第24話 決闘・1~戦場に於ける、強さ~
第04節 新米騎士〔6/6〕
「お前は何を考えている?」
俺がメーダラ卿との決闘を約した、その日の午後。
王女殿下の面前で、ローズヴェルト卿に詰問されていた。
「お前の剣の腕は、騎士団の皆が知っている。
対してメーダラ卿は、騎士団でも上位に入る実力者だ。
まともに戦って、お前に勝ち目はないぞ?」
「その『まともな戦い方』というのは、騎士としての戦い方、という意味でしょう?
だからこそ、今回の決闘で俺は、『冒険者』としての戦い方をする、と宣言したんです。
その意味、わかりますか?」
「何が言いたい?」
俺は少し、皮肉気に笑いながらローズヴェルト卿を見つめた。
「この辺で、一度しっかり現実を見せておく必要があるのかな、と思いましてね」
「お前の言う現実とは?」
「一言で言えば、あのブルックリンの戦いでの、ローズヴェルト卿の敗因、です」
「……何?」
「貴卿は、剣技に秀でている。馬術も巧みだ。
それらを上手く活かせるシチュエーションでは、貴卿に勝てる相手は少ないでしょう。
だから相手は、そのシチュエーションそのものを覆すことを考えます」
「具体的には?」
「剣技に秀でているのなら、剣の間合いの外から戦えば良い。
馬術が巧みなら、馬が動けないようにすれば良い。
貴卿にそれ以外の手札が無いのなら、あとはもう、一方的です」
「それが、あのブルックリンの戦いだ、と……」
思い当たる節があるのか、ちょっと考える表情を見せた。
「そうです。
騎士たちは、決闘と言うと、剣による戦いを当然のことだと考える。
そして剣とは、騎士剣を指して言います。
一方俺の冒険者時代の二つ名は、“飛び剣”です。つまり、投げナイフを得意としていました。
投げナイフもまた、剣です」
「投げナイフで、騎士剣に勝てるとでも?」
「先程も申し上げましたが、既に俺は結果を出していますよ。
俺の投げナイフは、彼の戦場で、グラハム将軍の左腕と、側近の右足と、もう一人の側近の頭を吹き飛ばしました。ローズヴェルト卿、貴卿に同じことが出来ますか?」
「……だが、投げナイフの威力では――」
「それ以上は、明日の決闘を御覧じろ、ですね」
これで話は終わり。俺は王女殿下に黙礼して、退出する為歩き出す。
「お前、まさかメーダラ卿を……」
「勿論、ローズヴェルト卿がお望みなら、殺さないように精一杯手加減致します。
が、騎士の決闘に於いて、手加減をするというのは、相手に対してこれ以上ない侮辱になるのではないでしょうか?」
ローズヴェルト卿はまだ何か言い足りなそうだったが、俺はそのまま部屋を出た。
◇◆◇ ◆◇◆
翌日、訓練場。
多数の騎士たちが、今日の決闘の話を聞きつけて参集していた。
「良く逃げずに俺の前に現れたな」
「何故逃げる必要がある?」
「まぁ良い。いつまでその虚勢を張り続けられるか、見ものだな」
メーダラ卿が何かずれたことを言っているが、どうでも良い。虚勢かどうかなど、こいつに教える必要さえないのだから。
「双方、準備は良いか?」
「いつでも良いですよ」
と、俺の様子を見たメーダラ卿が、俺に要求してきた。
「おい、剣を抜け」
「必要ないだろ? 俺はローズヴェルト卿と、お前を殺さないように精一杯手加減すると約束しているんだ」
「何!」
「じゃぁルールを追加しよう。決着が付く以前に、俺が腰の騎士剣を抜いたら、その瞬間俺の負け。どうだ?」
「どこまで愚弄すれば気が済むんだ!」
「アンタが泣いて謝るまで」
「殺す。一切の慈悲は無いと思え」
「出来る事を言えよ」
メーダラ卿は鎧を纏わぬまま騎士剣を抜き、正眼に構えた。
俺は自然体のまま、既に左掌の中には〔無限収納〕から取り出した苦無が一本。
緊張する周囲。
そして、ローズヴェルト卿の合図の声。
「はじめ!」
◇◆◇ ◆◇◆
当たり前のことながら、勝負は一瞬だった。
俺は振りかぶりもせず、苦無を〔射出〕した。それは、一歩踏み出そうとしたメーダラ卿の左脛に命中し、周囲の組織繊維を引きちぎりながら貫通して後方の樹に突き刺さった。
体重を乗せた踏み込み足を吹き飛ばされたことで、ただでさえ「出足払い」に似た状況になっているうえ、その衝撃力の余波は彼の身体を引き摺り、回し車のようにその場で回転させた。
結果。
メーダラ卿は決して華麗とは言えない前方伸身一回半宙返りを決め、見事に顔面から前世名古屋城の金の鯱ポーズで着地した。
そして、訓練場が静寂に包まれる。
「メーダラ卿はまだ死んでいませんが、降伏もしていません。
立会人が制止しないのなら、決闘は継続と解釈して宜しいのですね?」
「い……、否、待て。それまでだ。
この決闘、セレストグロウン卿の勝ちだ」
ローズヴェルト卿の宣言を聞いても、なお声を発する者は無く、動く気配もない。
「今のは、魔法、か?」
「はい。俺は御存じの通り、どの精霊神の加護も得られませんでした。
だから、無属性の魔法しか使えません。
無属性魔法。物を動かす魔法。
その魔法で、ナイフを動かしたんです。彼の足めがけて」
「この魔法で、グラハム将軍の左腕をもぎ取ったのか」
「えぇ。
騎士剣術が無駄なものだとは思いません。が、それだけで生き残れるほど戦場は甘くない。
俺はローズヴェルト卿と試合をしたとしたら、10回勝負しても1回も勝てないでしょう。
けど戦場で見えたら、確実に勝ち、殺せる自信があります。
結局、そういうことなんです」
◆◇◆ ◇◆◇
その日の夜。
アレクの寮の敷地内に、不埒な侵入者の影があった。
が、寮内の人間が気付く前に、その影はすぐに消えた。文字通りの意味で、この世から。
「負けた腹いせか、息子を不具にされた報復か。
どちらにせよ、敗者は勝者に従うのが世の理。
どれ、妾が教えて進ぜよう」
◆◇◆ ◇◆◇
翌朝。
メーダラ伯爵家の王都屋敷があった場所に、何もないモノがあった。
矛盾して聞こえるかもしれないが、そうとしか言いようがない。
その場所には、瓦礫はおろか、土もなく、それどころか光も空気も熱もない。
にもかかわらず、そこに吹き込む風もなく、完全な無だけがそこにあった。
屋敷の住人は使用人を含め、全員路上で倒れていた。
ただ一人、メーダラ伯爵だけは、虚ろな眼差しで何やらぶつぶつ呟いていた。その髪の色は抜け落ち、その表情からも理性の色は見えなかった。
その夜、メーダラ伯爵邸で何が起こったのか、知る者は無かった。
また、王都の“闇の住人”と自称する者のうち、何人かの存在が完全に消滅した。その者たちに関わった者たちの、その者たちと関わったという記憶さえも残らず消失している為、その者たちが消滅したことに気付く者はいなかった。
(2,896文字:2015/12/15初稿 2016/09/30投稿予約 2016/11/08 03:00掲載予定)
【注:「不具」は四肢の欠損等を指す言葉(「具えず」で「不具」)ですが、現在では差別用語・放送禁止用語に指定されています。本作品に於いては、演出の都合上登場人物の台詞としてこういった表現を使う場合がございますが、ご理解願います】
・ この決闘。「冒険者の流儀で」という条件を認めさせた時点で、アレクの勝ちは確定しました。条件を整えるのが冒険者の戦い方で、整えられた条件で最強なのが騎士の戦い方ですから。
・ きっと、メーダラ伯爵は宇宙的恐怖の深淵を覗き見てしまったのでしょう。




