33・動き出した運命
ローラと共に行方不明事件について話し合いながら大通りを歩いていた、その時だった。
ふと、視界の端で小さな影がぐらりと揺れた。
「……っ!?」
嫌な予感がして反射的に振り返ると同時に、小柄な少女が石畳の上へ倒れ込んだ──!!
私は考えるより先に駆け出していた。
「大丈夫!?」
しゃがみ込み、少女の身体を抱き起こした瞬間────私は、息を呑んだ。
淡い金髪。
まだ幼さの残る整った顔立ちだけれど、間違いないわ。この子は──。
「……リリス」
思わず、その名前が漏れ出た。
十三年後、アルフレットと恋に落ちる少女。
ルナマリアを差し置いて彼の隣に立っていた──ヒロイン。
どうして、こんなところに……。
いえ、でもここに居ても不思議ではないわ。
だってリリスは、平民の子だもの。
あぁでも、できることなら関わりたくなかった。
この子は未来でアルフレットと結ばれる存在だ。
今ここで関係を持てば、余計な因果まで生まれてしまいそうで怖い。
……でも────。
苦しそうに荒い呼吸を繰り返す小さな身体を前に、見捨てる選択なんて……できるはずなかった。
「大丈夫?」
その小さな身体を抱き起すと、浅い呼吸が伝わってくる。
「リーゼロッテ様!?」
駆け寄ってきたローラが不安そうに覗き込む。
リリスの額へ触れるとしっかり伝わる熱。
それはもう、異常なほどに。
顔色も悪く、唇が乾いている。
「……熱中症だわ」
そうに断言し、私は持ち歩いていた果実水の瓶を取り出した。
この世界には、まだ“熱中症”という概念がない。
暑さで体調を崩しても、夏風邪として曖昧に処理されている。
だけど私には分かる。
私はリリスの身体を支えながら、そっと果実水をその口に含ませた。
「少しずつ飲みなさい。急に飲みすぎると戻すわ」
少女はぼんやりとした目で私を見上げながら、小さく喉を動かす。
「っ……はぁ……っ」
やがて数口飲んだところで、呼吸が少しだけ、落ち着いた。
私はほっと息をついたけれど──隣から、妙に静かな視線を感じた。
「……熱中症?」
ローラが不思議そうに呟く。
しまった。
この世界では存在しない言葉を、あまりにも自然に使ってしまった。
ローラは首を傾げながら続ける。
「その症状に、名前があるんですか?」
純粋な疑問に、私はとっさに視線を逸らす。
「……昔、外国の書物で読んだことがあるの。暑さで体内の水分が不足して起きる症状よ」
我ながら苦しい言い訳だけれど、外国の書物に触れることの無いであろうローラにはきっとそれが真実になったはず。
ローラは「へぇ……」と感心したように頷いてから、目をキラキラとさせて私を見つめた。
やめてっ……!!
そんな純粋無垢に尊敬するような目で見ないでっ!!
と、そのまぶしさに浄化されそうになっていた私に、不意に背後から声が落ちた──。
「お母様? 何してるの?」
高くて愛らしい、少年の声。
聞き覚えのありう過ぎるその声に、私がゆっくり振り返ると、そこに立っていたのは――。
銀髪の少年と、その隣には無表情でこちらを見つめる少女。
「──ぁ……」
どうして。
なぜ今ここで……。
未来でリリスと出会うはずの彼が、こんな形で、こんなにも早く――。
「────アルフレット」




