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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第七章:「建国の師父は人文学者!?」
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第04話 新兵器・新魔法

第01節 街づくり・人づくり(承前)〔4/4〕

(注:難しい話が続きます。第01節は全部飛ばして第05話から始まる第02節「飛竜事件」から読み始めても、不都合はありません)

 少数で多勢と渡り合える方法。非力な女性で屈強な男たちに()する方法。

 そんなもの、有史以来確定している。飛び道具だ。


 しかし、投石は(投石紐(スリング)のような補助具を使っても)威力も射程も限定される。弓も胸筋と背筋、そして体格に左右される。

 (クロスボウ)は、射撃そのものは女子供でも出来る反面、連射性に劣り、且つ射程も期待出来ない。連射性能は運用で(おぎな)うことも出来るが、その為には人数が必要になる。

 威力と射程。これを突き詰めると、結局のところ銃火器しか選択肢は無くなるのである。


「実は硝石の調達には目途(めど)が立っている。浄化槽内でのスライムの食べ残し分が、しっかり硝化していることを難民(キャンプ)で確認出来た。だから黒色火薬の製造は――試行錯誤の必要はあるけど――難しい話じゃなくなっている。

 けど、火縄銃の射程は100m(メートル)程度と()われている。(クロスボウ)より長く、長弓(ロングボウ)より短い。火縄銃の戦術効果は、だから(むし)ろ音響の方が大きいんだ。でも、それだと実際の制圧能力に欠ける訳だから、どうしても斬り込み部隊が必要になる。

 そうなると、無煙(ガン)火薬(パウダー)を作り、そのエネルギーを用いた射程の長い銃火器を開発したい」


「……なんか一足飛びって気もするけれど」

「確かにね。黒色火薬からガンパウダーに至るまでは、歴史的に見て、黒色火薬に次いでニトログリセリンの開発、それを安定させるダイナマイトの開発と続き、最後にニトロセルロースが開発されて無煙火薬の時代が始まる。

 だから途中省略でいきなり無煙火薬式の銃器を実戦投入すれば、万一それが鹵獲(ろかく)されたとしても、その再現は不可能、ってことになる」

「……前世(いせかい)チートを逆に利用する訳ね」

「とはいえ開発には時間がかかるだろうし、危険も大きい。


 よって、次善の策も練る」

「それは?」

空気(エア)(ガン)の開発」


 たとえば、〔(エアロ)(ボム)〕の魔法は空気を約10倍圧縮する。また(かつ)てスライムロードを(ほふ)ったときに使用した空気圧縮魔法〔高圧(プレッシャー)気流(ストリーム)〕は、約150倍圧縮した。この圧縮空気を開放するエネルギーで、弾丸を撃ち出すのだ。


「平成日本で合法とされるエアガン(ガスガン)の空気圧は5気圧程度だ。

 そして、黒色火薬の爆発の圧力は、単純計算で450気圧程になる。

 無煙火薬で1,000気圧前後、TNT火薬で4,000気圧弱だ。

 なら、1,000気圧を目標に空気圧縮を行い、この状態を安定させることが出来れば。特定の魔力信号でその圧縮空気を開放させることが出来れば、それが充分火薬の代わりになる」

「魔法で火薬を代用する……。そんな発想があるなんて」

勿論(もちろん)、その圧力を支える薬莢(やっきょう)と、圧力と熱変化に耐える合金で作った銃身を開発する必要があるけどね」

「でもそれは、普通の火薬銃の開発でも同じでしょう?」

「そうだけど、多分魔法銃の方が構造は単純になると思う。何せ魔法で圧力を開放する以上、雷管は必要ないしね。

 という訳で、皆の意見も聞きたい」


 と言っても、当然ながらサリア以外に話の内容が理解出来る人はいない。


「具体的には、弓が弦の張力で矢を飛ばすように、〔気弾〕の圧力を一方向に集めてその反動で弾を撃ち出す。

 それこそ女子供でも使える一方、大した訓練もしていない女子供でも敵を殺せる力を得られるってことでもある。撃ち手の技量は命中率に於いてのみ反映され、威力に差は出ない。

 クロスボウを極悪化したものだと思ってくれて良い」

「それはとても凄いことに思えるけれど……」

「どこでも戦場になる。誰でも戦士になれる。

 逆に言えば、6歳の子供でも敵を殺せるってことだ。それを敵が知れば、6歳の子供相手であっても遠慮が無くなる」


 女子供でも戦力になれる。それを理解出来たスノーは、それならば、と思ったようだが、それに続けて言った俺の言葉でその本当の意味が理解出来たようだ。


「昔、孤児院の為にクロスボウを作ったときも、アディは言ってたよね。『守るべき女子供が戦場に出れる(・・・)のが、この兵器の欠点だ』って。そのこと忘れていないんでしょう?」

「勿論だよシンディ。だから、ネオハティスでは徴兵は考えない。皆兵制度も採るつもりはない。あくまでも自ら望んで入隊する人たちだけしか戦わせない。

 万一(まんいち)人が集まらなかったら、俺達だけでネオハティスを守ることを考えなければならないだろうけどね」


「ならあたしに言うことはないわね。

 あたしは昔、アディに教えてもらったから。

 刃物は人を傷付けるけど、刃物で命を救うことも出来るって」


 シェイラを見ながら、シンディが続けた。


「守る為に力を得なければいけないんなら、それが大きければそれだけたくさんの物を守れるようになる。大切なのは、その力が暴走しないようにすること。それだけだわ」


◇◆◇ ◆◇◆


 銃器開発の為の火薬の調合やその圧力に耐える合金の開発。それらは鍛冶師ギルドが請け負うことになった。サリアが彼らに教えたのだ。「彼の世界(ぜんせ)で火薬が生まれた理由は、効率的な掘削(くっさく)作業の為だ」と。つまりそのエネルギーを安定的に使えれば、民生利用に巨大な可能性が生まれるということでもある。

 彼らとて殺人兵器の開発より、民生用品の開発の方が気持ちよく手を付けられる。ならあとは彼らに任せておけば良い。


 一方で俺は、幾つかの魔法の開発に本腰を入れることになる。

 一つは、無属性魔法Lv.4【気流操作】派生10.〔(アンモニア)圧縮(・メーカー)〕(仮)。これは魔法銃作成の為だけでなく、ハーバー・ボッシュ法に()る窒素固定法の為にも使える。目標は1,000気圧以上の圧縮。

 もう一つは、Lv.7【物理超越】派生01.〔空間転移〕(仮)。

 言うまでもなく、リリスの空間転移の模倣(もほう)だ。


 〔空間転移〕を「無属性魔法Lv.7【物理超越】」と区分しているのは、当然物理学の限界を超えているものだからだ。Lv.6までは、実のところ物理現象の再現(エミュレーション)に過ぎない。


 この世界が地球の平行(パラレル)世界(ワールド)に過ぎないのなら。

 地球の物理学では再現出来ないことを、魔法で実現出来るだろうか?


 おそらく、可能。


 何故なら、()の世界に有って()の世界に無いものは魔力であり、それはショゴス(リリス)の微小細胞であることが判明している。そしてリリス自身「自分に出来ることなら魔法で再現出来る」と証言している。それが根拠。

 リリスは空間を渡り、空間を繋ぐ。

 それに加えて空間を拡張する『迷宮(ダンジョン)(コア)』もまた実在する。

 なら魔法学者たる者、魔法を使って空間を操作することが、出来ない筈がない。


 だから、これを実現することを(もっ)て、「魔法学」の学位認定論文に代えることにしよう。

(2,608文字《2020年07月以降の文字数カウントルールで再カウント》:2016/05/20初稿 2017/05/01投稿予約 2017/06/24 03:00掲載 2021/02/23誤字修正)

【注:火薬の爆発力の圧力換算は(それを表す資料がなかった為)筆者の概算です。実際は温度や弾頭重量その他の条件で左右されます。また、所謂「非合法ガスガン」(殺傷力を有するモノ)のガス圧は大凡20気圧程度なので、合法エアガンの200倍の圧力が解放されれば、充分な威力を生み出せるのは間違いないでしょう。

 「ハーバー・ボッシュ法による窒素固定法」は、Wikipedia「ハーバー・ボッシュ法」(https://ja.wikipedia.org/wiki/ハーバー・ボッシュ法)の項を参照しています】

・ スライムの食べ残しが硝化している、ということは、『ベスタ大迷宮』は硝石の一大産出地ということになります。時代が進むとここは各国にとっての戦略の要衝になるでしょう。なお、それの正体が「スライムの食べ残し」なのか「スライムの排泄物」なのかは不明です。

・ 火縄銃の射程は、(資料により異なりますが)最大200m、有効80m、30mまで近付かなければ具足を貫けなかったともいわれています。但し弾丸が球形(真球ではない)で且つ銃身に施条(ライフリング)が刻まれていないことから直進安定性は悪く命中率も悪い半面、弾丸の質量が大きい(小筒(こづつ)二匁半(9.375g)中筒(なかづつ)六匁(22.5g)。なお9mmパラベラム弾が8g前後、7.62mmNATO弾は10g程度)ことから、近距離での威力は大きかったようです。

・ アディたちの持つ、真のチートはやっぱりリリスの存在です。アディの記憶(一瞬後には忘れ去ってしまったものも含む)を正確に転写していることから、「教科書」と「教育課程」をこの世界に実現出来ています。よって、万一完成品を他国が盗み出したり人材をヘッドハンティングしてアディの異世界チートを再現したりしようとしても、それで出来るのは現在技術のみ。系統立った教育を受けられない他国人では、日本人をヘッドハンティングしたり日本製品をリバースエンジニアリングしたりしている某国人と同じで、そこから先の発展も応用も出来ないのです。

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