15・家族、みたいで
帰りはアルフレットとルナマリアも同じ馬車に乗って帰ったおかげで、気まずい空間にならずに済んでよかった。
王宮にたどり着いた時には、すでに空に暗闇のベールがかかり始めていた。
夕食を摂って、さて部屋に戻ろうかという時になって、やけに真面目な顔をしたセドリックが、さらっととんでもないことを言った。
「リーゼロッテ。それにアルフレットも。今夜は……奥の寝室で寝るように」
────はい?
え、聞き間違い?
目をぱちぱちさせて次の言葉を待つも、セドリックはもう一度何かを言うこともなく、当然のような顔で去っていった。
いや、ちょっと待って!?
奥の寝室って、あそこよね!?
王と王妃の……夫婦の寝室!!
過去たった一度だけ入ったあそこに、また入るって言うの!?
こ、心の準備というものがですね!?
あ……でもアルフレットも、って言ってたわよね?
ということは……。
私の脳裏に、ラフレシス公爵領へ向かう馬車の中での会話が思い出される。
『……アルフレットが言っていた』
『え?』
『……父と母と、三人で眠ってみたい、と』
……………………あれだぁああああっ!!!!
「やった!! あそこ広そうだもんね!!」
こっちの気も知らずに目をキラキラと輝かせるアルフレット。
……ええ、広いわよね。そういう問題じゃないんだけど。
「は、はは……えぇ、そうね」
私はぎこちなく頷きつつ、内心では軽くパニック状態だ。
「早く支度して行こう!! お母様!!」
***
あぁ……むり……。
就寝の支度を終えて、アルフレットと並んで廊下を歩く。
夜の屋敷ってどうしてこう余計なことを考えさせちゃうみたいな雰囲気なのかしら。
足音がやたら響くし、緊張感が増し増しなんだけど。
そして行きついたのは、問題の扉の前。
──初夜ぶり、か……。
いや、別に思い出さなくていいのに思い出すのよね、こういう時に限って。
誰よ記憶の引き出し勝手に開けたの。
「お母様、どうしたの?」
「ぁ……いいえ、なんでもないわ」
なんでもなくはないけどね!!
私は目の前の扉をまっすぐ見つめてから、意を決してゆっくりと扉を開けた。
「わあー!!」
中は……まあ、当然だけど何も変わっていない。変わられてもそれはそれで複雑だからいいのだけれど、変わらないのもなんだか落ち着かないわね。
アルフレットは一瞬でテンションが上がり、一直線に寝台へダイブ。
うん、迷いがなさすぎて羨ましいわ。
「ここで、お父様とお母様と一緒に寝るの、夢だったんだ!!」
「そ、そう……それは、よかったわね……」
私はと言えば、そろりそろりと近づいて、まるで罠がないか確認するかのように寝台の端に腰掛け様子をうかがう。
いや別に罠はないだろうけれど。…………ない、わよね?
「もう来ていたのか」
落ち着きなくソワソワと視線を彷徨わせていると、低く抑揚のない声が響いた。
「セドリック」
白いシャツの胸元を少しばかりはだけさせて登場する、色気たっぷりの我が夫。
目のやり場に困る……!!
私の脳内パニックも知るわけもなく、セドリックはそのまま、大きなベッドに寝転がっているアルフレットの隣に入ってしまった。
「アルフレット、風邪をひく。布団をかけなさい」
そう言ってアルフレッドを布団の中に入れてやって、肩までしっかりと布団をかけてやるその姿は、どう見ても良いお父様そのもの。
「……」
「……なんだ? その変な顔は」
はっ……!!
あまりの光景に思わず口を開けたまま固まってしまったわ……!!
「な、なんでもありませんっ!!」
「そうか?」
なんなのもう。
これじゃ本当に、ちゃんとした……家族、みたいじゃない。
「あなたも早く入るといい。風邪をひく」
「わ、わかりました……」
私はカチコチと機械的な動きでベッドに近づき、布団の中に入ると、隣からはすでに、「すう……すう」という寝息……。
……早い。寝るのが早い。
さすが子ども。
幸せそうな寝顔が可愛らしい。
いいわね、その順応力。私にも分けてほしいわ。
「おやすみ」
「お……おお、おやすみ、なさい」
……なんでこんなに緊張してるのよ、私。
別に今ここで何かが始まるってわけでもないのに。
でも、妙に緊張してしまうのは仕方がない。
「すー……すー……」
隣からは相変わらず規則正しい寝息。
……夜が……長い……。




