第76話「レッドは太公望」
「おかしいっ!」
ポン吉、釣り糸垂らして一分もしてないと思うんだけど、
「おかしいっ! 釣れないっ!」
「ちょっ……ポン吉、その台詞は早くないですか?」
「いや、この辺は入れ食いが普通なんだよ、誰も釣らないから警戒心ないから」
わたし、老人ホームの配達です。
ちょっと早く着いちゃったかな?
まだおやつの時間じゃないみたいです。
って、老人ホームの時計を見るけど……おやつの時間ですよ。
ちょうどいいところに熟女の村長さん登場。
「あのあの~」
「あ、ポンちゃん、配達おつかれさま」
「村長さん、おやつの時間のつもりで来たんですけど……」
「うん……それなんだけど……」
村長さんは学校の校長と老人ホームの所長さんもやってるんです。
って、学校と老人ホーム、役場はすぐ隣なんですけどね。
「それなんだけど……」
どうしたんでしょうね?
なにかな?
わたし、村長さんの視線の先を見ます。
おじいちゃん・おばあちゃん達、ゲームしてるみたい。
わたしもたまに仲間に入れてもらうんだけど……
今日のゲーム、すごい盛り上がってます。
本当、なにかな?
近付いて見てみると、みんな手になにか持ってます。
「竿?」
おじいちゃん・おばあちゃんの手に持っているのは細い竹ひご。
凧糸がついていて……釣竿みたいです。
わたし、近くのおばあちゃんの肩をゆすって、
「あのあの~」
「あら、ポンちゃん」
「おばあちゃん、これは? 釣り?」
「そうだよ、わかるかい?」
おじいちゃん・おばあちゃん達、竿を繰り出して床のお魚を狙います。
お魚……っても、箱なんかで作ったハリボテのお魚。
おばあちゃん、一匹の魚を狙って竿をフリフリ。
糸の先端が魚に当って……釣り上げました。
「おばあちゃん、すごいスゴイ!」
「ふふ、ポンちゃんもやってみるかい?」
「おばあちゃん、そのお魚、ちょっと見せて」
わたし、不思議で不思議でしょうがありません。
なんでハリボテのお魚が糸についちゃうの?
よーく見るけど、わかりません。
「振ってみるんだよ」
「え?」
言われたから振ってみます。
ハリボテの中には鈴と……なにか入ってるみたい。
「なんですか?」
「鈴と釘とか…磁石に付くのが入ってるんだよ」
「あ……じゃあ、糸の先には磁石がついてるんですね」
「そーだよ」
おばあちゃん、竿を振ってわたしの前に糸の先が来ます。
小さな磁石がついてますね。
「なるほど~、これでお魚、釣れるんですね」
「そうだよ」
「でも……」
わたし、糸の先を見るけど、すごい小さい豆つぶみたいな磁石。
「この磁石、小さくないです?」
「強い磁石だとつまらないだろう」
「?」
「簡単に釣れるとつまらないんだよ」
「そうなんですか~」
「私くらいには、ちょっと難しいくらいがいいんだよ」
おばあちゃんの話を聞いていると、レッドの声が耳に入って来ます。
レッドも今日のゲーム、一緒してるみたい。
「かかった~」
おお、レッド、大きなお魚、Hitです。
でも、強く引っ張ったから、お魚外れちゃいました。
「うわーん、にげられました」
悔しそうに何度も大物狙いますが、ことごとく外れます。
「そーっと」ってのがわからないんでしょうね。
あ、老人ホームの職員さんが別の釣り竿持って来ましたよ。
糸の先にはでっかい磁石がついてます。
レッド、今度は簡単に釣り上げました。
磁石が強力だから、もう外れたりしません。
「やったー!」
レッド、大喜び、よかったですね。
おじいちゃん、おばあちゃん達も拍手喝采です。
いつの間にか、みんなレッドに注目で、釣っているのはレッドだけ。
村長さん、拍手しながら、
「さ、お茶にしますよ~」
釣りゲームおしまいです。
ここからはわたしのお仕事ですね、頑張っておやつを配りますよ。
次の日……レッドは早めに帰ってきました。
「ただいま~」
「レッド、今日はまっすぐ帰ってきたんですね」
「は~い」
って、レッド、めずらしくしっぽモフモフじゃなくてスカート引っ張ります。
なにかな?
「ねぇねぇ、ポン姉~」
「なんですか?」
「きのう、じいちゃとつりしたよ」
「ああ、わたし、見てましたよ」
「おおものげっと」
「ふふ、楽しかったですか?」
「ほんもの、つりたし」
「はぁ?」
「ほんもの~」
わたし、お店のテーブルでボンヤリしているコンちゃんを見ます。
『何故わらわを見るのじゃ』
『わかってるくせに』
『ポンが釣りに連れて行けばよかろう』
『いいけど、わたしがいないとコンちゃんが店番だよ』
『むう……』
考え込むコンちゃん。
でも、タイミングよくシロちゃんがパトロールから戻ってきました。
今度はシロちゃんにテレパシーです。
『ねぇねぇ、シロちゃん!』
『何を目で語りかけるでありますか?』
『レッドが釣りに連れてって……って言うから』
『本官釣りはちょっと……』
でしょうね、シロちゃん釣りというより射撃ですもんね。
「ねぇねぇ、ポン姉~」
「レッド、なんでわたしに言うんですか?」
「ポン姉がくわしそうだから~」
「む~」
わたしがうなっていると、コンちゃんが釣り竿を、シロちゃんがお弁当と水筒を持って来ました。
二人はわたしを追い出したいようです。
レッド、わたしのスカート、強く引っ張ります。
「ねぇねぇ、ポン姉~」
「しょうがないですねぇ……」
釣り竿はレッドに手渡して、わたしはお弁当を手にお店を出ます。
レッドの持っている釣竿を見て……そーです、釣りの先生がいました。
川に行く前に、お豆腐屋さんに寄って行きましょう。
そう、釣りといえばポン吉ですよ!
「ぽんた、ぽんきち、すきすき~」
お豆腐屋さんでポン吉をゲットするつもりが、レッド、ポン太も引っ張ってきました。
どーせポン太の眼鏡のせいです。
まったく眼鏡スキーですね。
「ごめんね、ポン太、本当はポン吉だけでよかったんだけど」
「いいですよ、ポン姉、たまには気分転換」
「そう言ってもらえると助かるけど……」
って、ポン吉が頬を膨らませて、
「なんだよ、オレには言葉ないのかよ」
「こーゆー事は遊びの天才にってね」
「それって褒め言葉なのかなぁ~」
「素直に受け取っていればいいんですよ」
ポン吉、口ではそんな事言ってますが、釣りに行くのは嫌じゃないみたいです。
足取りが軽いかるい。
「この辺の川は魚がたくさんいて楽しいぜ」
「さすが釣りキチ、頼みましたよ~」
「でも、レッドは小さいから、危なくないところに行くぜ」
って、行ったのはバーベキューなんかする川原なの。
ここなら泳いでもいいくらい、川の流れもゆるやかですよ。
「オレは釣るぜっ」
「まけませぬっ」
ポン吉とレッド、火花散らしてます。
早速ポン吉は竿を繰り出しました。
レッドはポン太に手伝ってもらいながら開始。
わたし……なにもする事がないですね。
体操座りでぼんやり見守ります。
川のせせらぎが……
「おかしいっ!」
ポン吉、釣り糸垂らして一分もしてないと思うんだけど、
「おかしいっ! 釣れないっ!」
「ちょっ……ポン吉、その台詞は早くないですか?」
「いや、この辺は入れ食いが普通なんだよ、誰も釣らないから警戒心ないから」
「い、いや……それでも早いでしょ」
わたし、ポン太に同意してほしくて目を送るけど、
「この辺は確かに、すぐ釣れるんだけど」
ポン太まで言ってます。
「本当ですか?」
「夕飯の魚をここで釣るから……ボクでも簡単に……」
って、ポン太・ポン吉の目が大きく見開かれました。
なにか「コワイもの」でも見るかのような……
でも、コワイコワイのおじいちゃんの家からは遠いですよ。
「ぽぽぽポン姉……ポン姉……ポン姉……」
ポン吉は名前を呼んでばかり。
「ああああれは? あれ? クジラ?」
ポン太も焦りまくりです。
クジラ……ですか?
わたし、二人の視線の先を……いました、ヌシです。
神社の池に住んでいる白い大ナマズ。
どこがどー繋がっているかわかりませんが、この川にも現れるんです。
ヌシ、ポン吉とレッドの釣り糸垂らしている近くに浮上して、じっとこっちを見ているの。
「ポン姉、オレ、川にクジラなんて知らないぜ!」
「ボクも……聞いた事ないです……」
「これはヌシですよ、神社の池と川を行き来するんです」
「ヌシ……」
ポン太もポン吉も、おっかなびっくり手を伸ばします。
ヌシの体を触っていると、
「コンニチワ」
「うわ、しゃべった!」
「こ、この魚はしゃべるんですか!」
「そーですよ、ヌシはしゃべれるんです」
ポン吉、びっくりしながらも触り続け。
ポン太は眉をひそめてわたしに、
「この村は……不思議がいっぱいですね」
「そうですか?」
「ポン姉なんかはボク達と一緒で化けタヌキだけど……」
「?」
「レッドにコン姉やシロ姉、それにミコ姉に温泉の神さま」
「そう言われると……いろいろいるかも」
「この白ナマズもクジラみたいに大きいし……」
「まぁ、いいじゃないですか」
しかし……びっくりする二人をよそに、釣り竿を握っているのがレッド。
じっとウキを見て、微動だにしません。
ポン吉はポツリと、
「ヌシがいると、魚は来なさそう」
「オジャマ?」
「え……」
「オジャマ?」
ポン吉の言葉にヌシは涙目。
困ったポン吉、わたしに目で、
『なんだかジャマって言いにくい~』
『ですね~』
わたし、ポン太に助けて目線を送ります。
ふふ、眼鏡タヌキ、すぐに考える顔になりました。
ポン太、ゆっくり周囲を見回して、頭上に裸電球点灯!
ポン吉の釣り竿持って流れの緩やかなところへ。
覗き込んで、糸を垂らします。
「あ!」
わたし、ついつい声出ちゃいます。
一瞬竿がピクリとして、ポン太がゆっくり竿を上げると、エビが釣れました。
わたし、すぐにレッドの肩をゆすります。
「レッド! レッド!」
「ポン姉なになに~」
「あれ見て、あれ!」
「!」
レッドもポン太のエビ釣りを見ます。
途端に釣り竿を持って駆け出しました。
「ぼくもやるー!」
エビなら、ヌシがいても釣れそうですね。
「うまうまです!」
今日の夕飯はエビフライです。
レッド大喜び、わたしも超嬉しい。
「レッドのおかげですね」
「ポン姉、もっとほめてくださいな」
「さすが、レッドさま」
「えび、たくさんたべてください」
「いただきま~す」
でもでも……ちょっと変ですよ。
エビはたくさん釣ったけど……テーブルに並んでいるのは大きいような……
『ミコちゃん、エビはレッドの釣ったの?』
『ううん……違うけど』
『え……やっぱり……このエビは?』
『冷凍食品よ~』
『レッドのエビは?』
『小さいのが多かったから、明日にでもかき揚げにするわ』
まぁ、レッドにわかってないからいいですかね。
「でもでも~」
「レッド、どうしました?」
「おさかなはつれず~」
「お、覚えてたんですか?」
「こんどこそおおものです」
「でも、レッド……」
「なんです?」
「大物ってさ、ヌシの事?」
「!!」
「ヌシ、かわいそう~」
レッド、悩みながらエビフライ食べてます。
「ぼく、えびつりでがまんします~」
そーですよ、本当の魚釣りはまだレッドには難しいんです。
エビ釣りくらいで我慢しててください。
「お昼、ゴチになります」
「ふふ……でも、味が口に合う?」
「なんでです?」
「だって……老人ホームの食事は薄味だから」
「おいしいですよ~」




