第78話「帰って来た駐在さん」
「本官、犬の頃から……」
「犬の頃から?」
「刑事ドラマを見たりしたであります」
「だから?」
「本官、本物をぶっぱなして……撃ってみたいであります」
レジにはわたしと店長さんです。
「お客さん、いませんね」
「ポンちゃん、嫌な事言うね」
「思うんですけど……」
「何? ポンちゃん?」
「お客の多い時と少ない時のギャップが……」
「そ、そうだね」
店長さん、ぼんやりと天井を見上げて、
「ずっと前からそんな感じかな……のんびりやった方がいいのかも」
「店長さん、そんな事言ってていいんですか?」
「そうそう……村長さんが暇な時でいいから学校の用務員やらないかって」
「用務員さん?」
「校庭の草むしりとか、そんなのかな」
「店長さん、パン作り忙しいんじゃないんです?」
「ちょっとならいいかなぁ~ってね」
「草むしり……校庭広いですよ……きっと子供の相手もさせられます」
「うう……でも、村長さんのお願いで『NO』は言いにくい」
「そ、それはあるかも……」
って、わたしと店長さん、窓の外、駐車場を見ます。
空き缶が並んでいて、シロちゃんが射撃訓練中なの。
そんなシロちゃんの隣にコンちゃんが立って、さっきから頷いてます。
なに話してるんでしょう?
シロちゃん、素早く連射。
弾ける空き缶。
すぐにシロちゃん、コンちゃんに向き直ります。
コンちゃん渋い顔でシロちゃんの銀玉鉄砲に手をかざしました。
「店長さん、なにかやってますね」
「うん……なんだろ?」
シロちゃん、「チャッ」って感じで銀玉鉄砲構えました。
ズギューン!
す、すごい音がしましたよ。
本物の拳銃っぽい音でした。
シロちゃんの腕も反動で上がってます。
わたしも店長さんもびっくりして飛び出します。
店長さん、すかさずコンちゃんにチョップ。
「コラッ! 本物の拳銃にしたらダメだろっ!」
「むう、店長、よく見るのじゃ!」
「?」
わたしと店長さん、弾けた空き缶を見ます。
別に大穴開いたりはしてません。
他の銀玉で弾けた空き缶と一緒。
シロちゃんすまなさそうな顔で、
「本官がお願いしたであります」
「なにをお願いしたの?」
「反動とか音だけでいいので本物っぽくしてもらったであります」
「……」
シロちゃん、銀玉鉄砲を構えます。
まだ残っている立った空き缶狙って発射。
ズキューン!
でも、空き缶軽く弾け飛ぶだけです。
コンちゃん、シロちゃんの手から銀玉鉄砲を奪って、
「音と反動だけリアルにしたのじゃ!」
って、銀玉鉄砲わたしに向けて発射!
ズキューン!
わたしの胸で弾ける銀玉。
確かに銀玉なんだけど……音と銃の跳ね上がるのを見てると嫌な感じ。
「人に向けて撃ったらダメなんですよ」
「豆タヌキのくせに」
「今は人間なんです!」
店長さん、口をへの字にして、
「でも、物騒だからその術はなし……シロちゃんも変な事言うね」
「本官、犬の頃から……」
「犬の頃から?」
「刑事ドラマを見たりしたであります」
「だから?」
「本官、本物をぶっぱなして……撃ってみたいであります」
今「ぶっぱなして」って言いましたね。
シロちゃん、愛想笑いを浮かべながら、
「快感と思うでありますよ」
セーラー服となんとやら……でしょうか。
シロちゃんも困ったもんです。
って、駐車場で話していると、パトカーがやってきました。
ま、まさか今の発砲音でやってきたとか?
パトカーが止まって、出てきたのはおじいちゃん。
「ご主人さまっ!」
シロちゃん、固まってます。
わたし、出てきたおじいちゃん、どこかで会ったような気がするけど……
なかなか思い出せません……
えーっと……コンちゃんにテレパシーえいっ!
『コンちゃん、知ってますか?』
『ふむ、駐在じゃ、ぽんた王国の時にいろいろあったのじゃ』
『駐在さんですか~』
って、駐在さん、シロちゃんのしっぽを見て微笑んでいます。
こっちに来ましたよ。
コンちゃんになにか包みを渡しながら、
「お土産のさつまあげです」
「うむ、土産持参とはわかっておるのう」
駐在さん、コンちゃんのしっぽを見、わたしのしっぽを見、
「シロにもびっくりしましたが……」
「ぽんた王国もみなタヌキであったろう」
「ですね」
駐在さん、頷きながら、
「例の談合事件は解決したので、また村に駐在として赴任する事になりました」
「うむ、精を出して勤めるがよい……して」
「?」
「解決と言うたが、ゴットファーザーは捕まったのかの?」
「それは本部にお任せです」
「解決と言うてよいのかのう」
「私の任務は終ったのです」
「ふむ」
挨拶終って車に戻る駐在さん。
そんな駐在さんにシロちゃん、改めて話しかけています。
なにを話しているのかな……駐在さん、車に乗って行っちゃいました。
シロちゃん、走ってやって来ます。
「ポンちゃん、コンちゃん、店長さん!」
「どうしたの、シロちゃん?」
「ご主人さまが、駐在さんが帰ってきました!」
「うん」
「本官も帰るであります!」
わたしびっくり、コンちゃんも一瞬目を見開きました。
でも……ご主人さまが帰って来たんだから、それがいいのかもしれません。
「お別れです……でも、駐在所で会えます!」
シロちゃん、言うと行っちゃいました。
ご主人さまが帰ってきて嬉しいのか、しっぽ振りまくりなの。
「ああ、シロちゃん、行っちゃった」
「駐在所で会えるのじゃ」
コンちゃんはなんともないみたい。
って、震えているのは店長さん。
「シ、シロちゃん、行っちゃった……」
「て、店長さん、まさかシロちゃんのこと、好きだったとか!」
「最近ようやく仕事も板についてきて、いい感じだったから」
「そっちですか……それならわたしが頑張ります!」
「ポンちゃん、頼むよ~」
わたしと店長さん、コンちゃんにジト目向けます。
コンちゃん、ムッとした顔で、
「なんじゃ、わらわが仕事をせんような目をしおって」
「しないよね」
わたしと店長さん、一緒です、すごいハモり。
コンちゃん、プイっとそっぽ向いて、
「わらわ、今日は仕事をする気無くしたのじゃ」
ほーら、言い出しました。
最初っから、働く気なんかなかったんです。
誰もいないお店でしたが、乗合バスが行った後で一人来ました。
帽子に髭の男の人です。
タバコの匂いのする服でお店の中を一回りするとレジに来て、
「中で食べれるのか?」
「はい、空いてるお席でどうぞ」
「コーヒー頼めるか?」
「はい、お席にお持ちします」
わたし、パンとコーヒーの代金を受け取ります。
って、奥からミコちゃんが出てきました。
テーブルでボンヤリしていたコンちゃんもレジに来ます。
帽子男は店の一番隅の席に腰を下ろしました。
わたしの横でミコちゃんが小声で、
『ポンちゃん、あのお客さんは?』
『さあ……コーヒー注文しました』
わたしが言うと、ミコちゃんコーヒーを淹れ始めます。
今度はコンちゃんがわたしを肘でつつきながら、
『ポン、おぬしは腑抜けか?』
『は?』
『ポン、感じぬのか?』
『タバコの匂いの事?』
『ちがうっ!』
コンちゃんミコちゃんハモって言います。
『二人ともなんですか!』
コンちゃん、わたしをにらみながら、
『あやつ、危険なニオイがするのじゃ』
『コンちゃんタバコのニオイが嫌いなんだよね?』
『雰囲気じゃ、雰囲気……あやつきっと人殺しじゃ』
「ま、まさか~」
あ、ついつい声が大きくなっちゃいました。
帽子男がこっちを見てます。
ちょっと視線……こわいかも。
ミコちゃんがコーヒーをマグカップに注ぎながら、
『私も感じるわ……』
『ミコちゃんまで……だとしたら、どうしろと?』
って、わたしの意見に二人とも固まっちゃいました。
わたし、マグカップをトレイに載せて帽子男のテーブルへ。
「お待たせしました~」
「ありがとう」
「!!」
って、マグカップに手を伸ばした瞬間、ジャケットの下に銃が!
帽子男、わたしを鋭い目で見つめています。
わたし、こわくて震えるだけなの。
帽子男はコーヒーを一口。
「あんたは……ぽんた王国で給仕をしていた……」
「ななななんで知ってるんですかっ?」
「仕事でね」
「ししし仕事ってなんですかっ!」
「俺はぽんた王国と警察の人間を始末する為に雇われた……で、わかるな」
「わわわわたしを殺しに来たんですかっ!」
「ぽんた王国はなくなった……もう殺る必要はない」
「よ、よかった~」
わたしは殺されないで済みました。
「って、殺し屋さんがなんで村にいるんですかっ!」
「……」
「もしかしたら、ポン太やポン吉を殺しに来たんですかっ!」
って、言ったら帽子男は写真を出します。
ポン太にポン吉、長老、それにわたしの写真。
「土産物屋ぽんた王国がなくなれば、関係者の始末なんてどうでもいいのさ」
「じゃ、帰ってくださいっ!」
「ふふ……この男がいるだろう」
って、また一枚写真が出てきました。
「あ……駐在さんだ」
「そう……この男を殺るように依頼されてる」
「それでこの村に……」
「この男は警察の人間……ぽんた王国の関係者と違って殺す(けす)のが依頼」
「……」
わたし、ようやくコンちゃんやミコちゃんの言っている意味、わかってきました。
この帽子男からは、ただならぬオーラみたいなのが感じられます。
きっと銃の腕前、すごいはずですよ、見た事ないけど。
駐在さんがピンチなの、なんとか知らせないといけないんだけど……
窓の外にはシロちゃんと駐在さんが仲良くやって来るのが見えます。
タイミング悪すぎ。
帽子男も気付いたのか、席を立って店を出ます。
わたし・コンちゃん・ミコちゃんもドアの所で様子を見守るの。
帽子男、口元をニヤつかせながら、
「組織の依頼だ、命を頂くぜ」
駐在さんは……ニコニコしてます。
シロちゃんはびっくりした顔でいつでも銃……っても銀玉なんだけど……抜けるような態勢です。
「何者でありますかっ!」
「ふん、婦警がいるとは聞いてないが……邪魔をするなら女でも殺す」
「こっちもであります」
「……」
「駐在さんを殺させるわけにはいかないであります」
「俺を止める事ができるかな?」
「本官も腕には自信あるであります」
うわ、シロちゃん、やる気満々。
でも……ですね……わたし、コンちゃんにテレパシー。
『ねぇねぇ、大変な事になっちゃいましたよ』
『わらわもわかっておる』
『だってシロちゃんの銃はおもちゃ』
『その通りじゃ』
『いまさらやめられなさそう』
『むう……ここはわらわのゴットシールドで…』
って、テレパシーの最中に決闘開始!
帽子男とシロちゃん、抜くの同時です。
ズギューン!
バキューン!
ドキューン!
うわ、わたしが見てもシロちゃんは「早すぎ」。
銃口上がる前に発射音ですよ。
リアルな発射音はコンちゃんの術が残っててみたい。
「あ!」
早く撃ったのは、さっきの射撃練習の空き缶を狙ってです。
空き缶弾けて宙を舞います。
「もらったであります!」
「こざかしいっ!」
今度は二人とも、銃口を向けてます。
ズギューン!
二人の間で銃声。
「シロちゃんっ!」
わたしたちの見てる前で、シロちゃんの頬に横一直線に血。
帽子男は微動だにしません。
「シロちゃんっ!」
でも、ガックリ肩を落としたの、帽子男です。
どうしたのかな?
よーく見ると帽子男の額にペイント弾が弾けてます。
ともかくシロちゃんの所に行きましょう。
「大丈夫? ほっぺ、切れてるよ!」
ミコちゃんが術で治療してくれます。
「ポンちゃん、本官無事であります」
「本物の拳銃と決闘するなんて無茶だよ!」
「ふふ、勝ったでありますよ」
って、コンちゃんもムッとした顔でシロちゃんにチョップ。
「まったく心配させおって」
「コンちゃん、申し訳ないであります……でも……」
「でも……なんじゃ?」
「本官、負ける気はしなかったであります」
わたし、びっくりです。
「シロちゃん、最初から勝つ気だったの?」
「この銀玉鉄砲はコンちゃんから貰ったものであります、神さまの贈り物」
「これ、シロ、それだけではあるめい」
「銀玉鉄砲で人は死なないであります、引き金を引くのに躊躇なしであります」
撃ちたがりミニスカポリス、ちょっとはそーいったところを気にしてるみたい。
帽子男、ゆっくりとやって来ます。
コンちゃん、厳しい顔でゴットシールドを発動……しようとしたらシロちゃんが止めました。
「シロ、何故止めるのじゃ」
「大丈夫でありますよ、勝負はついたであります」
帽子男、疲れた感じの笑みを浮かべて、
「こんな小娘にやられるとは……俺も焼きが回ったかな」
「銀玉鉄砲は軽いでありますから」
「ふふ……おもちゃの拳銃にやられるとは……」
「本官が勝負に勝ったので、駐在さんを狙わないでありますか?」
帽子男、神妙な顔をして……でも、ニヤリとすると、
「まずスゴ腕のミニスカポリスを倒してから……だな」
「再戦はその気になったら受けるであります」
帽子男の挑戦状にシロちゃんはウィンクで返します。
お店には帽子男がニヤニヤしながら座っています。
わたし、コーヒー持って行くついでに聞いちゃうの。
「あの……どうしたんです?」
「……」
帽子男さん、わたしのしっぽを見てから、別のテーブルでボンヤリしているコンちゃんのしっぽも確かめます。
「さっきのミニスカポリスもしっぽあったなぁ~」
「シロちゃんは警察の犬ですから」
「あんたはタヌキであっちはキツネ?」
「わたしの事はポンちゃんでいいですよ」
「ポンちゃん……そうか、よろしくな」
「帽子男さん、どうしたんです、ニヤニヤしてうれしそう」
「いや、あのミニスカポリス……シロちゃんってのかな」
「はい」
「なかなかの腕だった……いや、俺が負けたんだがな」
「負けたのにうれしそう」
「そうだな……好敵手を見つけたって感じなのかな」
「負けたのに?」
「負けてもだ……うん」
帽子男さん、窓の外を眺めながら、
「しかし、どうしたもんかな……」
「どうしたんです?」
「あのシロちゃんってヤツに勝つまでは、次の仕事も出来ないし」
「人殺しはやめたらどうです?」
「……」
って、奥から店長さん出てきました。
帽子男さんの対面に座ると、
「学校の用務員の仕事があるんだけど……」
「よ、用務員……」
わたしと帽子男さん、ハモって言います。
今、人殺しですよ。
それが学校の用務員ってどーなんですか。
わたしと帽子男さんが唇歪めていると、店長さんニコニコして、
「村で働けば、シロちゃんといつでも勝負できる機会が」
「!!」
帽子男さん、もう決めた顔です。
わたし、店長さんを肘でつつきます。
『しょ、小学校にヒットマンを、殺し屋を!』
店長さん、愛想笑いしながら、
『化けタヌキに雌狐も配達に行ってるし~』
『怒りますよ!』
『まぁ、なんとなく悪い人でもなさそうだしね』
『そ、それは……どうなんでしょうね』
『それに学校の用務員、きっといそがしくて人殺しなんかしてる暇ないよ』
わたし、配達を思い浮かべます。
そーですね、子供の相手してたら、それどころじゃないですね。
きっと帽子男さん、毎日疲れ果てちゃうの確実なんだから。
朝が来ました。
「おはよう、店長さん、ミコちゃん」
パン工房では店長さんがパンを、ミコちゃんが和菓子を作ってます。
店長さん、一段落したみたいで、
「今日は一緒にほこら掃除しようか」
「は~い」
って、なんだかさみしい朝です。
レッドが起しに来ない……とかじゃないの。
朝、いつも見る顔がいない……シロちゃんがいない。
急に実感しちゃいました。
「ねぇねぇ、店長さん」
「なに、ポンちゃん?」
「シロちゃん、いなくなっちゃいましたね」
「そうだね……朝いないと、ちょっとさみしいかな」
「ふふ……最初は居候増えて嫌そうだったのに」
「結婚を迫るタヌキはいらないかな」
「怒りますよ! モウ!」
「でも、シロちゃんとは駐在所やパトロールの時に……」
って、店長さん言葉が止まって、足も止まりました。
なにかな……って、お店のドアの前にダンボール。
中には体育座りでシロちゃんが眠りこけていますよ。
わたしと店長さん、そっとお店を出て、そんなシロちゃんを見ます。
ダンボールには「もらってください」。
店長さん、引きつった笑みで、
「ちゅ、駐在さんに押し付けられたのかな?」
「手紙みたいなの、ありますよ」
わたし、そっと手を伸ばして手紙を取ります。
中を見て……納得しました。
シロをよろしくおねがいします。
ここに置いておくと、本物の銃を撃ちたがって危険なので。
「店長さん、どうします」
「村の平和のために預かるとしよう」
「居候、増えますよ」
「元に戻るだけだし……」
「だけだし?」
「結婚迫るタヌキよりマシ」
えいっ!
いつもより強めの肘鉄ですっ!
「体が欲してる……かな」
「そうなんだ……」
「はは……ポンちゃんも大人になったらわかるよ」
「むー……」
「店長さん、わたしを大人にしてみようとか……」




