは夜を共にしていない。
それどころか初夜の日ですら寝室は別だった。
運良く初夜の一度でアルフレットを身籠ったものの、こんな状態じゃ次のお子なんて望めるわけがない。
それに、真に愛する女性である聖女が第二妃となれば、私はお役御免だもの。
まったく、絵に描いたような仮面夫婦ね。
ひゃぁあああっ、連載初日、[日間]異世界転生/転移〔恋愛〕 61位ありがとうございます!!
本当、嬉しいです……!!!!!




