S級冒険者
ワープは撃たれた箇所を押さえ膝をつく。
「なぜ動けたか、疑問だろ?」
ワープを見下ろしながらスノーは再び銃口を彼に向ける。善戦しているからといって油断しない的確な動きだ。
「君のスキルの種はわかった。私の視界から消えることだろ? だからこいつを使った」
スノーはワープの返り血で赤く染まったスーツから手鏡を取り出す。
「これで私の背後を確認したんだよ。君なら十中八九後ろからくると思ってね」
もしも彼女が現代に生きていたら手鏡を車のバックミラーのように使ったとでも例えるだろう。
「そんなもん持ってる雰囲気じゃないけどな」
ワープは不敵に笑いながらスノーを見上げる。
「言ったろ? 私は女の子なんだ。乙女の必需品を持っていないわけがないだろう?」
スノーは勝ち誇ったかのような笑みを浮かべる。
「ち。おいしいとこ取られたぜ」
気絶していた男が立ち上がる。
「助けなんかいらなかったのに」
ワープが倒したはずの女も立ち上がる。
彼らの身体にはさっきはなかった縫い目があった。そう、スノーが【解剖】で二人を治したのだ。
「噓つけ。私たちが来なかったら危なかっただろう?」
スノーが女に向かって言った。彼女の名はパラド・アメスだ。
「全然よ。でも助けてくれるなんて……もしかして! 私のこと好き?」
パラドは頬を赤らめながら照れくさそうに言った。
「出たよ。勘違いアホモード。あー。めんどくせー」
男が頭を呆れたようにため息をついた。
「ヨワビ……もしかして! 私のこと好き?」
「今俺勘違いするようなこと言わなかったよな? それと俺の名前はヨワビじゃなくてアオビな死ね」
三人はそんな談笑を始める。もうすでに勝利を確信しているのだろう。だが……、
「あんたらおもろいなぁ。百点や。ノリはゼロ点やけど」
勝利を確信しているのはこの男も同じ。ハラハラと身体を立て直しながらワープは言う。
「三対一。ちょうどいいハンデやな」
「正気か? どうあがいても君は私たちに勝てないよ」
スノーの言う通りだった。【相無見勝】はすでに破られているし、彼は知らないがスノーの【解剖】の発動時間も迫っている。
たとえ彼が百二十パーセントの力を出したとしても勝つことはできないだろう。
それはワープ本人が一番わかっているはず。
それでも彼は戦う。
「それがどうした? 負けそうになったら逃げるとか弱い奴のすることや。一度やりあったら最後までやる。僕のルールや」
「面白れぇ。死ぬまでやろうぜ、三番隊隊長さんよお!」
興奮したように言ったアオビの身体は発火した。
「あれ三番隊の隊長じゃない? とりあえずあの人に加勢したらいい?」
「うん」
戦場に今までなかった声に四人は驚き、声のほうを見る。
「ぐわああああああ!」
突然男が苦しみ始めた。
「あちい! 俺が出した炎なのに!」
どうやら自らが出した炎によって苦しめられているようだ。
「何であんたらがここにおるんや?」
ワープが首を傾げる。
「君とはいずれ戦うことになると覚悟していたが、今は遠慮したいな」
スノーが不敵に笑いながら言う。
声の主は二人。一人は車椅子に乗っている紫髪の女、マキ・スプリング。彼女が乗っている車椅子を押しているのは藍色の髪の男だった。
彼の名はアイ・スプリング。四人しかいないS級冒険者の一人だ。