28・甘い香りの中で導き出すのは?2
「でもさ……」
アルフレットが不思議そうに首を傾げる。
「この国では、貴族も平民も関係なく、ちゃんと警戒するように教えられるんでしょう? 先生が言ってたよ。昔事件があったから、すごく気を付けなきゃいけない、って。だから知らない人についていくような人なんていないよ」
「アルフレット……」
その通りだ。
この国の警戒教育は、他国と比べても厳しく、幼い頃から徹底的に教え込まれる。
そのきっかけは、ある一つの出来事だった。
かつてこの国の幼い王女が、父母と共に行った領地視察の最中に連れ去られたのだ。
国王は騎士を総動員して探させたけれど、すぐには王女は見つからなかった。
誘拐からしばらく経ってから、獣人国リッテスで、闇売人の大量摘発があった。
闇売人は様々な国で子どもを攫っては一部の”獣人上位主義”の獣人の奴隷として売り飛ばしたりしていた者たちで、その売人たちの商品リストに──その名が見つかってしまったのだ。
幼い王女の、その名が……。
彼女は闇売人により、獣人の国へ、奴隷として売られていた。
彼らの手口は、幼い子に人の良い顔をして声をかけ、油断したところを捕えるというもの。
王女は奴隷としてみすぼらしい姿で獣人貴族の使用人として働いていて、救出されてからも王女として表舞台には立つことなく、生涯城の離れの塔でひっそりと一人で暮らしたそうだ。
あの事件以降、この国は変わった。
「知らない者を信用するな」という教えは身分を問わず徹底されるようになり、どこの国よりも警戒心を強く育てられるようになった。
だからこそ、孤児院から消えた子どもたちが自ら進んで“知らない者”についていくとは考えにくい。
顔見知り。あるいは“従うべき存在”がそこにいるのではないか。
そう思えば、全てが繋がるようだった。
「……母上?」
アルフレットの声に、再び我に返される。
いけない。また考え込みすぎたわね。
「……ええ、そうね。だからこそ、よ」
私は少ししゃがんで、アルフレットの、セドリックと同じ色の瞳を見つめてゆっくりと口にした。
「“知っている相手でも油断しないこと”。それも、とても大切なことなの」
もしそうだとしたら、この城の中にすら、子どもたちを利用できる“誰か”がいる可能性がある。
アルフレットとルナマリアを守るためにも……。そして、あの孤児院の子どもたちのためにも、私は確かめなければならない。
「さ、二人とも、クッキーが出来上がったら、今度はお片づけをしましょう。お片づけをするまでが料理ですからね」
私が気を取り直してパンパンと手を叩いてそう言えば、二人ともはっとして厨房を見渡した。
料理器具が散らかった惨状の厨房。
苦笑いしながら遠くで見守る料理長たち。
「はぁーい……」
力なく返事をしながら、厨房の大掃除が始まったのだった。




