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第77話「老人ホームの謎」

「では、いただきます……」

 職員さんの合図です。

 ここはとりあえずお食事優先。

「……の、前にお知らせです」

 って、なにかお話あるみたい。


 老人ホームに配達です。

 お昼のデザートに小さな大福を持って行くの。

 老人ホームでは村長さんとばったり。

「あら、ポンちゃん、ご一緒にどう?」

「お昼、ゴチになります」

「ふふ……でも、味が口に合う?」

「なんでです?」

「だって……老人ホームの食事は薄味だから」

「おいしいですよ~」

「ポンちゃんは……タヌキよね?」

「村長さん、嫌な事言いますね」

「?」

「今は人間なんです!」

「そ、そうね……その、タヌキって意味なんだけど……」

「なんですか?」

「ほら、動物は薄味がいいって言うじゃない」

「ああ、なんかそんなの、漫画で読んだ事があります」

「ポンちゃんの舌は、薄味がわかるくらい鋭いのかも」

「鋭い……どうでしょうね」

「あら、謙遜?」

 わたし、ちょっと愛想笑い。

「美味しいものに理屈はないんじゃないでしょうか」

「大人な発言ね!」

「えへへ~」

 さて、空いている席に座ると、挨拶待ちです。

「う……!」

 おいしい食事をいただいて帰る……そんなハッピーが一気に暗転です。

「あら、ポンちゃん!」

「ほ、保健の先生……こんな所でなにやってるんです?」

「そりゃ、昼をゴチになるのよ」

「えー!」

「ポンちゃんだって、ゴチになるんでしょ?」

「それはそーですけど……わたしはずっと前からなんです!」

「じゃ、先輩、よろしく~」

「……」

 わたし、先輩って言葉には弱いの。

 でも、保健の先生、口先だけでわたしの方、全然見てませんね。

「保健の先生は学校の先生ですよね」

「そうだけど、一応学校の保健の先生のアルバイトってとこかしら」

「本当はなんなんです?」

「大学の先生やってんだけど、退屈しのぎと小銭稼ぎでね」

「はぁ……」

「ここの事は……パン屋に来てた事もあるから知ってたしね」

「そうなんですか……で!」

「何、ポンちゃん?」

「本当に店長さんとなにもないんですか?」

「あって欲しい?」

「くくくっ!」

 保健の先生、わたしを見てニヤニヤ。

 わたしの直感では、店長さんと保健の先生は無関係。

 常連さんかもしれないけど、恋人とかじゃないでしょう。

 でも、保健の先生の言い方が「びみょー」なんですよね。

 それに保健の先生、結構美人さんな感じだし……

 すごい嫌な感じがするのが、コンちゃん以上に「雌狐感」強いの。

 さっきの「あって欲しい?」って台詞、すごい艶っぽい言い方だったし。

「では、いただきます……」

 職員さんの合図です。

 ここはとりあえずお食事優先。

「……の、前にお知らせです」

 って、なにかお話あるみたい。

 ふむふむ……聞いていると、おばあちゃんの一人が出て行っちゃうそーです。

 おばあちゃん、職員さんに呼ばれてみんなの前へ。

「あ、どら焼きのおばあちゃんだ」

「ポンちゃんの友達?」

「友達って……ここのおじいちゃん・おばあちゃんはみんなお友達ですが」

「そう」

「わたしに胸がなくても結婚できるって教えてくれた人です」

 って、保健の先生クスクス笑いながら、

「ど、どんな事を習ったの?」

「だから、胸がなくても結婚できるって話です」

「どら焼きのおばあちゃん……ってどーゆーネーミングかな~」

「おばあちゃんの胸もどら焼き級だったそーです、今は知らないけど」

「ポンちゃんの胸、どら焼き級なの?」

「ほっといてください」

「私からも言うけど……どら焼き級でもきっと大丈夫」

「え!」

「貧乳も、ちゃんと需要あんのよ!」

 力説する保健の先生。

 わたし、ため息ばかりです。

「そんなのおばあちゃんから習ったのと一緒です」

「なんだ、そうか~」

「でも、店長さんがどら焼き級が好きかどーかが、問題なんです」

「そ、それはそうね……」

 保健の先生、わたしをじっと見ながら、

「ポンちゃん、可愛いんだから、なんとかなるわよ」

「そう言ってもらえると……でも、店長さん全然なびきません」

「そ、そうなのね……」

「コンちゃんが胸を押し付けると赤くなるのに、わたしだと無反応」

「ねぇ、ポンちゃん……」

「なんですか?」

「あんた、裸、見せた事ある?」

「1話でとりあえず」

「1話って……最近は見せてないのよね?」

「あと8話とか……」

「一応は……頑張ってるのね」

「そうですね、コン村の3話以来ないような」

「初々しさや、清純さを押し出してアタックすればいいのよ」

「……」

「聞いてる?」

 わたし、肩を落としながら、

「今まで『ガンガン』やってたから、初々しさや清純さなんて無理」

「あー!」

 保健の先生、もう呆れて言葉なしです。

 だまってお昼をいただいたけど、なんだか味、しませんでした。


 そうそう、おばあちゃんが老人ホームを出て行っちゃうのでお見送りする事になりました。

 パン屋さんから誰か一人……結局わたしです。

 コンちゃんもミコちゃんもシロちゃんも、おばあちゃんの事は知っていたけど、わたしほど仲良く話しているわけでもなかったようです。

 まぁ、胸の相談するような貧乳はわたしだけですね、とほほ。

 老人ホームの玄関先でおばあちゃんが出て来るのを待っている間、保健の先生も来ていたのでついついお話しちゃいます。

「保健の先生は……お医者さんですよね」

「そうね、大学では医学部と工学部もってるわね」

「勉強、してるんですよね?」

「まぁ、勉強って言っていいのかわからなけど」

「胸、大きくする薬とかないですか?」

「もう、あきらめたら?」

「乙女にとっては大事な事なんです」

「乙女って……タヌキよね?」

「今は人間なんです!」

「豊胸手術ってあるけど、どう?」

「しゅ、手術は痛そうで……」

「胸、大きくなるわよ」

「手術なんて痛そうで嫌です……それに麻酔した隙に狸汁にする気でしょ」

「手術、こわいのね?」

「そーです、いいでしょ」

 ああ、おばあちゃん、出てきました。

 他の人達と握手して、お話しながら近付いて来ます。

 まず、保健の先生と握手してお話。

 それからわたしです。

「あら、ポンちゃん」

「おばあちゃん……行っちゃうの?」

「ふふ……元気になって出て行くんだよ」

「さみしくなります」

「そう言ってくれると、後ろ髪ひかれるねぇ」

 って、おばあちゃん、わたしの手をギュッと握るとブンブン上下して、

「って、ボランティアで来るつもりだから、お別れじゃないよ」

「そうなんだ!」

 おばあちゃん、村長さんのところに行っちゃいます。

 わたしの隣で保健の先生、おばあちゃんを見ながら、

「しっかし……私、初めて見たわよ」

「なにをですか?」

「老人ホームから卒業する人よ」

「?」

「ここ、老人ホームでしょ?」

「ですね、おじいちゃんおばあちゃんばっかり」

「体が不自由になったりして、ここに来てるのよ」

「車椅子の人とかいますもんね」

「普通、元気になって出て行く人……卒業する人なんていないのよ」

「え~、ウソでしょ?」

「本当よ……ポンちゃんは若いしタヌキだからわからないかな」

「なんですか?」

「怪我をしても、すぐ治ったりするでしょ?」

「ですね……野良でも怪我がすぐ治らないと危ないので」

「野良だったんだ……で、歳をとるとなかなか病気も治らないのよ」

「はぁ……そう言われれば……」

「それが不思議なのよね~」

「さっきからそればっかり」

「カルテを見ててびっくりなんだけど……ここのジジババ、みんな元気になってるのよ」

「それって……すごいんですか?」

「普通特老入ったら家に帰れないわよ」

「そ、そうなんですか……」

「さっきのばーちゃんも、入った時は車椅子だったみたいだし、それが今はシャンシャン歩いちゃってるわよ、どーなってんの」

 おばあちゃん元気になったのってすごい事らしいです。

 わたし……よくわからないけど……いろいろ考えてみますよ。

「あのー、保健の先生」

「なに、ポンちゃん」

「この村の空気がいいとか、ないですか?」

「空気が良くて元気になるんなら、ジジババみんな田舎に追放よ」

「むう……」

「そうだ……パン屋にコンちゃんいるじゃない、銀狐のコンちゃん」

「コンちゃんがどうしたんです?」

「あれって、神さまなんでしょ」

「えーっと、そうですね、神さま、お稲荷さま」

「コンちゃんのご利益じゃないの?」

「は? なに言ってるんです?」

「だってコンちゃん神さまなんでしょ」

 うー、保健の先生の言葉もごもっとも。

 でもですねー

 コンちゃんお店でダラダラしてるだけだし……

 最近は違うけど、スケスケ寝巻きだったし……

 あちこちにツケをこさえているし……

 わたし、コンちゃんのご利益じゃないって「確信」です。

 きっと「絶対」コンちゃんのご利益じゃない。

 とりあえず、こう言っておきましょう。

「コンちゃんはお稲荷さまだから、健康系ご利益じゃないですよ」

「それもそうねぇ」

「ミコちゃんかも」

「え……ミコちゃんってパン屋の黒髪の娘?」

「そーです、ミコちゃんも神さまで、本当の名前は『ひみこ』なんですよ」

「ひ、卑弥呼……そうなんだ」

 店長さんもそーだったけど、保健の先生もミコちゃんの本当の名前を聞くと顔色かわっちゃいます。

 どうしてかな?

「ポンちゃんの言う通りなら、ミコちゃんのご利益かも……」

「それに、温泉の神さまに会いましたか?」

「え……温泉にも神さまいるの!」

「ええ……温泉にも神さまいるんです、子煩悩の神さま」

「こ、この村はなんだかすごいわねぇ」

「えへへ」

「タヌキが人間になってるメルヘンビレッジって思ってたけど、何でもありだとさすがにびびると言うか……」

 車がクラクションを鳴らして出発します。

 おばあちゃん、窓を開けて手を振ってます。

 わたしと保健の先生も手を振って返すの。


 わたし、お店に帰ってその事をミコちゃんに話しました。

 ミコちゃん、小首を傾げて、

「ポンちゃんそんな事言ったの……」

「迷惑だった?」

「いいけど……私、別に術とか使ってないわ」

「そうなの」

「治癒の術はあるけど、老人ホームで使ってないわよ」

「でも、保健の先生、おじいちゃんおばあちゃんが元気になるのはすごいって言ってたよ」

「それは私も解るわ……でも、私じゃない」

 って、わたしとミコちゃん、一緒になってテーブルを枕に寝ているコンちゃん見ます。

「わたし……コンちゃんじゃないって思う」

「そうねえ……私もそう思うわ」

 じゃ、一体誰が……?

 も、もしかして、別に神さまがいるとか!


 って、お昼の老人ホームで村長さんに話したら、

「ああ、それ、わかってるのよ」

「え! 神さま別にいるとか!」

「神さまじゃないけど……」

「だ、誰なんですか?」

 わたし、すぐに思いつきました。

「レッドです、レッド、みんなにかわいがられていますっ!」

「レッドちゃんも一因だけど……」

「も、もしかしたらわたしとか?」

「ポンちゃんのしっぽモフモフもいいけど……」

「じゃあ、一体なんなんですか?」

「長老さんよ、長老さん」

「え……なんで?」

「長老さんのごはん、すごくおいしいでしょ」

「ええ……ミコちゃんにはかなわないと思うけど」

「長老さんのメニュー、おじいちゃん達残さずしっかり食べるのよ」

「……」

「みんなよく食べるから、元気になっていくみたいなの」

 ちょっと長老を見直しました。

 伊達に長生きしてるわけじゃないみたい。

 あ、長老出てきました。

「長老っ!」

「ポンちゃん、こんにちは」

「長老のごはんがおじいちゃんおばあちゃん達を元気にしてるって村長さんが言ってましたよ」

 長老、めずらしくてれてますよ。

 すぐにしみじみとした顔になって、

「その昔、卑弥呼さまに仕込まれましたから……」

「ミコちゃんの教えがよかったんですね」

「まだ、私は卑弥呼さまにかないません」

 そっかー!

 ミコちゃんのごはんを食べていたら、長生きできそうです。

「ま、まって……」

「どうしました、ポンちゃん?」

「ミコちゃんのごはんは無敵って事ですよね」

「そうなりますかな」

「て、店長さん、ミコちゃんのごはんで餌付けされてます!」

 ミコちゃんその気がなくても、店長さんの気持ちをつかんでいるかも!

「わ、わたし、料理教えてもらった方がいいのかな?」

「まぁ、男性は女性の手料理に弱いかもしれませんね」

「むー!」


 帽子に髭の男の人です。

 タバコの匂いのする服でお店の中を一回りするとレジに来て、

「中で食べれるのか?」

「はい、空いてるお席でどうぞ」

「コーヒー頼めるか?」


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