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次に会う時は、心からの理解者として。

 何だか色々誤解されつつ、ファミレスを出た私達は……そのまま綾美・大樹君と合流。

「も……申し訳ありませんでした……私、どうしても我慢できなくてっ……!」

 ひたすら頭を下げる優香さんを薫と中村さんが必死になだめているので、二人が訝しげな表情で私に理由を尋ねるのだが……私からは口が裂けても言えなかった。

 でも、そんな二人(薫と中村さん)の捨て身の努力は、きっと無駄にならないはず。

 店を出る前にこっそり見せてもらったスケッチブック。そこに描かれたイラストがいずれ、何千人という女子(と、一部の男子)を画面の前で悶えさせることになるんだろう。

 そう思えば……うん、さっきの現実も受け入れようと思う。一本しか食べてないポッキーももらったし。

 優香さんより一足先に帰る中村さんを、全員で駅の改札口前まで見送ることに。

 祝日の夕刻前、人の往来はそれなりに激しい。出て行く人、戻ってきた人が入り混じる駅では、私達以外にも別れを名残惜しむ光景が見られた。

 入場券を買いに優香さんは混雑している券売機へ。

 既に切符を購入済みだという中村さんは、不意に荷物を足下に置くと……一番右端にいた綾美を真っ直ぐに見据えて、

「後藤さん、これからも……優香を、よろしくお願いします」

 一度、頭を下げた。

「なんだかあたしが優香の婚約者みたいねぇ……」

 ある程度予想していたのか、綾美は苦笑しつつ「頭を上げてください」と彼を促し、

「むしろ、あたしこそ頭を下げなきゃ。優香はあたしにとっても必要だから、あまり貴方のお相手ばかりさせられませんってね」

 軽くウィンクしつつ、こちらに戻ってきた優香さんを見つめ、

「モテモテね、優香ってば」

「全くだ」

「へっ!? あ、あの……私、何かしましたか?」

 きょとんとした彼女にフォローするでもなく、中村さんは手持ちの携帯で時間を確認した。

 そして、

「優香」

「は、はいっ?」

「今やってる原稿がひと段落したら連絡してほしいんだ。近々そちらにお邪魔しようと思ってるから」

「へ? 私の家に、ですか? 何か用事でも……」

 首をかしげる彼女の頭に軽く手を置いてはぐらかした中村さんは、今度は薫と私の方を向いて、

「沢城さんと……殊更、新谷君には迷惑をかけてしまったかな。えっと、田村君も、優香のワガママに付き合ってくれたんだろう? ありがとう」

 私より先に、薫が言葉を返した。

「気にしないでください。俺こそ、尊敬する作家さんの手伝いが出来て、本当に嬉しかったですから」

 うん、これは違いない。大樹君も薫の肩に手をまわして「今度は3Pで絡みますか?」と、おどけてみせた。

 いや大樹君、ギャルゲーじゃないんだしさすがに3Pは……。

「3P、ですって……!?」

「ど、どうしましょう綾美さん! わ、わた、私、想像しただけでっ……!!」

 そこの腐女子二人落ち着け。

 妄想に花を咲かせる女性二人を苦笑で見つつ、薫は「いや、大樹の言うことは気にしないでください」とざっくり切り捨ててから、

「またゆっくり遊びに来てください。もっとじっくりお話してみたいですから」

「ああ、自分もまだまだ新谷君に教えてもらいことがあるからな。ぜひよろしく頼む」

 気がつけば赤外線機能で連絡先を交換している男性陣。

「とりあえず、新谷君は総受けとして、大樹と彼をどう扱うかが問題でありキモよね……」

「前からも横からも上からも下からもっ……!」

「だから落ち着けそこの腐女子っ!!」

 私の突っ込みも、はたして届いているのやら……まぁいいけど。いつものことだし。

 話はまだ尽きそうにないけれど、中村さんが再び荷物を持ったのがタイムリミットの合図。

 ホームまで見送りに行く優香さん以外とは、ここでお別れである。

「じゃあ――また」

 さよならではなくこう言って背を向けた彼には、同じ言葉を返そう。

「また遊びにきてくださいね、待ってますからっ!」

 そう、次は……最初から笑顔で歓迎できるから。

 改札口を通り抜けて、背中が他の人に紛れるまで……私達は手を振り続けていた。


「さて、何だかんだと巻き込んじゃったわね……」

 綾美が不意に、私と薫へバツの悪そうな顔を向け、

「都、新谷君……ありがとね」

「本当にそう思ってるなら、私が好きな同人作家さんの生イラストくらいもらってきてほしいなぁ」

「オッケー任せて。大樹に頼んでおくから」

「俺かよ!?」

 律儀に突っ込みつつ、大樹君がぽつりと呟く。

「でもまぁ、大した人だな、あの中村って人」

「全くね……あんなに寛容な人、天然記念物だわ」

 素直に同意した綾美は、込み合う改札の向こうを見つめて続ける。

「正直、最後まで凄く怖かったわ……あの人が手のひらを返したみたいに態度を変えて、優香を連れて帰っちゃうんじゃないかって。あたしの友達が、仲間が、一人、いなくなっちゃうのかなって思ったら……」

「どれだけコミケがニュースになっても、「萌え」って言葉が浸透しても……生理的に無理な人は無理だからなぁ、この世界」

「やっぱり、周囲に理解された状態で没頭したいわよね。だから、今回のことは……良かった。すごく、良かった」

 自分に言い聞かせるよう繰り返す綾美。大樹君も同意するようにうんうんと頷きつつ、

「さて……これからどうする? どこかで遊ぶか?」

「そうねぇ、折角これだけ揃ってるし……都、新谷君、今から何か予定は?」

 私たち二人が首を横にふると、すっかり幹事の二人が口元ににやりと……醜悪な笑みを浮かべ、

「そういえば大樹、あたし、ボーリング場の1ゲーム無料チケット持ってるんだけど」

「を、いいねぇ綾。優香ちゃんが戻ってきたらボーリング大会といきますか」

「当然――罰ゲームはありよねぇ?」

「おいおい、何を当たり前のことを言ってるんだい綾美。最下位の人間が服従するのは大自然の摂理だろう?」

 嫌だよそんな摂理!!

 どうやらこれからボーリング大会になりそーである。んー……ボーリングはちょっと苦手だから、最下位にならないよう気をつけたいところ。

 綾美と大樹君には勝てないかもしれないけど、せめて、薫や優香さんとはいい勝負にしたいっ……!

 そう思った私が、ライバルになる薫を見上げて、

「っ!?」

 思わず目を見開いた。

 薫と……そりゃーもう余裕の、「ふっ、俺のターン!」的な表情の彼と、目が合ってしまったから。

 こ、こいつ……運動神経抜群設定だったか!? このギャルゲー主人公体質めっ!!

「ボーリングか、久しぶりだなー」

 私から視線をそらした薫が、普段のトーンでいけしゃあしゃあと会話に参入。

「あら新谷君、ボーリングはお得意かしら?」

「そんなことないよ。お手柔らかに」

 嘘だ、あの口調と表情は絶対に嘘だ!!

 そんな私の心中を綾美と大樹君が察することもなく……程なくして戻ってきた優香さんと連れだって、駅近くの複合アミューズメント施設へ移動する私たちなのだった。

 その道中、優香さんの顔がずっと赤かった理由は、あえて聞かないことにした。


「ちっ……! まさかこんな伏兵がいたなんてねっ……!」

 椅子に座って額にうっすら滲んだ汗を拭いつつ、綾美が彼を見上げた。

 現在3ゲーム目、最後のターン。投げ終えて戻ってきた首位の彼が、自分に向けられた視線に苦笑いを浮かべる。

 祝日で込み合うアミューズメント施設内、ピンが倒れる音や店内BGMが響くフロアで、私たちもまた、一部が熾烈な争いを繰り広げている。

「はい、次は綾美さんの番」

「新谷君にはもう勝てないけど、せめて……せめて大樹には勝つっ!!」

 気合いを入れなおした彼女が立ち上がり、ボールを手に取った。

 既に私と優香さんは蚊帳の外なのだけど……まぁ、見ているだけで面白いから、いっか。

 後は綾美が投げるだけになったこのゲーム。ちなみに現在のスコアは、

 大樹君:149(終了)、綾美:134(今から投げる)、そして薫:198(終了)

 私の予想通り、というか予想以上に圧倒的な強さを見せる薫に、さすがの綾美と大樹君も呆然としていた。

 言うまでもないが、今まで終了した2ゲームとも薫の圧勝で終わっている。次点で綾美や大樹君が凌ぎを削って、私と優香さんはぼちぼち投げつつ、薫にコツを指導してもらったりしていた。

「ふっ……綾、俺に追い付けるかな?」

「華麗に逆転してあげるわ! そこで見てなさい!!」

 ボールを持ち直し、一度呼吸を整えて――真っ直ぐに前を見据える。

 腰を落として、右手を引き――!!


「悔しい~っ!! あと2本だったのにぃーっ!!」

 その場で崩れ落ちた綾美の肩に、大樹君がぽん、と、優しく手を乗せて、

「お疲れ様、綾」

「やめてよ……アンタに慰められたくないわ」

「お前はよくやったよ。だからこそ、俺達は協力すべきだと思わないか?」

「協力……?」

「と、いうわけで薫! 俺達は結託してお前に決闘を申し込む!!」

 彼女を支えながら立ち上がった大樹君が、私達と談笑していた薫をビシっと指差し、

「都ちゃん、優香ちゃん……悪いけど、薫と勝負をさせてもらえないかな?」

 何だか目の奥に炎を感じる……。私と優香さんは互いに顔を見合せてから、

「私は別にいいけど……ねぇ、優香さん」

「はい。ここで勉強させていただきます!」

 傍観者としてハイレベルな戦いを見守ることにする。

 そして、決闘を申し込まれた薫は……普段の優しい表情ではなく、口元に不敵な笑みなんか浮かべつつ、

「二人がかりだからって勝てるスポーツじゃないと思うけど……じゃあハンデとして、俺が都と組んでもいいよ?」

 その言葉にプライドを刺激されたのか、うつむいていた綾美がくわっと顔を上げた。

 瞳に……やっぱりめらめらと炎を宿して。

「そんなハンデいらないわ! そうよね、大樹!」

「当然。俺と綾が組んで、負けた相手なんかいないだろ?」

 かくして、罰ゲームまでうやむやになった結果、2対1のボーリング対決が勃発し……。


 結果――綾美・大樹君ペア:172、薫:201

 二人をしたり顔で叩きのめした薫が、悠然と私の所へ戻ってきたのだった。

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