第17話 叙勲の詔
第03節 戦後処理〔6/7〕
はっきり言って、電撃魔法の開発は失敗に終わったといえる。
原因は簡単だ。電気に拘り過ぎ、結果迂遠になったということだ。
つまり、電撃魔法は
魔力>>>電力>>>運動力(攻撃力)
という変換過程を経て攻撃力となるが、ならどう考えても
魔力>>>運動力(攻撃力)
の方が早い。無属性魔法が属性魔法より圧倒的に優位に立つ点が正にそう。
なのに、無属性魔法の利点を捨てて、「電気」という属性を与えることに、メリットは(それが「電気である」ということに付随するメリット――例えばスタン効果――を除いて)無い。
では、民生用の魔法は如何だろう?
実は、電気信号(ON/OFFで情報を送達する)は現状でも可能だが、魔法により発電する以上術者(つまり俺)がそこにいなければ使用は出来ない。とはいえ二進法信号が存在しないこの世界では、光信号(モールス信号等)で充分代用出来、電気に拘る必要性が無い。
他にも、白熱電球は簡単に作れる。だが問題は、発電が出来ても蓄電が出来ず、またコンデンサもない為電圧を平滑化させることも出来ない。つまり、発電所から直接照明に電線を繋ぐことになる。無意味とまではいわないが(発電側で電力量を制御することはおそらく可能)、かなり大規模な使い捨てシステムになりそうだ。
その一方で、蓄電システムは現在、二案ある。「フライホイール」と「電磁石」だ。
フライホイールは、要するに電気エネルギーを運動エネルギーに変換することで保存するシステムだが、平成日本の技術を以てしてもその回生量は10~20%に留まる。
一方で電磁石は、電力を磁力に変換しておくことで保存する方法。考えてみれば落雷実験までして行ったのは正しく落雷のエネルギーを磁力として保存する方法そのものだ。欠点は、電力への再変換に時間がかかるということか。
なら電気の民生化は、普通に水力発電などの、魔法に頼らない方法で行うのが良いだろう。
けどそれはそうとして、強力な磁石を作れた以上、(それこそ理科の実験レベルで)発電が出来る。あくまでもコンデンサの役割を魔法で代用すれば、mAレベルの電力を定格供給出来るのでは?
そして俺は、その為の強い味方がある。
電気工学が専門(但し大学中退)だった、入間史郎氏の鞄。その中身のひとつ、「多機能テスター」。
実は、この鞄の中身の電気製品は、スマホ以外は全てバッテリーが残っていた(タギが施した〔状態保存〕の魔法の効果)。だが、残量が0になっても充電出来ないので、触れないでいたのだ。
だがこれで。
銀ワイヤーで筒を作り(但しワイヤー同士が接触しないように間隔を開け)、テスターを当てる。
そして磁石をその筒の内側に置き、無属性魔法Lv.6【磁界誘導】派生01.〔発電〕を慎重に発動させる。慎重に、電力量を調整し、5V・500mAで安定させる。
これをLv.6【磁界誘導】派生03.〔蓄電整流〕(ちなみに派生02.は〔電撃線〕)として定義する。あとは各電子機器の定格電力を確認すれば、入間氏の遺産が生き返る(テスターがソーラー充電式だったのは助かった)。
彼のPCに、どれだけの知識が眠っているか。とても興味がある。
◇◆◇ ◆◇◆
そんな風に新しい魔法で遊んでいると、孤児院に町長からの使者が来た。俺に町長の屋敷まで来るように、とのことだった。
「わざわざご足労頂き申し訳ありません」
「……町長、一体何の冗談ですか?」
「いえ、今後のことを考えると、早いうちから立場を明確にしておいたほうが宜しいかと存じまして」
「用件が何なのか想像が付いたけど、これまで通りにしてくださると助かります」
全く、この人は。
初めて会った時の狸親父ぶりが懐かしくもある。
「では、普段はそのように。
冒険者アレク。貴方の騎士爵叙爵の詔が発せられました。つきましては、これから王都に向かっていただきます」
「これから、って、今すぐ?」
「流石にそんなことは申しませんよ。叙爵式は秋の三の月の朔。今は夏の三の月ですから、今月中に出発出来れば充分間に合います。
ただ陛下への謁見などを考えると、礼服を仕立てる必要があります。
ハティスで仕立てるのならすぐにでも、王都で仕立てるのならその時間を見繕う必要がありますね」
「【ミラの店】に行って相談するのが先ですね。あとのことも色々考えておく必要があるし」
「そうですね。
もし宜しければ、私の日程もアレク君に合わせますよ?」
「え? 町長も王都に行くんですか?」
「私も男爵に陞爵することになりましたから」
「それは、おめでとうございます」
「いえいえ、君のお零れですよ。
陞爵の理由とされる功績は、先の戦争に関する情報提供と補給の確保、だというのですからね」
「そ……、それは――」
フォロー出来ない。確かに公的には町長の功績だけど、それを否定するつもりもないけど、他ならぬ俺が『町長自身の人徳だ』なんて言っても空々しいだけだ。
取り敢えずスケジュールの調整は後日、ということにして、逃げるように屋敷を辞することにした。
◇◆◇ ◆◇◆
帰りに【ミラの店】に寄り、事の次第を話して仕立てを依頼したところ。
「……ごめんなさい。請けたい話ではあるんだけれど、うちの意匠じゃぁ王都でアレク君が笑いものになってしまうかもしれないわ。
向こうの仕立屋に紹介状を書くから、それで赦して」
「それは構いませんけど、っていうか、ミラさんのデザインで笑われるのなら、笑った奴をぶん殴りますよ」
「そういう訳にはいかないでしょう? それにその場合、アレク君が怒ってくれるのは嬉しいけど、それで私のデザインが笑われたという事実が消える訳じゃないわ。
いつか私のデザインで、王都の流行を作りたいという夢はあるけど、こんな形で――国王陛下の面前で――私のデザインが王都の貴族様がたに否定されるかもしれないなんていうのは、流石に怖すぎる。そんなことになったら立ち直れないわ。
だから、ごめんなさい」
◇◆◇ ◆◇◆
ミラさんに仕立てを拒否されたことで、俺は早めに王都入りする必要に迫られた。
町長にもその旨を話し、準備が整い次第出立することで合意した。
道中の物資の調達と関係者への挨拶と、そして俺たちの武具のメンテナンス。
すべきことは多く、時間は足りない。
物資の調達はシェイラに任せ、俺はまず武具の補修を依頼しに【リックの武具店】に行った。
「親父、邪魔するぜ」
「アレクか。話は聞いた。ついに叙爵だそうだな」
「あぁ。そういう訳で街を離れることになるから、剣や槍を一通り補修してほしい。苦無や鉄串の補給も頼みたい」
「それは構わないが、俺の方からもお前に頼みがある」
「なんだ?」
「シンディを連れて行ってくれないか?」
(2,967文字:2015/12/13初稿 2016/09/01投稿予約 2016/10/25 03:00掲載予定 2016/10/21コイル巻きに関する記述を修正)
【注:フライホイールに関しては、〔加藤修平著『フライホイール付誘導電動機による電力システムの停電保護と安定化に関する研究』第2章「フライホイールによるエネルギー貯蔵」東京工業大学大学院総合理工学研究科平成20年度学位論文〕(http://tdl.libra.titech.ac.jp/hkshi/xc/contents/pdf/30012478X/4)を参照しています】
・ ハティス町長がアレクに遜った物言いをしていますが、騎士爵は準男爵より上ですが男爵より下です。ただ騎士には高位貴族の子弟が多いので、男爵は下に見られがち、というだけです。
・ 第15話掲載直後に、絶縁していない導線を使ってのコイル巻きは意味がないとの指摘を感想欄で受け、慌てて今話に加筆修正。作中世界の技術で信頼出来る絶縁体を見出せなかったので、空気に頼りました。




