第03話 社会問題
第01節 街づくり・人づくり(承前)〔3/4〕
(注:難しい話が続きます。第01節は全部飛ばして第05話から始まる第02節「飛竜事件」から読み始めても、不都合はありません)
サリアと協議した結果、カナン暦705年冬の三の月の5日目を、新暦元年1月1日とすることにした。ちなみにこれで、月払いの給料(サリアたちへのお小遣いを含む)は一月分払わずに済ませられる(これは明治政府が新暦に対応させたときの小細工と同じ)。とはいえ新暦はネオハティスでだけ使われる暦法になるから、カナン暦との併記が必須になるだろうが。
そして新暦を周知する為にも、カナン暦700年(『毒戦争』の前年)から新暦5年12月31日までの計10年分のカレンダーを作り、過去分に関しては主だった事件を記した年表に纏める方が良いだろう。
出来れば誕生日も。これまでのような「数え」から、満年齢に切り替えたい。年に一度の、その人自身の誕生を祝い、その人との出会いを感謝する、その人だけの祝日を、ちゃんと祝えるようにしよう。ちなみに俺は、カナン暦686年の春の生まれ、としかわからない。旧暦686年つまり新暦マイナス19年(705年が零年)の3月あたりで適当な誕生日を設定すれば良い。
寧ろ、太陽暦導入に伴うこういった社会的な調整の方が、これから大事になってこよう。新暦施行まであと199日。各部署には頑張ってもらうことにしよう。
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難航していた問題に、浮舟橋の設計がある。
他にも測量や開拓・街道整備なども問題といえば問題だが、こちらは力尽くで何とでもなる。しかし、浮舟橋はそういう訳にもいかないのだ。
基本的なコンセプトとして、全長75m、全幅15m程度の船を二艘並べて全幅45mの双胴船とし、それを17艘並べて板を渡し、橋幅75mの浮き橋とする。船の固定は河底に錨を下ろし、増水時には錨を上げて板を外し、港に避難する。
コンセプトそのものは間違っているとは思えないが、当然ながら全通甲板(空母のように上部に障害物が殆どない船)とする必要がある。
だとすると帆装船を採用することが出来ず、かといって自律航行機関を持たなければあとは艪や櫂を使って人力で漕ぐしかない。が、17艘全てを動かす為の人力は、ちょっと負担が大きすぎる。
17艘を連環船(索条や鎖で複数の船を繋ぐこと)にして、岸辺に巻き上げ機を作る、ということも考えた。しかし双胴船17艘とそれに係る水の抵抗を加味した荷重を想像しただけで、この発想は放棄せざるを得なかった。
最終的に採用されたのは、橋上輸送。最初の1艘は普通に浮かべ錨で固定するが、2艘目は1艘目の甲板上を運び、目的地点で河に浮かべる。このようにして17艘全ての定位置まで運ぶのである。
また、そのことから双胴船のアイディアも破棄し、アウトリガー船に仕様変更することとする。浮力槽は片側だけに持たせることで輸送時の重量を軽減し、反対側の浮力槽を、隣接船のそれで共用させることで、橋としての連結も更に強固になるだろう。
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ハコモノ的な問題は、個々人の知恵と工夫で対処出来る。が、市政に於いて問題になるモノの大半は、それ以外のモノが殆どだ。
たとえば、治安維持組織。
「今、ネオハティスの治安維持は冒険者たちに依頼を出して対処している。
けど、その冒険者自身が問題を起こす例も少なくないし、冒険者では対応出来ない問題もある。
更に大きな問題を考えれば、外敵による侵略を受けた時だ。
ビジアやボルドとは良好な関係を築いているが、いつまでもそうであるとは限らない。またビジアやボルドに対して外敵が武力行使をしでかしたなら、ネオハティスとしては知らんぷりも出来ないだろう。
そういう訳で、常設軍を組織することを考える必要がある」
ネオハティスの幹部一同を前に、こう宣言して会議が始まった。
が、すぐに発言は尽きる。問題は、既に全員が共有しているからだ。
その問題は、「人手が足りない」。
大まかな考え方では、この時代(つまり銃器ではなく剣や槍といった近接武器主体で戦争を行う時代)、常設軍の兵員数は国家労働者人口の10%以下、総力戦体制時の戦力は約20%が限界となる(これ以上だと国の経済が回らない)。そして『国家労働者人口』は、大体総人口の四分の一というのが普通である。
ちなみに(統計上の前提として)、人口の男女比はそう大きく偏りはなく、また世代別人口比で考えると人口の約半分が子供と老人が占めることになる。これは途上国のような乳幼児死亡率の高い国(出生率が高く逆に高齢者人口は少ない)でも、また先進国のような高齢化社会(出生率が低く高齢者人口は多い)でも、労働者人口(言い換えれば労働者世代の男性人口)の割合はそれほど大きく変わらないのだ(日本のような超高齢化社会は例外)。
ところが、ネオハティスに限って言えば、この前提が当て嵌らない。
嘗てのハティスの戦いで、多くの青壮年男性住民が殉職した。また、難民団から離れて独自の道を歩んだ人の多くは独身男性だった。逆に合流を求めた人の多くは女性(子連れ含む)であった。その結果、労働者世代に於ける男女比は1対2と、女性の方が圧倒的に多くなっているのである(なお結婚適齢期の若者のうち独身――死別を含む――の男女の比は更に大きい)。今後の人口増加を見込む為には、重婚や女性の婚外出産をも積極的に推奨していく必要がある。
ともかくそういう事情から、女性の社会進出は、ネオハティスに於いては必然でありまた行政からの要請でもある。この件の環境整備(妊婦労働問題や子育て支援)は当然必要となるが、軍事面でこの問題を考えた時には、話が変わる。
抑々女性の軍事分野進出はあまり歓迎出来ないし、筋力や体力ではどうしても男性に劣る女性が戦力の主体となるということは、全体的な戦力の低迷に繋がる。
かといって男性中心でネオハティスの治安維持組織(常設軍)を造ろうと思ったら、100人程度しか採用出来ないことになる。
「要するに。女性が戦場に出ても足手纏いにならない方法か、少数でも多勢と渡り合える方法か、どちらかを見出さなければならない、ということか」
ぽつり、とつぶやいたルビーの台詞が、現状の見事な要約となっている。
「前者はともかく、後者は一時凌ぎにしかならないけどね。少数で大勢と渡り合える方法があるのなら、それを大軍が応用したら圧倒的、ということだから」
「なら、あとは……」
「弩、を使う方法?」
シンディが発言する。その方法で、嘗ての孤児院襲撃事件を乗り切れたし、先年の『賢人戦争』(俺がこの名称を口にするのは憚られるが)では防衛戦力を用意することが出来た。
「クロスボウは頼りになる武器だけど、如何せん射程が足りない。クロスボウだけに頼ったら、もし相手が犠牲を覚悟して突撃して来た時には守り切れない。
クロスボウを超える射程を持つ、そして一朝一夕では模倣されない、そんな武器が必要だな」
サリアの知識には、その答えがある。
「つまり、銃火器を使うことを考えているのね」
(2,779文字《2020年07月以降の文字数カウントルールで再カウント》:2016/05/20初稿 2017/05/01投稿予約 2017/06/22 03:00掲載 2021/02/23誤字修正)
・ 年表は、06月24日15時、25日03時、同日15時の三回に亘って掲載します。
・ 難民団に合流を求めた人の多くが女性だったのは、女性の一人旅(子連れを含む)の危険を考えると、難民団に紛れ込んだ方が遥かに安全だからです。夫婦連れ、或いは男性一人の場合、敢えて難民団に合流する必要はない、と判断した人も少なくありません。
・ イスラム教徒は4人まで妻を持つことが許されると言われていますが、この本義は戦災未亡人の救済にあります。その為、男の側には妻たちの間に格差を設けることは赦されず、全員を等しく扶養する義務が生じるのだそうです。
・ このような人口比の場合、血統書付きの美少年である(女装すれば女の子以外には見えない)ムート君などは、肉食系おねぇさまたちの標的にされてしまうでしょう。きっと、それに対して同世代女子がスクラム組んで、ムート君を守る(と見せかけてコミュニティで共有する)ことになるに違いありません。ちなみに、ムート(子供)たちの世代は、それほど男女比は偏っていません。




