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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第六章:「傭兵は経済学者!?」
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第17話 傭兵徴募

第03節 それぞれの三ヶ月〔4/5〕

◆◇◆ ◇◆◇


「市民、と言えば」


 さも話を変えるきっかけを見つけました、と言わんばかりに評議長は話題を振ってきた。


「あの戦争の後、多くの町が廃墟となり、その町の元住民が難民となりました。

 そういった難民たちは、多くは縁故(えんこ)を頼って他の町や領に保護を求め、職人は別の都市で新たな生活を始めるものですが、中には(いま)だ安住の地を見出(みいだ)せずに旅を続けている者たちもいるそうです」

「ええ、聞いています。

 うちの会頭の故郷の街の人たちもそうして旅をしている、と」

「そのハティスの難民団ですが、現在その数が一万を超えたと聞き及んでおります」

「一万? そんなに?」

「はい。ハティス出身者は8,000人程度の数しかいないのですが、他の町出身の難民も合流してきておりましてね。旅する者たちにとってみれば、同じ目的で旅をしてる一団と合流するのは理に(かな)っていますから。

 しかしその為、それを受け入れることが出来る余力を持つ領は、(ほとん)どないのが実情です」


「うちの会頭もそれを問題視していました。

 助けてあげたいけれど資金援助以外に出来る事が無い、と。

 だからこそビジア問題に介入し、辺境地の開拓許可を勝ち取りたいんだ、とも」

「ああ、成程(なるほど)。開拓地なら何とかなりそうですね。

 けど最悪、餓死者や凍死者が出ますよ?」

「その為に領主様に助力を()うのだとか」

「ビジア伯爵領の人口は、全体で十六万人を少し超えた程度です。そこに一万人の難民は流石(さすが)許容量(キャパシティ)を超えるのではないでしょうか?」

「そうですね。けど、難民たちにとっては旅を続けるよりは粗末であっても雨露(あめつゆ)(しの)げる場所と、長期に(わた)って腰を()えられる可能性のある場所が得られるだけで、随分(ずいぶん)違うでしょう。

 支援としては、それで充分なのかもしれませんよ。

 それ以上のことはうちの会頭が世話を焼くでしょうし」


「色々問題が山積(さんせき)していると思いますが、ボルド市評議会としても、出来る範囲での助力はしたいと思いますので、いつでも声をかけてください」

「そうですね。ハティスの難民団が居住地を見出せれば、現在ボルドに集まっている難民たちもそちらに送ることが出来ますしね」

「ははは、こちらの目論見(もくろみ)もすっかりお見通しですね」

「お互いそれで助け合えるのなら、それが最善でしょう」


「ただ、ハティスの難民団は今メーダラ領内にいるようですが、メーダラ領もボルド侵攻を計画しているという情報が入っています。

 難民団がその戦争に巻き込まれる可能性があります。そのことはご理解願いたい」

「難民を守って市民を危険に(さら)す訳にはいかない、ということですね? それは市長、市評議会として当然のことだと思います」


◇◆◇ ◆◇◆


 カナン暦704年夏の一の月。


 ラーンから戻った俺とラザーランド船長は、ボルドの船大工に新しい船の注文を出した。

 色々と考えてはいるが、この船は東大陸沿岸航路を専門に航海し、外洋に出ることは想定しない。マキア領やアザリア教国との交易を目的とした船である。

 その船の長としてラザーランドが指名したのは、これまで彼の航海を長く支えた腹心の一人であった。

 そしてラーンへの交易物の積み込みが終わると、『光と雪の女王』号はラザーランド船長とともに、西大陸に向けてボルドを出港した。


 俺はスノーが評議長から(もら)って来た紹介状を手に、冒険者ギルドに(おもむ)いた。来月にも始まるビジアの戦争に派遣する傭兵を雇用する為に。


◇◆◇ ◆◇◆


「えっと、アドルフさん。これはAランク商人としての依頼でしょうか? それとも、銅札(Cランク)冒険者である貴方からの?」


 冒険者ギルドにて。

 流石に今回の案件は、話が大きすぎる。窓口で依頼出来る内容ではないので、奥の個室を借りてギルドマスターと(じか)に交渉することにした。


銅札(Cランク)冒険者には、こんな依頼を出す権限が無いでしょう?

 発注者はボルド評議会とビジア伯爵の連名。取り(まと)めと出資は【ラザーランド商会】。傭兵団の指揮は銅札(Cランク)冒険者のアドルフを指名。

 そういうことです」

「いや、銅札(Cランク)冒険者の指揮って、納得出来ない冒険者も少なくないと思いますよ?」

「まぁ当然でしょうね。俺が徴募(ちょうぼ)に応じる冒険者の立場だったとしても、銅札(Cランク)の指揮で戦いたいとは思わないでしょうし。

 けど、困ったことに、ボルド市としてもビジア領としても、この一件は俺以外に旗振りが出来る人間がいないんですよ。


 それとも、適当な爵位でも自称しておきましょうか? どうせ叙爵(じょしゃく)する王族はいないんだし」

「フェルマール王家を(ほう)じる人たちは今でもいます。()く言う私もその一人です。そしてその人たちにとっては、貴方の今の言葉だけで充分不敬と(だん)ずるに(あたい)しますよ?」

「ギルマスは、王家の方々とお会いしたことは?」

拝謁(はいえつ)(えい)(よく)したことは一度だけ。(おさな)くも凛々(りり)しいルシル王女にお言葉を(いただ)いた」

「そうですか、なら先程の言葉は謝罪して撤回しましょう。そして意趣(いしゅ)(がえ)しに一言だけ言わせてください。

 ルシル王女は随分美しくなられましたよ。特にこの一・二年で、その美しさに(みが)きがかかっていますね」

「……そうですか、王女様は無事ですか。(いや)、あまり深くは追及しない方が良いのですね」

「そうしてくれると助かります」


「しかし、それとこれとは別の話ですね。

 まあ良いです。ボルド市評議会に縁ある商会から派遣された冒険者資格を有する人物が、便宜(べんぎ)上指揮を()る、ということで話を通しましょう」

「助かります」


◇◆◇ ◆◇◆


 当然ながら、強制依頼ではない傭兵の徴募に応じる冒険者は、荒くれ者が多い。

 そして案の定銅札(Cランク)で18歳(数え)にしては幼い風貌(ふうぼう)の、俺(ごと)きが指揮を執るということに、反感を覚える者は少なくなかった。


「アプアラ野郎をぶっ殺す為にビジアに助勢するのは構わねぇ。だがな、おめぇみてぇな若造に指図(さしず)されるのは納得出来ねぇな」

「ビジア領主館とボルド評議会の両方に繋ぎがあるのは俺だけだ。加えてこの依頼の出資者(スポンサー)は俺だ。納得出来なくても従ってもらうしかない。

 ……とはいえ、納得出来ないまま同行して、現地で裏切られでもしたら(こと)だ。

 なら今ここで納得してもらうしかないな」

「ほう、どうやって俺を納得させるつもりだ?」

「練武場に行こう。せめて武力でそれだけの実力があると証明してみせよう」


 ざっと見たところ、純粋な武力でシェイラやルビーに匹敵(ひってき)する実力者はいないようだ。もっとも、募集の時点で非正規戦を主体とするから斥候(せっこう)職優先で、としたことも理由の一つだろうが。

 自身の武に自信を持っていそうなのは、20人ほど。おそらく一対一なら誰と戦っても俺が勝てるだろう。ただ、20連戦になるとどうか?

(2,953文字:2016/02/26初稿 2017/03/01投稿予約 2017/04/25 03:00掲載予定)

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