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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第六章:「傭兵は経済学者!?」
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第18話 墓碑銘

第03節 それぞれの三ヶ月〔5/5〕

◆◇◆ ◇◆◇


 カナン暦704年夏の二の月の末、ビジア領都オークフォレスト。


 アプアラ領軍の侵攻を撃退したことで、(みやこ)はお祭り騒ぎとなっていた。

 話題の中心は、何といっても数千の大軍から賢者姫を守り抜いた『盾の乙女』『白魔の乙女』サリアと、旧フェルマール王国最強の武将マーシャル卿を一騎討ちで(たお)した『剣聖殺し』アドルフ。この両者に尽きる。


「いやぁ、あの『剣聖』対『剣聖殺し』の一騎討ちは、絶対後世に語り継がれるだけの価値ある名勝負だぜ。何せ小細工無しの真っ向勝負だったからな」

「何を言うか、あのポイントO・(オー)ウッズを真白く染めた『白魔の乙女』の氷雪魔法こそが伝説になるだろうさ。往年の『氷雪の神子(みこ)』を超えるんじゃないか?」

「まさか、そのサリアって冒険者。行方不明のルシル王女その人なんじゃねぇか?」

流石(さすが)にそれはないだろうよ」

「それよりも。銅札(Cランク)冒険者があのマーシャル卿を実力だけで打倒(うちたお)したって本当かよ。小細工無しって有り得ねぇだろう?」

「だから(すげ)ぇんじゃねぇか。あの目にも止まらぬ三段突き。全く(もっ)て人間(わざ)じゃねぇからな」


「いやいや俺は初めからわかっていたぜ。あの大将は出来るってな」


 それは傭兵徴募(ちょうぼ)に応じた冒険者たちのうち、荒くれ者21人を相手取った練武場での模擬戦の話である。

 冒険者側は21人が交代制で、対するアドルフは一人で、一対一で戦い、冒険者側の全員を屈服させたのである。冒険者側は一度負けても体力が回復すればまた順番の列に戻って良いというルールだった為、2回・3回挑戦した冒険者もいたのだが、その全てをアドルフは叩きのめしたのだ。


 そんな二人だから、戦後サリアは鉄札(Dランク)から銅札(Cランク)へ、アドルフは銅札(Cランク)から銀札(Bランク)へ、それぞれ昇格が決まったことも違和感なく受け入れられた。

 なお二人とも所属はボルドのギルドなので、ボルドに戻って手続きを行うまでは従前のランクのままとなる。が、事実上ボルドとオークフォレストで二重籍扱いされている為、二人がオークフォレストで仕事を請けたいと申し込んだらそのまま受理されることになるだろうが。


 ちなみに、話題の二人は賢者姫とともにオークフォレストを離れていた。

 ビジア領南部、麦酒の(スコッチ・)蒸留酒(ウィスキー)の産地である、ブッシュミルズ村を訪れているのである。


◇◆◇ ◆◇◆


 ブッシュミルズ。

 この世界でも有名な、蒸留酒の産地である。30年とか40年とかの期間をかけて熟成させたヴィンテージや、複数種の酒を調合したブレンディッドなど、様々な種類を作っている。

 勿論(もちろん)、蒸留酒だけでなく醸造酒もあり、ベースも麦酒、果実酒、芋焼酎など様々だ(もっとも果実酒や焼酎などはバリエーションの一つとして造っているというのが現実のようだが)。


 俺がこの村に来たかったのは、俺が前世も現世も変わらず酒が好きだから、というだけの理由ではない。酒の製法が地球のそれと全く同じであることから、転生者が開祖(かいそ)なのでは、という疑惑を持っているからである。


◇◆◇ ◆◇◆


「ようこそ、ブッシュミルズ村へ。賢者姫と呼び声の高い領主夫人の御来村を心より歓迎致します」


 俺たちがブッシュミルズに着いた時、真っ先に村長夫妻が出迎えて(ミリアに)歓迎の意を表してくれた。


「有り難うございます。この方たちは私の兄とその友人です。今回の訪問は兄たちの要望によるもの。出来る限りそれに(こた)えてくださると嬉しく存じます」


 そして初めて俺たちの存在に気付いたように、こちらを見た。


「ほう、領主夫人のお兄様ですか。はじめまして。

 こんな田舎の村にどのような御用で?」

「勿論、ウィスキーの話を聞きに、です」

「申し訳ありませんが、おそらくお兄様のご要望にお応え出来ることは少ないのではと愚考致しますが」

「大丈夫です。別に製法の秘密を盗みに来た訳ではありませんから。

 ただ(いく)つか(たず)ねたいだけです。当然ながら答えられないことは答えなくても結構です」

「一体どのようなことを?」


「この村の開祖に当たる人物の、出自です」

「……それは、残念ながら我々も知りません。ただ遠方から来た、としか」

「では開祖は何故この村に来たのでしょうか?」

「清流と大麦畑と(オーク)の樹、そしてウィスキーに必要な『あるもの』。それを求めてこの地に辿(たど)り着いたと()われております」

成程(なるほど)。ではその開祖が何処で泥炭(ピート)に関する知識を、それを使うと美味(おい)しいウィスキーが出来ると、知ったのでしょう?」

「……貴方は何故ピートのことを?」

「美味しいウィスキーは、ピートの(かお)りがする。

 俺にとっては常識に近い知識です。が、この世界では知らない人の方が多い。

 だから、俺とこの村の開祖は同じ知識を有しているのでは、と思ったんです」


 ちなみに、前世地球ではピート臭(スモーキー)が嫌い、というウィスキー愛好家も多く、薫り付けにだけピートを使う、或いは全くピートを使わない、またはその両者をブレンドする、等様々なウィスキーの作り方がある。


「そうでしたか。ですが残念ながら我々の(もと)にも、開祖が何処(いずこ)より来たのかは記録に残っておりません。どうやらご要望にお応え出来ないようで」

「もしよければ、開祖の墓を見学したいのですが」

「何もありませんよ? それでも宜しければこちらへ」


 そして、案内された墓地の一角。

 村の人たちから死後もなお(した)われ尊崇(そんすう)されていることがよくわかる、その墓碑。そこには日本語で『海軍少尉佐々木武雄、異界ニ眠ル』と刻まれて……、いなかった。


「サリア。将来サリアが死ぬとき、そこに墓碑銘(ぼひめい)を刻むとき。

 サリアは何と刻む? 『サリア』の銘を刻む? それとも、『水無月(みなづき)麻美(あさみ)』の銘か?」


 ちょっと聞いてみた。答えはわかっているけれど。


「『サリア』、でしょうね。

 水無月麻美は、向こうの世界で死んだわ。

 あの頃(ぜんせで)は理解出来てなかったけど、西大陸で暮らしていた頃も自覚出来てなかったけど、


 水無月麻美は、自分の人生をちゃんと生き切った。短かったし、未練もいっぱい残っているけど、それも含めて彼女の人生だったと思う。

 そして、今のあたしはサリアの人生を生きている。

 だから、あたしの墓に刻む碑銘はやっぱり『サリア』だわ」


 それがこたえ。

 ブッシュミルズの開祖が転生者であったのかそうでなかったのかは結局わからない。

 けど、きっと彼もこの世界で、自分の人生を生き切ったのだろう。

 だから、仮に転生者であったとしても、そこに前世の名前を刻まなかったということだ。


 転生者の足跡を探る、という意味では、このブッシュミルズ来訪には全く意味がなかった。

 けど、ここに来たこと自体は無駄じゃなかった。そう思える旅になった。


◇◆◇ ◆◇◆


 閑静な村を散策し、また試飲して気に入った酒を樽で購入したりして、久しぶりの休日をのんびり過ごしていたところ、そこに騎馬のルビーが駆け込んできた。


「アディ、すぐにボルドに戻ってくれ。評議会からの呼び出しだ。

 場合によってはメーダラ領と戦争になる」

(2,998文字:2016/02/26初稿 2017/03/01投稿予約 2017/04/27 03:00掲載予定)

【注:ウィスキーの製法とその歴史に関しては、第二章第40話を参照願います。また本作中の地名「ブッシュミルズ」は、アイルランドのブッシュミルズから採っておりますが、その他の設定は本作独自のものです。なお、地球のブッシュミルズのアイリッシュウィスキーは、ノンピートです。ちなみに地球のウィスキー史に於いて泥炭(ピート)を使用したのは、麦芽を乾燥させる低コストの燃料として求められたのがはじまりです(ピートは石炭の中では最も質が悪くまた火力も弱いけど、麦芽を乾燥させる為には充分)。選んでピートを求めたという時点で、地球知識の後追いの可能性が濃厚となります。

 『海軍少尉佐々木武雄、異界ニ眠ル』という墓碑銘は、〔ヤマグチノボル著『ゼロの使い魔 3』メディアファクトリー MF文庫J〕の、登場人物の一人シエスタの曽祖父の墓碑に日本語で刻まれていたというエピソードが原典です】

・ 余談ながら。日本語(法律文書上)ではwhiskey(またはwhisky)は、「ウイスキー」(「イ」は大文字)と表記します。これは、ウィスキーが日本に周知された当時の日本語に小文字の「ィ」が存在しなかった(正確には存在していたが、公文書等に使用出来る字句としては認められていなかった。「法令における拗音及び促音に用いる「や・ゆ・よ・つ」の表記について」(昭和63年7月20日内閣法制局総発第125号)によりそれが認められるようになった)ことに由来しますが、発音は「ウィスキー」の方が近くなります。なお、「ウヰスキー」という表記もありますが、これはニッカウヰスキー株式会社の商号表記であると同時に、未登記商標として事実上認知されている為、同社に優先独占使用権が公知されています。

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