22・うるさいけれど、幼馴染は良いものだ
「……」
「……」
がたがたと揺れる社内で向かいに座るセドリック様は、いつも通りの無表情────正確には、眉間にしっかりと皺を刻んだ”いつもの顔”。
私はというと、なんとなく視線のやり場に困って、窓の外を眺めるという、これまたいつも通りだ。
夫婦の間で日常的な会話というものはあるにはあるものの、でもこういう場面で自然に言葉が出てくるかというと──うん、……出てこないのよね。
結果、沈黙が続いてしまうという、居心地の悪いことになる。
日常的な会話というものだって、自分たちの個人的な会話をして会話を楽しむというよりも、アルフレットの様子やお茶会での状況報告やら仕事の話ばかり。
子どもが生まれたらある程度子どもの話ばかりになってしまうとは聞いたことがあるけれど、私達の場合は子供が生まれる前──いいえ、婚約中からもお互いの楽しい話なんてなかったのだから、通常運転かもしれない。
「あーっもうっ!! あんたたち!? まだそんななの!?」
静まり返った空気感に耐えきれなくなったクレフが声を上げて発狂する。
うん、そうよね。
あなたにはこの空気、耐えられないわよね。
「そんな、とは?」
セドリックが本気で分かっていなさそうな顔で聞き返すのが逆にすごいわ……。
「アタシが居なきゃ会話もろくにできない、もじもじした関係なのかってことよっ!!」
「もじもじ……」
その単語、今の私たちに適用されるのかしら。
いや、否定しきれないのが悲しいところだけれど。
「か、会話はしてるわよ? 毎日。一応」
思わず反論する私に、クレフは目をカッと見開いて、
「一応って何よ一応って!! どうせアルフレットの近況報告やら仕事についてやらでまともな会話してないんでしょうがっ!!」
ぐうの音も出ないとはこのこと。
エスパーなの? 彼は。
「馬鹿なの!? 夫婦がそんな機械的でどうすんの!? 子ども達に悪影響よ!? もっと引っ付いてにこにこしてなさいっ!!」
「引っ付いて……?」
呟く声にクレフの隣を見ると、セドリックが眉間にしわを寄せたまま本気で考え込んでいる。
やめて。考えないで。
まして実行しようとしないで。
色々と心の準備が……。
「特にセドリック!! あんたよ!! そんな眉間に皺ばっかり寄せてたら、その顔のまま固まっちゃうわよ!? まだ若いんだからもう少し柔らかさを持ちなさい!!」
「柔らかさ……」
ぽつり、と呟くセドリックだけれど、その眉間の皺はさっきよりももっと深くなっている。
「逆よ!! なんで増えるのよ!!」
クレフが頭を抱えて、私はそんな二人のやり取りに苦笑いをした。
「はぁ……もう。昔からあんた達はアタシが居なきゃダメなんだからっ!!」
えぇえぇ、それは……もう本当に、否定できないわね。
私達がこんなだから、昔からクレフがクッション材になってくれていたのも事実だもの。
「いいわ!! アタシがあんたたち”疑似”機械夫婦に、楽しい馬車の旅を送らせてあげるからねぇぇえええっ!!」
「いや、疑似って……」
「おだまりっ!! 覚悟なさい二人とも!!」
その宣言を皮切りに、クレフのオンステージが始まった。
「でね!? 昨日宮廷でさぁ──」
「そういえば昔あんた達が──」
「あと最近の流行りなんだけど──」
「……」
「……」
止まらない。
本当に止まらない。
話題が次から次へと飛び出して、しかも全部声が大きい。
逃げ場のないままにちらりとセドリックを見ると、わずかに目を細めている。
あぁ……あれは諦めの顔ね。
私も同じ気持ちよ。
でも────。
「それでね? ──って、ちょっと聞いてる!?」
「ええ、聞いてるわよ」
「ほんとぉ!?」
「ええ、本当に」
思わず返事をしながら、ふっと口元が緩んだ。
……ああ。なんだか、久しぶりだわ。
こうやって、どうでもいい騒がしさを聞いて、でも妙に安心するこの感じ。
私とセドリックが無言で、クレフが間に入って、勝手に盛り上げて──昔と、同じ。
ふと視、正面のセドリックと視線が合って、ほんの一瞬だけれど、セドリックの表情がわずかに和らいだ気がした。
「……」
気のせいかもしれない。
でも……私も、気づけば少しだけ、笑っていた。
……やっぱり、うるさいけれど。
うるさい幼馴染も、良いものね。




