32・行方不明者の共通点
馬車で王都に出て、適当な場所で馬車を降りてその石畳の地を踏みしめて歩く。
久しぶりに王都の町を歩くけれど、やっぱり賑わいがすごいわね。
商売人たちの活気ある声、路地で子ども達が遊ぶ笑い声、井戸端会議中のマダムたちの声。
どの世界でも、こうして町がにぎわう様子というものは見ていて気持ちが良いものだわ。
だけど……。
それにしても、落ち着かない。
通りを行き交う人々が、こちらを見てはぎょっとした顔をしているのだ。
まぁ、無理もないでしょうけれど。
王妃である私と、“第二妃候補”と噂される聖女ローラ。
そんな二人が並んで歩いているのだから。
八百屋の店先で野菜を並べていた女主人なんて、こちらを見た瞬間に野菜を落として割っていたもの。
なんか……お騒がせして申し訳ない。
「……皆さん、驚いてますね?」
隣でローラが困ったように苦笑する。
「でしょうね」
私は淡々と返しながらも、周囲の視線には慣れた様子で歩き続けた。
今さら注目を浴びることなど珍しくもない。
大事なのは、そんなことではなく──。
「ぁ、ねぇあなた。少しお話を聞かせていただけるかしら」
私は通りの露店にいた年配の女性へ声をかけた。
王妃自ら話しかけてきたことに仰天して、大きくあんぐりと開かれたお口がそのまま固まってしまった。
「え、ね、ねぇちょっと、大丈夫?」
固まってしまったけれど生きてるわよね!?
まずい、これじゃ人殺し王妃とか噂が立ってしまう……!!
するとローラが私の隣で「大丈夫ですよ!!」と女性に笑いかけた。
その瞬間、安心したように女性の口からも力が抜け、元の表情に戻っていった。
「ごほん……。最近の行方不明者について、何か知っていることは?」
私が気を取り直してそう尋ねると、女性は眉を下げながら口を開いた。
「え、えっと……この先のパン屋で拾われたばかりの7歳の孤児が最初でしたねぇ……。そう、あそこのおかみさんはたいそう落ち込んでましてねぇ……。なにせ、子宝に恵まれなかった夫婦が我が子のように大切にしようとしていたから……」
「パン屋に引き取られた孤児……」
さらに別の男に話を聞けば、
「あっちの角の花街で、娼婦見習いになったばかりの女の子もいなくなったらしいなぁ」
今度は少女だ。
場所も違う。
境遇も違う。
──その後も聞き込みを続けるたび、失踪者の情報は増えていった。
「つい最近じゃ、サーシェから逃げてきたばかりで路上生活してた双子の男の子たちも見なくなったって言うし……」
双子の内乱孤児の少年……。
国の保護制度でこちらに入って来たのではなく、完全に個人で逃げ込んできた子達、か……。
私は歩きながら静かに思考を巡らせる。
性別も違う。
年齢も失踪場所もばらばら。
生まれや境遇だって違う。
共通点などないように思える。
だけど────。
思考の末、私はふと足を止めた。
「リーゼロッテ様?」
不思議そうにこちらを見るローラ。
そして私は静かに呟いた。
「皆、親がいない子ばかりだわ……」
その瞬間、空気が変わった気がした。
ローラの表情からも笑みが消える。
孤児。
花街の見習い。
難民の子ども。
他のいなくなった子達や孤児院で消えた子達も皆、同じ。
誰もが、“消えたあとに本気で探されにくい”存在ばかりだった。
もし犯人が意図的にそれを狙っているのだとしたら……?
「……最初から、“いなくなっても問題になりにくい子ども”を選んでいる。安定的に誘拐できるように……」
これは私の仮定でしかない。
だけど、それが事実であれば、安定供給可能な商品の生産、だということに繋がってしまう。
つまり──過去の事件の再来……。
私の推察に、ローラは唇を引き結び、小さく拳を握る。
「そんなの……ひどすぎます」
その声には、はっきりと怒りが滲んでいた。
先ほどまで無邪気に笑っていた少女とは思えないほど、真剣な眼差し。
この子はこの事件に、関与してはいない。
そう思わせられるような……。
ううん。
だけどあまり信用しすぎるわけにはいかない。
そう思ってしまうのは、彼女と慣れ合うわけにはいかない、王妃としての、そしてセドリックの妻としての矜持があるからなのかもしれない。




