16・私も家族で良いんですか?
────天井とにらめっこを続けて、どれくらい経ったのかしら。
もういい加減、天井の模様1つ1つに名前をつけられそうな気がしてきた頃だった。
「……起きているのか」
不意に、ぐっすりと寝ているアルフレットの向こう側から静かに低い声がした。
その瞬間、心臓がびくん、と跳ねたように感じた。
……いや本当に、なんならちょっと飛び出るかと思ったくらい。
「っ……はい?」
やっとのことで返事をすると、静寂の中、ではっきりと、その声だけが響いた。
「──感謝する」
「はい?」
はっ……!! 思わず間髪入れずに聞き返しちゃった……!!
いやだって、流れが分からないもの。
いきなり感謝の言葉だなんて。
「アルフレットの、”三人で寝たい”という願いのためにここに来てくれて」
「ぁ……」
──ああ、なるほど。
そういうこと、か。
私は小さく息を吐いた。
けれど、私にとってはそれだけじゃない。
アルフレットのため“だけ”じゃない。
私は、あの子の願いに便乗しただけ。
だって、少しだけ────ほんの少しだけ、私もそうしたかったから。
なんて、心の奥にあるそんな本音、言えるはずもなく、私はただ、精いっぱい、女である自分を隠してただアルフレットの母親の皮をかぶる。
「いえ……。こちらこそ、アルフレットの為に、ありがとうございます」
繰り出すのは、そんな他人行儀の答え。
「私がいては、ご迷惑でしょうに」
半分は冗談、半分は本音。
あぁ……いや、やっぱり本音の割合が多いかもしれない。
長い間聖女と比較をされてきて、吹っ切れて子どものために生きるつもりでいたけれど、あの防御壁修復の際の仲の良さを間近で見て、やっぱり少し、心に来るものがあったのね。
今日は妙に自信がない。
すると、すぐにセドリックからの返事が飛んできた。
「迷惑だと思うことなど、何もない」
あまりにもあっさりと、迷いもなく放たれたその言葉に、今度は違う意味で心臓が変な音を立てた。
え、今のなに?そんな簡単に言う?
迷惑じゃない?
そんな、さも当たり前のこと、みたいに。
「さぁ、あなたももう寝るといい。……おやすみ」
それだけ言うと、セドリックは本当にそれ以上何も話さなくなった。
……え、終わり?
ちょっと待って。今の、もう少し掘り下げるところじゃない?
私は暗闇の中で目をぱちぱちさせる。
隣ではアルフレットが相変わらずぐっすり眠っていて、さっきと何も変わらない穏やかな寝息を立てている。私の動揺なんて知らないままに。
迷惑じゃない?
それって、どういう意味?
そもそもあなたは、私のことをどう思っているの?
私も…………家族で良いの?
聞けばいいのに、聞けない。
聞いたら最後、何かが変わってしまいそうで怖い。
……いや、そもそも何も始まっていないのだけれど。
「……ずるい」
思わず小さくこぼれた声は、誰にも届かない。
届かなくていい。届いたら困るもの。
私は再び天井を見上げる。
はぁ……もう……。
────天井の模様の名前付け開始、だわね。




