第20話 上京
第04節 新米騎士〔2/6〕
王都に着いた俺たちは、取り敢えず王宮に到着を告げた。
式の次第もわからないし、当日までの予定も知らない。だから王族関係の予定を(あるのなら)先に埋めてしまおう、と思ったのである。
すると、然程時間を置かず、国王陛下と王家の方々(王妃様、王太子殿下、第二王子、第二王女)とのお目通りが叶うと使者が伝えに来た(既に嫁いでいる第一王女と、学園在籍の第三王女、第三王子、そして幼少の第四王女は、今はご不在だとのこと)。
俺は当然のことながらエルルーサ卿も、謁見までは予定していなかった為平服に近かったのだが、これは非公式の謁見だからと赦された。
「まずはエルルーサ卿。先の戦に於ける其方の働きに感謝しよう」
「勿体無いお言葉です。しかし――」
「わかっておる。
其の方が、ベルナンド伯の息子、か。なかなかの面構えだな」
「初めて御意を得ます。冒険者のアレクと申します。姓はありません」
「そうか。其方の才を活かせなかったのが、ベルナンド伯の限界だったのだろうな。
もっとも、それが出来るのなら、あのような結果にはならなかっただろうが。
ベルナンド伯爵家は、改易となる。
其方には、騎士の号と共に新たな姓を与えよう。希望があるのなら今のうちに申し出ておくが良いぞ」
「お許しいただけるのでしたら、『セレストグロウン』と名乗りたいと思います」
「その姓に、何か意味があるのか?」
「私の恩人の名を戴きました」
「そう、か。考えておこう。
叙爵の後、其方の配属先はもう決まっておる。
ルシル」
「はい。
アレク・セレストグロウン卿。貴方はこのシルヴィア・ローズヴェルト卿の部下として、私の近衛隊に配属されます」
「シルヴィア・ローズヴェルトだ。先の戦では、結果的にだが其方に助けられた。一応礼を言っておく。
だが、お前を甘やかすつもりはないからな」
「心得ております」
「其方が近衛の騎士寮に入るのは、叙任式の後だ。
だが訓練は、明日からでも参加出来るようにしておく」
「畏まりました。では明日、夜明けとともに騎士舎の方に参ります」
◇◆◇ ◆◇◆
秋の三の月の朔に、先の戦の論功行賞が行われ、中一日置いて三日に俺の騎士叙任式が行われるそうだ。
『叙任式』というのは、貴族としての騎士爵叙爵と、軍人として王家に忠誠を誓う儀式、その両方を兼ねる儀式になる。
手順としては、まず論功行賞で騎士爵叙爵が宣せられ、同時に報奨の一つとして騎士剣を賜る。
翌日一日かけて騎士剣が聖別されると同時に、俺自身が精進潔斎(断食・沐浴した上で、徹夜で精霊神に祈りを捧げる)して、三日目の朝に叙任式が行われることになる。つまり、中一日空くのはあくまで儀式のスケジュール。俺自身は、その三日間殆ど休む余裕はない。
そして騎士として認められたら、次は辞令を受け取り、上官に着任報告をすることになる。それから騎士寮に案内され、その日一日は巣作り(新居の整理)に費やすことを許される。その代わり、翌日から新米騎士として厳しい訓練に曝されることになるのだ。
エルルーサ卿は、論功行賞の後の夜会が終わったらもう王都には用はないのだが、俺の叙任式は見届けると言ってくれた。
論功行賞前に合流することを約した後、俺たちは彼と別れることになった。
◇◆◇ ◆◇◆
取り敢えず、俺たちはハティスのミラさんから貰った紹介状に従って、王都の仕立屋を訪ねた。
見るからに冒険者、という俺たちの風体を見て、最初は仕立屋も胡乱げな眼差しをしていたが、ミラさんの紹介状を見せると態度が一変した。
ここで論功行賞の為の衣裳と、叙任式の為の衣装、それに参内するときに着る服の仕立てを依頼した。ついでに俺の連れとしてシェイラやシンディ、リリスが恥ずかしくないような衣装も。
俺が【ミラの店】に提供した直定規と巻尺がこの店でも使われていることに少々驚いたが、すぐに理由が判明した。ミリアの妹分であったシシリーが、この店で針子見習いとして修業をしていたのである。シシリーもまた、ミラさんの紹介でこの店に奉公に来たのだという。初めて訪れた街で知った顔に会うのはちょっと嬉しい。とはいえそれは、採寸の気苦労を和らげる助けにもならなかったが。
そこから、シンディと他のメンバーは別行動をとる。
シンディは鍛冶師ギルドに行き、王都で鍛冶師として働く為の申請をする。
俺たちは商人ギルドと冒険者ギルドに行き、それぞれ移籍を申請した。
商人ギルドも冒険者ギルドも、共にハティスから連絡が行っていたようで、特段の問題もなく申請が受理されることになった。
一方シンディの方は、と言うと。
「全く、莫迦にしてくれて!」
「どうした?」
「うん、工房を持つことを申請したときにね、店構えについて聞かれたの。
一般から客を取るのなら、ちゃんと店を構える必要があるからね。だけど、某騎士爵の専属だから基本的に一見さん相手の商売はしないって言ったら、『何だ、貴族の囲い者か』ですって!」
「でも、シンディさんにとってはそう言われて嬉しいんじゃないですか?」
「シェイラちゃん、どういうこと?」
「だって、ご主人様の愛妾だって公認された訳ですから」
「あっ……。確かにそうだわ」
「気付いてなかったんですか?」
「言葉のイメージだけで反発してた。でも確かに、そうだわね。
よし、今から戻って『あたしは囲い者です』って言ってこなきゃ」
「いや、そこまでする内容じゃないと思うが」
◇◆◇ ◆◇◆
そして王都の少々上級な宿を取りそれから一ヶ月間の拠点とした。
俺は翌日から近衛騎士の訓練に参加させてもらい、剣術や礼法を一から叩き込まれ、とはいえ学ぶ剣術は騎士剣術であり刀術ではない為、刀術に関して素振りなどで自主練することになった。
シェイラは銅札冒険者として依頼を請け、宿代に相当する収入を得ていた。
シンディは自分の工房の素案を作りながら日本語の勉強をしている。工房は、騎士寮に住むことになる以上、与えられた寮の位置や大きさを確認してからでないと、作れないのだ。
リリスは……、時々消え、時々宿の床で溶けている(比喩ではなく。いや確かに暑いけど)。どこで何をしているのか、とか、何を考えて溶けているのか、とか、想像したくもない。ショゴスの生態観察など、正気の沙汰ではないだろう。宿にいる都合上、リリスと共にいる時間が長いシンディのSAN値の残量が心配だ。
◇◆◇ ◆◇◆
そんな日々を過ごしているうちに、すぐに秋の三の月がやってくる。
(2,993文字:2015/12/14初稿 2016/09/01投稿予約 2016/10/31 03:00掲載予定)
・ 「セレストグロウン(celeste-grown)」:celestial(英語)で「天上界の」という意味。celeste(スペイン語)=天上の、ひいては天使の住処、という意味。grownは「~で育った」という意味。つまり、celeste-grownで「天上界で育った」或いは「セラの下で育った」という意味に(無理やりですが)なります。




