31・王妃と第二妃候補の第二回目お茶会
孤児院の視察を終えたあと、私たちは食堂の一角に腰を下ろしていた。
日差しが窓から差し込み、大きな木製のテーブルを淡く照らすなか、目の前に置かれた紅茶から立ちのぼる湯気を眺めながら、私は小さく息をついた。
向かいに座るローラは、そんな私とは対照的に、どこかそわそわと落ち着きがない。
なぜだ……。
私何かしたかしら?
もしかして、威圧感を与えるような態度、知らず知らずのうちにしてしまってる?
そんなことを考えていると、ローラが意を決したようにぱっと顔を上げた。
「この間のお茶会では緊張して、たくさんしゃべることができなかったので……またリーゼロッテ様とお茶が出来て、私は幸せです……!!」
あまりにも真っ直ぐで、裏表がないように見える笑み。
……けれど、本当にそうなのかしら?
私は紅茶に視線を落としたまま静かに思考を巡らす。
将来自分が第二妃になった時に、円満に過ごせるように、今のうちに王妃である私と良好な関係を築いておきたい──、そんな思惑があるのではないか、と思わざるを得ない。
いずれ来るであろうその未来を知っているからこその仲良しごっこなんじゃないだろうか、と……。
こうして屈託なく距離を詰めてくる姿にも、どこか何かあるのではないかと裏を探してしまう自分がいる。
「ここでの違和感については、私の中でもまとまったわ。ありがとう」
そう告げると、ローラは嬉しそうに目を輝かせた。
……なんだか子犬みたい。
「あとは……市井の行方不明者たちの特徴をまとめて、他の行方不明者との接点を探し出さないと……」
紅茶の表面に小さく揺れる光を見つめながら、余計なことは置いておいて考えるべきことを優先する。
年齢、性別、失踪場所、時期。
何かしら共通点があれば、犯人の目的や条件も見えてくるかもしれないし、対策だって立てられる。
だけど今はまだ、情報が散らばりすぎて見えてこないのだから、まずは他の情報を集めるのが一番。
するとローラが、「あっ」と何か思いついたように声を上げた。
「それなら、私これから町に行くんですが、一緒にどうですか!?」
「……あなたと?」
ローラの突然すぎる申し出に、軽く目を見開く。
だがローラは、私の反応などまるで気にしていない様子で、にこにこと続けた。
「せっかくなら、慣れている人間がいた方が良いでしょう?」
「慣れている……?」
「はい! 私は普段から炊き出しとか診療のお手伝いで町に行くので、顔見知りも多いんです!」
誇らしげに胸を張る姿は、どこか子どもっぽい。
けれど、確かに彼女の言うことにも一理あった。
私一人で聞き込みをするより、住民に警戒されにくいだろう。
特にローラは“聖女”として慕われている。
情報収集には適任だ。
……本当は、できれば二人きりなど避けたかったけれど。
私はカップを静かに置いて、ゆっくりと口を開いた。
「えぇ、じゃあお願い」
そう答えると、ローラの顔がぱっと明るくなる。
「はい!!」
あぁ、まぶしい。
卑屈な私にはまぶしすぎる笑顔だわ。
その眩しさに、私は少しだけ居心地の悪さを覚える。
この人は本当に、何を考えているのか分からない。
打算なのか。
善意なのか。
それとも、何も考えていないのか。
掴みどころのない彼女に振り回されながら、私は静かに紅茶を飲み干した。




