化物
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中堅戦。ミラ・シレーネとリュウオ・アザミの戦いが始まろうとしていた。
「A級冒険者と戦えるなんて光栄です」
リュウオが明るい表情で言う。
「私もですよ。アクマライカーと戦う機会なんてそうそうないですし」
ミラも笑顔でそう返した。
だが二人の表情とは反対に場の空気はどんどん張りつめていく。僕は思わず生唾を飲み込む。
「それでは試合開始!」
開始のゴングが鳴った。
瞬間、リュウオは消えた。まるで、最初からそこにいなかったみたいに。
「なるほど。一つ目のスキルは透明化ってとこですか」
そう呟くとミラの腰あたりから長い尻尾が生える。そして、尻尾を振り回し、コロシアムの砂を舞い上がらせて、砂ぼこりを発生させた。
うまい。これならいくら透明化していても実態はあるのだからリュウオの身体は砂ぼこりをはじく。つまり、なにもないのに砂ぼこりがはじかれる場所が一か所できる。そこがリュウオの居場所だ。
しかし、そんな場所はできなかった。リュウオはどこに行ったんだ?
僕が疑問に思っているといきなりリュウオがミラの背後に現れ、彼女を蹴り飛ばした。ミラは片手をなにか硬い岩のようなものに変えて防御したが、リュウオは再び消えてしまう。
まずい。リュウオのスキルの謎を解かない限り、彼に攻撃することすらできない。
ていうか今のミラさんのスキル。まさか……
「秘伝スキルか!」
僕は思わず叫んでしまう。
「秘伝スキル? リュウオって人のが?」
僕の声を聞いて、カノンが聞き返す。
「いや。ミラさんがだよ。あれは【化物語】。獣人族の秘伝スキルの一つだよ。てことはミラさん、獣人だったの!」
「透明化の読みは外れましたか。瞬間移動、でもない。消えてから移動にラグがあり過ぎる」
僕の驚きをよそにミラは顎に手をやりながら呟く。
「ということは……」
ミラの目が変わった。狙った獲物を逃さない鷹のような目だ。【化物語】はあらゆる動物に化ける能力。化けられる種類は能力値に依存する。
彼女はきっと目のいい動物に化けてリュウオを探そうとしている。でも目をよくした程度でリュウオのスキルの正体が分かるのだろうか?
「いた!」
ミラは飛び上がって尻尾を振る。誰もがどこを攻撃しているのだと思っただろう。だってそこには誰もいないのだから。
だが突然ミラの尻尾の先にリュウオが現れ、吹き飛ばされる。
え? どういうこと?
「スキルの種はわかりましたよ。リュウオさん、あなたのスキルは鉱物に化けるというものですよね? 同じ化ける系のスキルだったからピンときました。あなたはそのスキルを使ってここに混ざっている小さな石に化けていた。それが分かれば変にこちらへ近づいてくる石を探して攻撃すればいいだけです」
凄い。凄いよ。ミラさん。流石A級冒険者。リュウオのスキルの謎を解いて、一気に有利になった!
「へー。わかっちゃいましたか。でも忘れてません? 僕にはもう一つ、アクマからもらった力がある」
リュウオがそう言うとリュウオが一人から二人に増えた。分身のスキルだ。さっきと違って意味不明な力じゃない。ミラさんなら勝てる。
そう思ったがリュウオは二人から四人へ、四人か八人へ、八人から十六人へ、と増え続け会場は リュウオの分身で埋まった。
ミラはリュウオたちに囲まれたのだ。
「いくらA級冒険者でも一度にこの数はきついでしょ?」
今そう言ったリュウオが本体なのだろうか? それとも分身なのか? 判断はつかない。
「それはどうでしょうか?」
ミラは大きく飛ぶ。その後を追って何人ものリュウオたちが飛ぶが、ミラの高さまではたどり着けない。
空にいるミラの姿がどんどん変わっていく。身体は青くなり、蛇のように長くなる。果ては何十メートルも伸びていった。
人はその生物を龍と呼ぶ。青い龍。青龍だ。
青龍になったミラはその尻尾でリュウオたちを薙ぎ払う。例えるなら、何日も剃ってないひげを久々に剃るような爽快感のある攻撃はリュウオの分身を一気に減らして、あっさり本体を倒した。
「決着! 勝者はミラ・シレーネ! A級冒険者に相応しい圧倒的な力を見せてくれました!」




