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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第四章:「見習い騎士は気象学者!?」
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第18話 出立

第03節 戦後処理〔7/7〕

「シンディを連れて行ってくれないか?」


 リック親父がそう言った時、俺は先日の冗談の続きだと考えた。


「親父、その冗談は終わった(はず)だが?」

「冗談ではなく、本気の話だ」

「……どういうことだ?」

勿論(もちろん)、騎士となられる御身(おんみ)(もら)ってくださると(おお)せでしたら、正妻などという贅沢(ぜいたく)は申しません。側室の末席にでも加えていただけるのなら望外の幸せ。


 だが、お前に――少なくとも今は――そのつもりはないことは、もうわかっている。

 だから――少なくとも今は――そんなことは望まない」

「……なんか引っかかる言い方だが、だとしたら?」

「お前の専属鍛冶師として、シンディを連れて行ってほしい。

 お前は今後、王都に(きょ)を移すことになる。ハティスなどという田舎(いなか)には、立ち寄らないようになるだろう。

 だから、シンディを連れて行ってほしい。お前が(もたら)した技術と知識を受け止められたシンディを。

 お前にとっては、また懇意(こんい)の鍛冶師を探す手間を(はぶ)けるという点で有利に働くだろう。

 シンディにとっては、お前の近くにいることで、新しい知識に触れることが出来る。それはシンディのみならず、この国の鍛冶師全体にとっての福音(ふくいん)となる」

「そういうこと、か。


 シンディさんは、それで良いの?」

「アレク君が求めてくれるんなら、王都にだって行けるし、アレク君のお(めかけ)さんにだってなれるよ? シェイラちゃんはまだ子供だから出来ないことでも、あたしなら受け止めてあげられるし」

「なんか、肉食獣に狙われ(ロックオンされ)ているような気がするんですが」

「大丈夫。『逃がしてたまるか(たま)輿(こし)』なんて思ってないから」


 思ってる。全力で狙ってるよこの(ひと)


「だけど、俺には多くの秘密がある。

 今までは“贔屓(ひいき)の鍛冶師”としての付き合いだったから、当たり(さわ)りのない部分だけしか見せなかったけど、家族になるのなら、かなり厳重な守秘(しゅひ)を求めるよ。それでも良い?」

「もしそうするのがアレク君にとっての安心に(つな)がるのなら、奴隷契約を交わしても構わないわ」


「親父! アンタの娘さんがとんでもないことを言っているぞ!」

「『親父(オヤジ)』ではなく『義父(おやじ)』と呼べ。

 ……お前に多くの秘密があることなど、ちょっと付き合いのある奴なら皆知っているぞ。

 家族になるのなら、それを守ることも求められよう。

 だから、そんなことはもう、とうの昔に話し合っておる。

 お前の信頼を得られるのなら、奴隷になることも一つの答えだろう」


「わかった。奴隷契約は必要ない。秘密だって、本当は秘密にする必要は無いんだ。ただ伏せておかないと、周りが(うるさ)くなるからね。

 だけど、親父……ぢゃなく義父(おやじ)さんに一方的に言われるんじゃ、俺の面目(メンツ)も立たない。

 だから、言わせてほしい。


 シンディさん、俺と一緒に王都まで来てください。

 嫁にする、とは言えません。一番だ、とも言いません。

 けど一緒に来てくれるのなら、俺の出来る限りのやり方で、シンディさんを幸せにしてみせます」

「はい。不束(ふつつか)者ですが、末永く宜しくお願いします」


「そうすると、結納(ゆいのう)金代わりに義父(おやじ)には何を用意しよう?

 一応、神聖鉄(ヒヒイロカネ)神聖金剛石(アダマンタイト)は軽く一抱えくらいあるけど」

()めろ。(ぶん)不相応過ぎて扱いに困る。

 ……お前からはもう、たくさんのモノを貰っている。返しきれない程の恩もある。

 お前から貰ったモノの対価としては、シンディ一人の身柄(みがら)でも到底足りないだろう。

 この上結納だなんだと言われたら、二度とお前と対等の付き合いが出来なくなる」

「それじゃぁ俺の気が済まないよ。

 ならこうしよう。王都に着いたら、シンディに刀を一振り打ってもらう。

 ヒヒイロカネの刀だ。

 それを贈ろう。

 アンタがいつか、ヒヒイロカネに頼らずに、同等の刀を打てるように」

「そういうことなら、(よろこ)んで受け取ろう」


◇◆◇ ◆◇◆


 【リックの武具店】を出て、次は冒険者ギルドに向かった。


「ギルマスはいますか?」

「はい、アレクさん。(いえ)、アレク卿。すぐに呼んでまいります」


 ……「卿」の称号って、名じゃなく(せい)に付けるものだったと思うけど。


(いや)、俺が行くよ。執務室で良いんだよね?」

「そんな。騎士様(みずか)らにご足労(そくろう)願う訳には……」

「かといって立ち話も何でしょ? 向こうの方が落ち着くから」

「わ……、わかりました。ご案内致します」

「あのね、叙爵されても人が変わる訳じゃないんだよ。

 俺は冒険者としてここにいる。なら、冒険者として扱ってくれなきゃね」

「ですが……」

「騎士として、ハティスの冒険者ギルドのギルドマスターに用があるのなら、相応(そうおう)の手続きを踏むよ。身ひとつで来たりはしない。そういうもんでしょ?」

「……(かしこ)まりました。

 マスターは執務室においでです」

「有り難う」


 そんなこんなでギルマスの執務室に入り。


「ついに叙爵だな」

「あぁ。ギルマスに事前に教えてもらっていたから、心の準備が出来た。

 助かったよ」

「そんなこと。で、冒険者資格は返上するか? どう考えても、冒険者としての立場より騎士爵の立場の方が良いからな」

「いや、残しておきたい。

 冒険者としての俺は、俺の原点だからな」

「そうか。ならこれを王都のギルドに持っていけ」


 ギルマスはそう言って一通の書状を差し出した。


「これは?」

「紹介状だ。お前たちの籍を王都に移す」

「ハティスのままじゃ、(まず)いのか?」

「ああ、拙い。ハティスでは、現役騎士の冒険者を受け入れる余地がない。

 だが王都なら、貧乏騎士が小遣(こづか)い稼ぎに冒険者をすることもあるからな。向こうも対応の仕方を知っている」

「そんなことを気にする必要は無い、って言いたいけど、そういう訳にもいかないのか。

 騎士の爵位を持ち、王都に居を構えていながら、王都のギルドに籍を置かず別の街のギルドに所属して、王都のギルドから仕事を請けたら、俺――という貴族――が王都のギルドに何か含むところがある、と周りから思われてしまうんだな」

「そういうとこだ」

「わかった。これは有り難く頂戴する」

「すぐに、出立(しゅったつ)するのか?」

「準備が終わったらな」

「そうか。お前ならどこでも変わらずやっていけるだろう。健闘を祈っているぞ」

「感謝するよ」


◇◆◇ ◆◇◆


 そして俺は、商人ギルドでも同じように紹介状を受け取り(セラさんの許しを得て、商人としての名義は【セラの孤児院】のままとした。ちなみに王都の商人ギルドの信用ランクはSなので、信用レートは1.00。結果、俺の為替(かわせ)の交換レートは0.90になる)、更に馬車を()く馬を購入した。見栄えの為に四頭立てが良いと言われたので、押し切られた。


 孤児院に帰ってから、皆に叙爵の話をして、準備が整い次第出立することを告げた。

 同時にシンディさんが同行することを話したら、シアが物凄(ものすご)く悔しがっていたことを付記しておく。


 そしてついに、俺たちの上京の日がやってきた。

(2,989文字:2015/12/13初稿 2016/09/01投稿予約 2016/10/27 03:00掲載 2016/10/27誤字修正 2016/10/27後書きに付言)

・ アリシアは、別にアレクに恋をしている訳ではありません。出会った男の中では一番、という程度には想っていますが。アリシアにとっての優先順位の一番はセラなので、どんなに良い男でも、一緒にセラを支え孤児院を守ってくれる男でなければ対象外なのです。

・ この世界の結婚は、基本的に家同士の繋がり(政略結婚)であり、一方離婚という風習はありません。その為、結婚する場合はそれを周囲に喧伝する必要があり、なるべく盛大に式を挙げる(外堀を埋める)のです。逆に、恋愛結婚の場合は式を挙げる必要も無く、同棲しているうちに周囲が認知する(許されない結婚なら連れ戻されるだけ)、ということになります。

・ 貴族は継嗣を残す為一夫多妻が奨励されますが、平民はそれぞれの在り方に拠ります。ただこの世界の「社会」の最小単位は『家族』であって『夫婦』ではないので、同年代の男女が一緒に暮らしていたら、男女一対でなくとも『家族』と認知されます。その意味で、二人っきりで丸二年旅をしていたアレクとシェイラは、関係者からは既に夫婦と看做されており(「ご主人様と奴隷」、と捉えている人はハティスには殆どいない)、それに加わったリリスもアレクの二人目の奥さん、と認知されています。

・ 感想欄で指摘されるまで気付かなかったのですが。「卿」(Sir)の称号は、正しくは姓ではなく名に付けます。が作中世界では貴族爵位の総称として「卿」を、家名に付けるものとさせてください。

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