第23話 決闘・1~冒険者と騎士~
第04節 新米騎士〔5/6〕
「聞いているのかセレストグロウン卿。私は卿に、決闘を申し込む!」
……だから、誰?
「私はレーヤ・メーダラ。メーダラ伯爵家の三男だ」
メーダラ卿とやらとその取り巻きらしき3人の騎士たちが、そこにいた。
「貴様如きどこの馬の骨とも知れない冒険者風情が栄光あるフェルマール王国騎士団に所属し、剰え王女殿下をお守りする近衛隊に属するなど、決して許されるものではないぞ!」
「俺は叙任式で、国王陛下と、王女殿下と、宰相閣下と、最高司祭様に『汝騎士たれ』と言われたが、その方々の許しを以てしても、なお騎士たるには足りない、ということか?」
「黙れ! 本来なら貴様如き木っ端の冒険者が、伯爵家の人間に声をかけるなど許されない事ぞ」
「あぁはいはい。で、あんたは何を望むんだ?」
「勿論、私が勝った暁には、お前は王女殿下の近衛を辞めてもらう。否、それだけじゃなく、黄金拍車を返上し、王都から出て行け。お前の命までは求めん。平伏して感謝するが良い」
「俺を騎士にと叙したのは国王陛下で、俺を近衛にと指名したのは王女殿下だ。
俺とあんたが決闘をして、それを覆すというのなら、それはお二人に対する不敬に値するのではないか?」
「勘違いするな。俺は勝利の代償に、お前の黄金拍車を剥奪しようとしている訳じゃない。お前が、俺に負けた後自発的に黄金拍車を返上するんだ」
「成程。つまり陛下や殿下に不敬を働くのは、俺一人ということか」
「そういうことだ」
「なら余計、この決闘を受ける理由がないな」
「何だと?」
「俺にメリットが無さすぎる。受けても意味がないのなら、受ける必要もあるまい」
「調子に乗るな、“加護無し”如きが。俺の父上がその気になれば、お前の家族がどうなると思う?」
「俺の家族? 恥を承知で言わせてもらうが、うちの家族の中で一番弱いのは俺だぞ?」
流石にこれは、少し大げさ。シンディは戦闘能力皆無だから。
だけど、シェイラには近接戦闘じゃぁ絶対に勝てないし、リリスにはどのような戦い方だったとしても勝てる可能性すら見つけられない。二人に手を出して痛い目を見るのは、メーダラ伯爵家の方だろう。
「だがまぁ、俺の家族に手を掛けるとまで言われて、引き下がる理由もないな。
わかった。受けよう。
だが、決闘のルールを先に教えてほしい」
「ルールだと?」
「あぁ、ご存知の通り、俺は最近騎士になったばかりでな。貴族の間での決闘のルール、明文化されたものは知っているが、不文律となっている物にはとんと疎いんだ。
たとえば、相手の楯だけをしか攻撃しちゃいけないとか。
たとえば、相手が泣いて命乞いをしたらそれ以上攻撃しちゃいけないとか。
たとえば、実家の権勢が格上なら、刃を向けることさえ許されないとか。
その辺りを聞かせてほしい」
「貴様、舐めてるのか?」
「少なくとも噛り付きたいとは思っているよ。
で、だ。騎士典範に拠れば、決闘の詳細は、挑まれた方が決めることになっている。なら、俺が決めて構わないのか?」
「剣による戦い。それ以外の何がある?」
「俺を『冒険者』と呼んだのは、あんただ。
なら、冒険者としての戦い方がある」
「冒険者風情が、代々王国の剣となってきたメーダラ家の者に勝てると思っているところが素晴らしい。良いだろう、貴様の流儀に合わせてやろう」
「決着方法はどうする? あんたの希望通りとするのなら、相手を殺しちゃいけないってことになるが……」
「残念だが、決闘を始めたら何が起こるかわからないからな。抑々命も懸けずに騎士の誇りを守れるのか?」
「了解。決着は、生死を問わず。但し、相手が降伏した場合、または明確な決着がついておらずとも立会人の判定で勝敗を確定させる場合もある。ということで如何か?」
「最後のは命乞いの為の逃げ道か?」
「否、たとえあんたみたいなクズでも、騎士団にとっては戦力だからな。
数合わせでもいてくれないと困るという場合もある。その辺は立会人に決めてもらえば良い」
「クズ……、だと!」
メーダラ卿が激昂しかけたところに、シルヴィア・ローズヴェルト卿の声がした。
「何の騒ぎだ!」
「ローズヴェルト卿、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
ですがもし宜しければ、これから行う私とメーダラ卿の決闘の立会人になっていただけないでしょうか」
「決闘だと? 誰の許しを得てそのようなことを行うつもりだ?」
「騎士典範に拠れば、騎士は己の誇りを守る為に剣を取ることは貴ばれる筈です。なら、騎士同士が名誉を懸けた決闘をすることを、咎める理由も又無いのではないでしょうか?」
「己の誇りを?」
「はい。私は、メーダラ卿に敗北したら、己の意志で黄金拍車を返上致します」
俺のその言葉に、ローズヴェルト卿は顔色を変えた。当然だ。それは恩賜の品を送り返すことに他ならず、国王陛下に対して最上級の不敬と言われても反論出来ない行為だからである。
「それは認められん」
「わかっております。つまり、その場合その責は私にのみあり、メーダラ卿には関係のないことでございます」
「自分が何を言っているのか、わかっているのか?」
「勿論。ただその代わり、この決闘は騎士の作法に拠らず、冒険者の流儀でやらせていただきます」
「良いだろう。では、もしメーダラ卿が敗北したら、お前は彼に何を要求するつもりだ?」
「何も」
「え?」
「何も求めません。必要もありません。
勝てると知っている相手に勝って、何を要求するというのでしょう」
「何だと?」
「ローズヴェルト卿、貴卿はどう思います?
彼は、マキアの……、何といったか名前は忘れましたが、右軍総大将より強いでしょうか?」
「グラハム将軍、か。一対一なら、私でもあの将軍に勝てるとは思えない」
「俺は一対三で勝ちました。それが根拠です」
◇◆◇ ◆◇◆
剣で強くても、馬を上手に操れても、それで戦に勝てるとは限らない。
剣技や馬術が巧みでも、それだけで勝てるのは剣技や馬術の試合だけ。
実戦では、それらはあくまで勝率を上げる要素の一つ。
誇りを貴びそれを支える為の技術に重きを置く騎士に対し、冒険者はどこまでも生存を第一優先にする。戦いはあくまで生存の為の戦略(選択)でしかなく、戦う以上最低でも負けてはならない。
そして戦うならば、勝つ為に出来る事は何でもする。それが冒険者の誇りというモノだ。
(2,826文字:2015/12/15初稿 2016/09/30投稿予約 2016/11/06 03:00掲載予定)




