マフィア
ミラ・シレーネとリュウオ・アザミの決着がついたころ、コロシアムの外での戦いにも終わりが来ようとしていた。
王宮騎士団三番隊副隊長、メグム・ユララと謎の襲撃者、スノー・コンマの一騎打ち。三番隊の隊員はメグムの指示で全員周囲の人間の避難誘導に当たっている。
「さっき青龍が見えたね。あれは何のスキルなんだろうね?」
スノーが余裕を含んだ笑みを浮かべながらメグムに尋ねる。
「そんなこと言ってていいのか? お前死ぬぜ」
メグムがそう言うのもスノーが今置かれている状況を見れば納得がいく。彼女は今、おびただしい数の魔物に囲まれていた。どれもA級以上の強力な魔物だ。
「たしかに絶望的な状況だ。たしか三番隊はアクマに手を出して、呪われた御三家の一つ、センスイ家だったよな? 名前を隠しているようだが調べたらすぐにわかったよ。つまり、君はメグム・センスイ。アクマライカーだ」
スノーの情報は正しかった。王宮騎士団三番隊の正体はセンスイ最強の戦闘部隊だ。アクマに好かれているというのは世間的にイメージが悪いので名前を隠しているが、三番隊の構成員はセンスイという名を持っている。
「君はこの魔物を操るスキルの他に別のスキルを持っている可能性がある。それか二つのスキルを併用することで、この力を成立させているのかな?」
当たっているのは後者の方だ。
メグム本来のスキルは【魔操変自術】。倒した魔物を操る力。そして、アクマから与えられた力は【影容量】。影に物を収納する力。
メグムは支配下においた膨大な魔物を影にストックしているのだ。
「どちらか見極めさせてもらおう」
スノーと魔物たちとの戦いが始まる。余裕そうなだけあってスノーは魔物たちをものともしなかった。
ここまではメグムの予想通り。メグムのスキルはここから真価を発揮する。
メグムは少し離れた場所からスノーと魔物たちの戦いを傍観していた。だが次の瞬間、メグムはスノーの目の前に移動する。彼がいた場所にはさっきまでスノーの目の前にいた魔物が……
つまり、魔物とメグムの位置が入れ替わったのだ。
「それが君のもう一つの力か!」
興奮したようにスノーは叫ぶ。そして、メグムを発砲した。が、彼女の拳銃から放たれたその弾丸はメグムを打ち抜くことはなく、あと数ミリ動けば、彼を貫通しそうなところで止まってしまう。
「アクマライカーとはいえ、スキルは二つまでのはず。なのに君は今スキルを三つ使った。魔物を呼び出し操るスキル。自分と魔物の位置を入れ替えるスキル。そして、自分の周りバリアを張るスキル。どうなってる! なにかとなにかのスキルを組み合わせてスキルが複数あるように見せているのか? いや……」
スノーはニヤリと笑った。
「魔物を操るスキル。もしかして君、支配下においた魔物のスキルを使えるのか?」
「ご名答」
メグムは不敵に笑う。
「お前みたいな化け物相手じゃ俺のスキルは烏合の衆になる。それの救済措置だ」
「無限のスキルか。素晴らしい! 君、私に付いてこないか? 仲間になれば世界の半分をくれやろう」
「断る!」
「そうか。残念だ。仕込みは完了した。この戦い、私の勝ちだ」
瞬間、メグムとスノーを囲んでいた魔物たちが消えた。
「そういえば私のスキルを教えていなかったね。私のスキルは【解剖】。私の半径十メートル以内に十分以上いた相手に使える。【解剖】は対象を改造する」
メグムの全身から血が噴き出る。だが彼は倒れない。
「ひょろそうに見えてタフだね」
「負けられねェんだよ!」
メグムは確実にスノーの半径十メートルから離れたところにある石ころと自分の位置を入れ替える。
「無駄だよ。私から離れても私のスキルは解けない。一生君にまとわりつく」
またメグムの身体から赤い液体が舞う。
限界が来たのかメグムが倒れたあと、スノーの横をなにかが遮る。それはカンバラと戦っていたはずの青い長髪の男だった。
「何やっての? アオビ」
スノーは男に呼びかける。
「私が倒したんですよ。青い炎にも慣れてしまった」
男が飛んできた方向からやってきたのはカンビラ・バランガ。カンバラだ。
「お前の青い炎使えないな」
「テメエが威力下げたんだろうが!」
言いながら男が立ち上がる。
「それじゃ、少し戻してみるか」
男の手にそれまではなかった縫い目ができる。
「カンビラ・バランガ。流石はA級冒険者だな。だが知ってるか? こいつの青い炎は全力じゃない。強すぎて自分自身も燃やしちまう。だから私のスキルで改造して自分を燃やさないように調整してやってたんだ。だが今少しだけ本来の火力が出せるように改造してやった」
「はぁ?」
カンバラは首を傾げる。
「見せてやれ、アオビ」
「おうよ」
男は手のひらからカンバラに青い炎を発射する。
カンバラは男との戦いを経験して、この一週間ウロナを鍛えるのと同時に己の刃も研いでいた。
現にカンバラは男の青き炎をスキルで防ぎ、男との戦いを有利に進めていた。だがそんな彼でも枷を外した男の青い炎にはかなわない。
カンバラは青い炎に焼かれた。
「ぎゃああああああああ!」
カンバラの敗北と同時に男が腕を押さえて倒れる。
「そうなるから調節してやってたんだ。後でまた制御状態に戻してやる。でもまあ、この勝負は私たちの勝ちかな」




