3・優しい子供たちがいるから夫はいりません
婚約披露パーティを滞りなく終え、私の前世の記憶がよみがえってから数日が経った。
今のところはすこぶる毎日が平和だ。そう、今のところは。
「はい、できた」
「うわぁ、お母様すごーい!!」
「すばらしいですわ、王妃様……!!」
私の目の前でキラキラと大きな瞳を輝かせて、私の手の平に載った花冠を見つめるアルフレットとルナマリア。
あぁ、なんて可愛いのかしら……!! 癒しそのものだわ……!!
週に一回交流をすることになったルナマリアとアルフレット。
私は暇を見つけてはそれに乱入し、一緒にお茶をしたり本を読んだり、今日のように城のすぐ近くの花畑で花冠を作ったり、何かと二人の間を取り持っている。
表情の乏しいルナマリアに、アルフレットはどうすればいいのかわからずに戸惑っているし、嫌われているのではないかと誤解している節がある。
対してルナマリアは5歳にして完璧なる公爵令嬢感を醸し出していて、強力なるバリアを感じる。
私が間に入って、何とか二人の間をぐっと近づけさせねば……。
「お父様も来たらいいのにね……」
突如飛び出した言葉に、私はびくりと身体を揺らした。
「そ、そうね、お忙しい方だから……」
「聖女とお茶会をすることが?」
「!!」
ルナマリアの言葉に、一瞬、息が詰まった。
そう、セドリックは今、我が国の聖女──ローラと週に一度の逢瀬中だ。
これは私達が結婚する前から続いており、二人の仲を認めさせる大事な習慣。
私達が結婚をする3年前の事。
孤児院育ちのローラに聖女の力が目覚めた。
ふんわりとした愛らしい聖女は、皆から愛されていた。
そしていつしかセドリックと聖女の結婚を望む声が生まれたのだけれど、その時すでに私との結婚まで半年を切っていたことでその話は流れた──かのように思えた。
まだ強い権力を持つ大司教は諦めなかった。
聖女は長い聖女振興の中でも常に王族と結婚をしており、愛し合う二人を引き離すことは神への大罪であるとして、聖女を第二妃にするよう進言したのだ。
当時の国王陛下であるセドリックの父上は、慣例に倣い、王太子妃である私リーゼロッテが第一子を出産し、その子が5歳を無事終えることができた暁には、聖女を第二妃として迎えることを了承した。
この国では生まれて5年が人生で一番厄を持つ年と言われている。
遥か昔、国が未発展で衛生状況も悪く、子供が5年生きられると奇跡だと祝われた時代の名残らしい。
5年後で合意した国王陛下と大司教は、セドリックとローラに、それまでの間週に一度の逢瀬を課した。
妃に迎えることができる第一条件である第一子がいつ生まれるかもわからない中、二人の揺るがぬ愛を国民に理解させる必要がある、と。
幸い結婚してすぐにアルフレットを授かったものだけれど、そのアルフレットももう5歳。
6歳になると同時に、ローラは第二妃となる資格を得る──。
これはその、大事な過程であり義務なのだ。
仕方がない。
もう疲れてしまった。
この苦しみに。
愛する人が週に一度他の女の所へ渡るそのえぐられるような胸の痛みに。
もういいのよ。
だって私にはこの二人がいる。
本ではセドリックはアルフレットが6歳になると早々にローラを第二妃として迎え入れ、その半年後にローラに毒を盛った正妃である私──リーゼロッテを処刑した。
第二妃、しかも聖女に毒を盛ったリーゼロッテへの采配は間違ってはいない。
ただ、もとを正せば、幼い頃からの婚約者を蔑ろにしローラを第二妃に迎え入れたセドリックにも非があると私は思うのよね。
だけど、今回はそんなことには絶対にならない。
私には目的があるのだから。
アルフレットを優しい王太子に育て上げ、義母としてルナマリアを悪役令嬢の道から遠ざける。
セドリックなんて、あの女にくれてやるわ。
「王妃様は、はっきりとしない国王陛下に少しは怒って良いと思います」
「ルナマリア、なんてことを言うんだ!!」
淡々と5歳らしからぬ言葉を放つルナマリアに、アルフレットが声を上げる。
いけない。
私のことでわだかまりを持たせては、本末転倒だわ。
「アルフレット、違うのよ。ルナマリアは、私のことを案じてくれているの。案じたうえで、私の為に怒ってくれているのよ」
「ルナマリアが……?」
驚いたように隣のルナマリアに視線を向けるアルフレット。
「とても優しい子よ、ルナマリアは。人の気持ちを思いやる心を持っているのだもの。もちろん、あなたもね、アルフレット」
「僕も?」
「えぇ。あなたも、私の為に怒ってくれたでしょう? 二人とも。とても優しい子だわ」
そう言って微笑むと、アルフレットはじっと口をつぐんでしばらく何かを考えてから、ゆっくりと口を開いた。
「うん。そうだね。ルナマリアはちょっと怖いけど、優しい」
「……」
「だってお茶会の時いつも、自分の好きなお菓子ではなく、さりげなく僕の好きなお菓子を侍女にリクエストしてくれてるんだ」
「でんか……」
「ルナマリアの好きなお菓子も教えてよ。今度はそれを一緒に食べよう」
アルフレットがにっこりと笑うと、表情の乏しいルナマリアが大きく目を見開いて、その目を潤ませた。
「っ……はいっ……」
その日初めてルナマリアの笑顔を見た私達は、言葉を失ってその笑顔に見入ったのは言うまでもない。
ルナマリアは表情に出にくいだけ。
本当はとても優しい心を持ち、人の心の動きに機敏だ。
言葉足らずで誤解を受けてしまうのがもったいないくらいに、あたたかい子なのだ。
そんな彼女を、アルフレットが理解してあげられるようになる未来がきっとくる。
それを確信した、優しさにあふれるひと時だった。
昨日から始まった「悪役令嬢の義母」、いかがでしょうか?
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続きも楽しんでいただけますと嬉しいです。




