第21話 叙任式
第04節 新米騎士〔3/6〕
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秋の三の月の朔。先の戦の論功行賞が行われた。
終戦から中三月。普通はこれ程時間を置いてから論功行賞が行われることは珍しい。何故なら一般の論功行賞は、戦場での槍働きを評価するものだからである。
ところが『毒戦争』は、王家が半信半疑のまま騎士団を出し、戦場に向かったら実際に戦争が始まった、というのが実情である。その『功』の多くは戦前の、当時王家が知らなかった働きを評価しなければならないのである。同様に、この戦争に於ける公敵たちの思惑の裏付けの為にも、調査に時間を要したのだ。
まず、マキア王国の処遇。
ルシル王女を利用して捨てた第三王子は、王女の放った〔酷寒地獄〕で肉塊になり果てている。だが王太子と第二王子は健在であることから、二人ともフェルマール王国の王都に連行されることになった。表向きは留学だが、実態は人質であり、将来の併合の為の布石であることは、誰の目にも明らかだった。
他にも、戦費賠償と通商権の優遇や高額関税等、当面マキアを経済植民地化する施策が発表された。
続いてベルナンド辺境伯の処遇。
軍資金の不正受給他税収の過少申告、その他国費の横領。
戦時に於ける売国的サボタージュ。
証拠とともに明らかになったこれらの事実により、伯爵家は改易となり、辺境伯領の分割が申し渡された。
旧辺境伯領北部と、南西部(ブルックリン、ヴィッシンズ両町とその周辺村落)、南東部(ハティスからリュースデイルまでの地域)の三つに分割されることになり、南東部はハティス新男爵が統治することになった(北部と南西部は当面無主領地となり、王都から代官が派遣される)。
その次は、勲功。
密偵を放ち敵の思惑を突き止め、そして前線の兵たちを支える補給を賄ったことが功第一等として、ケイン・エルルーサ卿の名が呼ばれた。男爵への陞爵が宣せされ、国王の手から報奨金が渡された。
そして、勲第一等。
槍働きを賞する為、その名が呼ばれた。
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「冒険者アレク、前へ!」
宰相閣下の御言葉に従い、俺は国王陛下の前に進み出、膝をついた。
「冒険者アレク。
この者、彼のブルックリンの戦いに於いて、突出した騎士団が敵兵に包囲された時、その敵兵を逆包囲するきっかけを作る活躍をした。
また、その後王国軍が全軍壊走せんとする時、撤退を唱えながら殿軍を守り、マキア軍右軍総大将グラハムに一騎打ちを挑んだ果てに、その側近二名を屠り、グラハム将軍の左腕を斬り捨てるという大殊勲を挙げた。
この者の勲に比類なく、その槍働きに於いて第一等であることを讃え、ここに騎士爵の叙爵と、『セレストグロウン』の騎士姓を与える!」
「騎士、アレクサンドル・セレストグロウン卿。これからも余と姫の為、この剣を捧げよ」
「微力ながらも、全霊を尽くします」
そして国王陛下が差し出した騎士剣を、俺は拝受した。
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論功行賞の後は、夜会がある。
支度に手間取る淑女はともかく、紳士の支度に時間はかからない。寧ろ無駄に余った時間、入間氏の遺産の一つであるノートPCを復旧させ、そのHDDの中身を検閲するのに費やした。
一言で言うと、入間氏のタブレットPCもノートPCも、宝の山だった。
入間氏は、タブレットでネットや電子書籍を閲覧しながら、ノートで作業するタイプだったようで、タブレットにはインターネットブラウザの他電子書籍データや画像・動画データ、表計算ソフトで作られた何かの集計表などが、ノートは作成途中の論文や幾つかのアプリケーションソフトなどが収められていた。それらは正に宝の山。異世界で重宝する知識の山、という意味である他、前世の俺がプレイしたことの無い――
……おや、誰かが来たようだ。
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どうやらお宝発掘に思ったより時間がかかったようで、王宮付きの侍女が知らせに来た時はもう夜会の時間だった。
一応、俺は先の戦争の英雄(笑)なので、ルシル王女のエスコートを任じられた。
この一ヶ月の間に叩き込まれた礼法の中にはダンスも含まれており、少なくともルシル王女に恥を掻かせずに済む程度には、何とかエスコート出来た、と思う。王女がどう評価しているかは知らないが。
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そして翌日。
俺は叙任式の準備の為、神殿の一室で精進潔斎する。食事を断ち、身を清め、徹夜で精霊神に祈りを捧げる。
とはいえ丸一日一室に閉じ込められるだけで、その間何をしていても、咎められることは無いという。実際、真面目に祈りを捧げる人は殆どいないどころか、惰眠を貪る人も少なくないのだとか(流石に鼾が五月蠅いと神官たちに叱られるそうだが)。
俺はこれ幸いと、入間氏のノートPCに保存されているエ■ゲ、……ぢゃなく、データの確認と検証に一日を費やした。タブレットの方に攻略チャートを作る理系らしい律義さに感謝しながら、一つ一つ順番にデータを解析・収集するのであった。
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秋の三の月の三日。俺の騎士叙任式の日だ。
神殿大聖堂にて、王陛下と最高司祭様が、先日俺が賜った騎士剣を聖別し、最高司祭様の手から俺に渡された。
その剣を陛下に一度渡し、陛下は剣の平で肩を三度叩いた。
次いで剣を鞘に納め、陛下御自らの手で剣帯を俺の腰に巻く。
その後、宰相閣下が俺の靴に祝別された黄金拍車を取り付け、俺専用に作られた旗幟を渡された。
前世地球の騎士の叙任であれば、この旗幟に記された紋章を、陣羽織や楯に刻むものだが、この世界にはそういった風習は無い。ただ陣中にあっては「旗持ち」と呼ばれる従者が、この旗幟を掲げる(或いは槍などに繋いで揚げる)。
この世界では、紋章は決して傷付けてはならないもの。剣を打ち込まれることが前提の楯や、その下に鎧を着こむ陣羽織に紋章を刻むなど、以ての外という訳だ。
ともかくこれで、俺は晴れてフェルマール王国の正騎士となったのである。
(2,894文字:2015/12/14初稿 2016/09/01投稿予約 2016/11/02 03:00掲載予定)
【注:騎士叙任式の内容は、京都大学RPG研究会様のHP内コンテンツ「RPGに関する雑文」(http://www.ku-rpg.org/column/)の「騎士の晴れ舞台」の項を参照しています。
「……おや、誰かが来たようだ」は、ホラー映画にありがちな展開的なネットスラングですが、その原典は不明です】
・ ルシル王女は、ブルックリンの戦いに於ける敗因となったこととの相殺と、王族だからという理由とで、論功の対象からは外れています。
・ アレクが叙任式の前日にプレイしたゲームがどんなものだったのか。18歳未満の方は想像を膨らませてください。え? ただのデータ検証だって? あ、はい、確かにそうでした。けど潔斎の間から女性声優の嬌声が響いたら……。きっと、【気流操作】の魔法を使って音が漏れないようにしたに違いありません。
・ それにしても。精進潔斎の間で、その為の時間で、煩悩と不浄に耽溺する。それがセレストグロウン・クォリティ。ちなみに、空腹時には干し肉やビタミン飴、或いは蒸留酒などを口にしております。




