29・謎の報告書
「──揃ったな。これを」
午後になってセドリックから呼び出しを受け執務室へ行くと、仏頂面をしたセドリックといつものキラッキラの笑顔のクレフが待ち構えていた。
「っ……」
私が部屋に入るなり差し出された書類を受け取り、それに目を落とした瞬間、思わず息をのんでしまった。
……やはり、というべきか、なんというべきか……。
報告書によると、シーリア王国の孤児と、サーシェの内乱で受け入れた内乱孤児。その二者は、日常的に関わっていない、という。
“なんとなく距離がある”などという曖昧なものではない。
報告にははっきりと、“意図的に避けられているように見える”と記されていた。
けれど、かと思えば奇妙な整合性もあるみたいなのはいったいどういうことかしら……。
遊びの時間も、食事も、学びの場も──形式上は平等に与えられているのよね。
まるで「問題はない」と言い張るために、外側だけを整えたような配置。
私はゆっくりと紙をめくり、最後の一文まで目を通し、そして顔を上げた。
最後に書かれていたのは────『神官長の関与の可能性』だった。
「……セドリック、これは信用できる報告なの?」
国の重要機関である王都の大教会の管轄である孤児院に関する報告書だ。
その中でも大きな役職である神官長を疑うような文面まであるし、信じるのに慎重にならざるを得ない。
「あぁ。信用できる筋からの報告だ」
「……そう」
セドリックの言葉に、私は小さく息を吐いた。
彼がそう言うなら、そうなんだろう。
賢く、真面目で、そして決して簡単に人を信用しないセドリックが信用するのならば。
クッキーを作っていた時に感じていた疑問は、これで確信に変わった。
子どもたち自身が距離を取っているのではない。
取らされているのだ。
しかも、外から見れば“問題がないように見える形”で。
なんて…………。
「なんて狡猾なの……?」
思わず口から漏れ出た言葉に、クレフが「リーゼロッテ……」と名を呼んだ。
その視線は、怒りで震える私の拳に向かっていた。
「セドリック、私、明日もう一度孤児院へ行くわ」
迷いなく口をついて出た言葉に、セドリックがわずかに目を細める。
「視察、という名目か?」
「ええ。今度は“見るだけ”では終わらせない。何かがあるのは、間違いないもの。それを、このまま見過ごすつもりはないわ」
まっすぐに前を見据えた私の言葉に、クレフとセドリックの目が見開かれる。
私がこんなことを言い出すとは思わなかったでしょうから。
きっと、記憶が戻る前の私はこんなことは言わなかったはずだもの。
だけど、息子と──アルフレットと向き合い始めて、ルナマリアを守ると決めて、あの子達と過ごすうちにどんどん大切な気持ちが膨らんで……。
だからこそ、速くこの事件を解決させなくちゃいけない。
私の大切な子どもたちを守るためにも。
王妃だけれど、それ以前に私は、あの子の──あの子達の母、なのだから。
「…………わかった。無理はしないように。護衛は付けておく」
「っ!! ありがとう、セドリック……!!」
反対されると思っていたけれど、思いのほかすんなりと許可が下りた私は、こうして明日、再び孤児院を訪問することが決まったのだった。




